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【第一章終了】千紫万紅の吸血鬼  作者: 小松羽咲/了一
【第一章】君と僕のさよなら
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争闘のナースⅢ


絲はうるさく鳴り響く鼓動を抑えるよう胸に手を当て深く深呼吸をする。

何分蒼羽と違う部屋で寝るのは初めてだ。ましてや知らない人と寝泊りなんて緊張して寝られそうにない。


「失礼、します」


絲は小さく声を掛け、ノックした扉を開けた。


「……?」


彼女は目の前の光景に困惑していた。


確かにそこは広めの部屋だ。テーブルや椅子があり、談話室のような雰囲気がある。

だが、肝心の寝る場所は見当たらない。

代わりに奥の壁に同じようなデザインのドアが四つ並んでいた。

絲が何より困惑したのは先に部屋に来たはずの救護班が誰一人としていないことだった。

テーブルの周りをぐるっと一周したり下を覗き込んでみたりしたが、やはり誰も隠れてはいない。


この部屋にいないということはドアの向こうだろうか。

そこまで予測できても、どのドアの向こうか、ドアは勝手に開けていいのかは分からない。

絲が悩んでいると一番左のドアが音を立てて開いた。


「やっと来た。あんたは私と同室よ!」


ドアから顔を覗かせたのは千代だった。

知っている顔に安堵する絲。

千代に呼ばれ、一番端の部屋のドアを通って室内に入った。

中は二段ベッドと小さなラグ、座布団があるのみで蒼羽の部屋と比べるとかなり狭い。おそらく他のドアの向こうにも同じような部屋があり、お茶などはさっきの広い部屋、共用スペースでするのだろう。


「あんたは下、私が上のベッドで寝るから。それでいいわね」


ベッドを見ると既に上段には千代の荷物が乗せられている。配置は決定事項のようだ。

絲が頷くのをみて、千代は不満げな顔で鼻を鳴らした。


「返事くらいしなさいよ!」

「……! はい!」


千代のイライラした声色に絲は思わず肩を揺らした。

千代はそれを見て狼狽し、視線を泳がせる。


「べ、別に怒ったわけじゃ、ない……」


小さくなっていく声と共に彼女は目を伏せてため息をついた。


「あなたが悪いわけじゃないものね。あたって悪かったわ……」


千代はそう言った後座布団の上に正座をした。

絲もベッドの下段に荷物を置き、千代の向かいにある座布団にちょこんと座る。


「蒼羽はね……私の、王子様なの」


千代が小さく呟いた言葉に絲は首を傾げた。


「王子、様?」

「そう、王子様」


恥ずかしげもなく、まっすぐ絲を見て言う千代の瞳はキラキラと輝いている。


「あなた、蒼羽が軍に来た時のこと知ってる?」


千代の問いに絲は首を横に振る。

蒼羽と会話はするが、彼は自分のことはほとんど語らない。過去については尚更だ。


「蒼羽はね、六歳の時に軍に保護されたの」


千代は昔を振り返るように目線を上に向けた。



――蒼羽が六歳で軍に来た時、私は四歳だった。


その頃の吸血鬼専門部隊司令官が私の叔父さんで、なついてた私は本部や寮によく遊びに行ってたんだけど、蒼羽の第一印象は正直こわいだった。

ボサボサの切り揃えていない髪、人を寄せ付けない雰囲気……鋭い目で睨まれた幼い私はすぐに泣き出してたわ、意外でしょ?


蒼羽は森のずっと奥の方にお婆さんと二人で住んでたらしくてね、蒼羽が出かけてる時に吸血鬼が家に来てお婆さんは襲われたんだって。

争った時に火が燃え移ったみたいで、家屋は全焼。ひらけたところで風もない日だったからか森には燃え移らなかったらしいの。それが発見をさらに遅らせたらしくて。

蒼羽はあてもなく森の中を彷徨って、今のお兄さんが見つけて軍に保護されたって聞いたわ。


最初はこわい印象だったけど、日が経つうちに少しずつトゲトゲしさがなくなっていって、私が遊びに行くと挨拶くらいならしてくれるようになったの。

そんなある日、私は森で迷子になった――



「私はそこで吸血鬼に襲われたの」

「吸、血鬼?」


絲が目を丸くして尋ねると千代は苦笑しながら頷いた。


「そうよ。で、そこに蒼羽が颯爽と現れて助けてくれたの」


――この馬鹿!そんな……


当時を思い出したのか千代は愛おしそうに小さく笑っている。


「まぁ、言ってることは全然王子様じゃなかったけど」


千代のその柔らかな表情が絲にはとても可愛らしく思えた。


「あの日から蒼羽は千代の王子様なの」


千代は嬉しそうにそう語った。


「絲、分かる。あお、かっこいい。王子様」


絲が返した言葉に一気に千代の顔が曇る。


「あんたには分かんなくていいの! 蒼羽は私の王子様なの!」

「? 分かんない、いい?」


急に怒り出した千代に混乱する絲。

千代は不機嫌そうなまま腕を組んで横を向いてしまった。


「もういい、寝る」


そのまま二段ベッドの上段に上り「ランプ消しておいてよね」と捨て台詞を残した後、彼女は布団にもぐってしまった。


絲は嵐が駆け抜けて静かになった部屋の中で少しの間呆然としていたが、我に返りランプを消すとベッドの下段にもぐりこんだ。


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