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【第一章終了】千紫万紅の吸血鬼  作者: 小松羽咲/了一
【第一章】君と僕のさよなら
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今宵、王と惨劇のワルツをⅦ

 蒼羽は幸い軽傷だったため目を覚ました翌日には退院することができた。

 千草はいつもの暑苦しさを取り戻していたが、それなりに重傷だったこともあり、まだ退院はできないらしい。蒼羽と帰ると駄々をこね、病院の人に宥められていたのを見て蒼羽は全力で他人のふりをしたくなった。


 入院していた時の荷物は寮に送ってもらえるらしく、身一つで退院した蒼羽は私服で街に訪れていた。

 絲も一緒に来たがったが、あの凄惨な現場にいた彼女を連れていく気になれず、寮の部屋で待つよう伝えた。


 重い足取りをなんとか進め、広場へと向かう。

 出店が並ぶ灯り、人々の楽しそうな笑い声、提灯の煌めき。

 目を瞑ると、全てが今もあるような感覚に陥る。


 悼む姿を見せる反面、街は軍を中心にすでに復興に動き出していた。

 多くの人が亡くなったが、吸血鬼が現れたのは広場のみだったため、犠牲者は限定的だったらしい。人々の表情は晴れやかではないものの、街は緩やかに動き始めている。


 広場は既に清掃が行われ、建物の補修がされていた。隅には献花台が設置されている。

 献花台には様々な花、子供向けの菓子などが供えられており、年齢性別問わず様々な人が亡くなったことを嫌でも感じてしまった。

 街の人だけではない。

 一緒に戦っていた仲間を何人も失ってしまった。

 みんな、家族のように、兄のように接してくれた人達だった。


「古賀さん……」


 てっきり千草と同じようにしぶとく生きているものだとばかり思っていた。

 蒼羽は涙が出そうになり、顔を伏せ唇を強く噛んで拳を握り締めた。


「死ぬなよって古賀さんが言ったじゃんか」


 古賀が千草を助けたおかげで千草は一命を取り留めたと千草から聞いた。

 自分のことは二の次、いつも他の人を優先する、古賀はそういう人だ。


「自分が死んでどーすんだよ……」


 ――蒼羽


 思い出す彼はいつも笑顔だ。


「馬鹿野郎……」


 もう帰ってはこない。古賀だけじゃない、失った仲間はもうあの寮に帰ってくることはないのだ。

 分隊長に怒られて慰められることも、一緒に幽霊を怖がることも、一緒に食堂で料理を食べることも、いなくなった仲間とはもうできない。

 決して変わることのないその事実が蒼羽の心に重くのしかかっている。


「これから俺ができることってなんだよ、兄貴……」


 蒼羽は答えの出ない問いを小さく地面に吐き捨てた。

 自分は兄のように強くない。光にはなれない。


 地面を見つめたまま献花台の前に立っていると、後ろから誰かに羽織を引っ張られ、蒼羽は慌てて顔を上げた。

 振り返った蒼羽の瞳に、少し恥ずかしそうな表情の小さな茶髪の男の子が映る。


「あ、あの」

「ん? どうした?」


 もじもじしている男の子の背丈に合わせてかがみ、蒼羽はどうにか笑顔を作り首を傾げた。

 どこか見覚えのあるその子は右の手のひらを差し出した。


「これ! あげる!」


 そこには奇麗な包み紙の小さな飴玉が乗っていた。

 蒼羽は状況がつかめず目を瞬かせる。


「もらっていいのか……?」

「うん、あの時助けてくれてありがとう」

「え……」


 目の前の男の子と、あの時転んでいた男の子が重なる。

 間違いない。この子供は、広場の惨劇の時に吸血鬼から助けたあの子だ。

 蒼羽は飴玉を受け取り、反対の手で男の子の頭を撫でた。


「どういたしまして」


 ――俺が救えなかった命を君は救った、それも事実だ。


 小暮の言葉に色がついていく。


「こっちこそありがとうな」


 生きててくれて。

 蒼羽は心の中で続きを告げてほほ笑んだ。


「今度はお前が家族を守ってやれよ」

「うん! じゃあね!」


 男の子は満面の笑みで頷くと母親と兄弟の元へ駆けて行った。

 小さな背中を見送る蒼羽の心に小さな一つの光が灯ったように感じた。


 ――やるじゃねえか、蒼羽。


 古賀にそう言われた気がして、蒼羽は涙をため空を見上げた。


「うっせーよ、古賀さん」


 空は青く晴れ渡っている。

 事実は変わらない。

 失ったものも自分の弱さも。この胸の痛みもきっと消えることはない。

 多分とうぶん立ち直ることも難しい。

 自分は光にはなれないかもしれない。

 それでも、目の前の小さな光を一つくらいなら守ることができるのかもしれない。


「……明日を、見なきゃな……」


 蒼羽はつらい気持ちを呑みこみ、何かを決意するように呟いた。









 男の子が母親の元へ戻ると、母の隣にいたもう一人男の子が笑顔で声を掛けた。


「じゃぁ、僕もそろそろ行くね」


 その言葉を聞き、茶髪の子は母親と手をつないだ後首を傾げる。


「お母さんいたの?」


 質問された黒髪の子は困ったように笑った。


「えっとね、お父さんが待ってるんだ」

「そうなんだ、見つかってよかったね!」

「うん、迷子の時助けてくれてありがとう」

「どういたしまして」


 じゃあねと言い合い、少年たちは笑顔で別れる。

 黒髪の少年はしばらく茶髪の親子を手を振りながら見送っていたが、親子の姿が見えなくなるとすぐに口角を下げた。

 彼は声の高さを下げ、嘲笑しながらため息をつく。


「ほーんと、人間ってどいつもこいつも反吐が出るほど楽観的だよね」


 親子とは反対方向に歩きながら小さく彼は歌いだした。


「お馬鹿な家畜は歩き出す〜戻れない〜もう戻れない〜、汚い家畜はさようなら〜いずれは綺麗に皆殺し〜……ははははっ、ようこそ、こちらの世界へ。」

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