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【第一章終了】千紫万紅の吸血鬼  作者: 小松羽咲/了一
【第一章】君と僕のさよなら
35/63

写真館のマドンナⅢ

 店内から出てきた魂が抜けたような蒼羽に清親は控えめに声を掛ける。


「おい、大丈夫か? 相当悪いお告げが……」

「え、あ、そうだな。あれは悪魔だ」


 あの金額、しばらくは何も買えない生活になりそうだ。


「とりあえず日が暮れるから写真館に戻るぞ」

「結局収穫なしか」


 それぞれ別の理由で肩を落とす二人は重い足取りで写真館へ向かった。


 写真館の前では絲達が待っていた。

 本を抱えた絲の横に、不機嫌そうな表情で莉麻が仁王立ちをしている。


「遅い!」


 二人の姿が見えるなり莉麻が叫んだ。

 そんな莉麻の態度に蒼羽はある考えが浮かび顔を歪める。


「え、まさか撮り直し……」

「いや、撮り直しじゃない」


 違うと聞いてほっとすると同時に、心当たりがなくなった蒼羽は首を傾げた。


「じゃ、なんだよ?」


 莉麻は蒼羽の前に手を出す。この状況、既に本日体験した気がする。


「お代。まだもらってないぞ」

「あんのクソ兄貴」


 蒼羽は思わずそう呟いていた。もちろん蒼羽は今全くお金を持ってない。


「悪いけど今持ち合わせがない。明日必ず兄貴に持って来させるから待ってくれ」


 莉麻は蒼羽の言葉に「本当か?」と尋ねながらも了承の返事を返した。


「じゃぁ、俺達はこれで」


 もう色々と今日は疲れた。早く帰って少しでも休んでから巡回に臨みたい。


 絲と寮へ帰ろうとした時、呼子笛の高い音が辺りに響いた。

 呼子笛を使っているのは軍の吸血鬼部隊ではなく、対吸血鬼用の武器を持たない警備隊だ。

 蒼羽は舌打ちして走り出す。

 呼子笛が鳴らされたのはすぐ近くだ。今は巡回担当じゃないが様子を見に行かないと落ち着かない。


「うわぁ! 来るなあ!」


 角を曲がると警棒で戦おうとしている警備隊の男性が見えた。

 灰色の髪をした吸血鬼には血は付着しておらずまだ誰も襲っていないようだ。

 吸血鬼はすぐに男性に飛びかかった。

 が、その鋭利な爪が男性に突き刺さることはなかった。


「よぉ、吸血鬼」


 蒼羽が刀で吸血鬼の攻撃を受け止めていたからだ。

 蒼羽は間に合ったことに安堵し小さく息を漏らす。攻撃を刀で受け止め吸血鬼を睨みつけたまま後ろに声を掛けた。


「おい、お前邪魔だから早く逃げろよ」

「は、はいっ!」


 男性が逃げたのを確認し、刀を持つ手に力をこめる。

 しかしいつものようにすぐに吸血鬼に競り勝つことができない。

 互角の力をぶつけ合い、いったんお互いに距離を取る。

 おかしい。喋れる吸血鬼ではないのに、力、スピード、戦い方、全てが少しだけだがいつもより上な気がする。


「俺が疲れているからそう感じるだけなのか?」


 確かに少し疲れているが本当にそれだけなんだろうか。

 吸血鬼は距離を取った後すぐに蒼羽に向かってきた。相当腹ペコらしい。

 蒼羽は向かってきた吸血鬼を刀で受け流し背後に回る。

 すぐにこちらを向くと思われた吸血鬼はそのまま突っ走っていく。

 腹がすいた吸血鬼が逃げ出すわけがなく、蒼羽を無視してどこかに行くとも思えない。

 困惑する蒼羽は吸血鬼の向かう先に絲達三人の姿が現れたのを見て、慌てて走り出した。


「あんの馬鹿ども!」


 間に合うか微妙な距離。だが間に合わせるしかない。


「うわぁ!」

「いやあぁ」


 清親と莉麻の叫び声が響く。襲い掛かろうとする吸血鬼を見て二人は思わず頭を抱え目を瞑った。

 けれど二人に衝撃はやってこない。

 恐る恐る目を開くと、吸血鬼の胸には蒼羽の刀が刺さっていた。

 吸血鬼はそのまま灰になって消えていく。


「おまえら怪我っ、ないか」


 少し息を切らしながら蒼羽が尋ねると、清親と莉麻は目を丸くし蒼羽を見つめた。

 絲は二人の後ろから蒼羽に駆け寄る。


「あおっ、けがない?」

「それ、俺が聞いたんだけど」


 蒼羽は呆れた笑顔を絲に向けた。

 三人に怪我がないと分かると蒼羽は安心してほっと息をついた。


「お前ら、なんでここにいんだよ」


 呆れ顔の蒼羽の質問に絲が答える。


「あお、心配、来た」

「俺は吸血鬼と戦えるから大丈夫なんだよ! お前らみたいな戦えない奴らが来たら危ないだろ⁉」


 説教を受け、絲は顔を俯かせた。

 が、反省したのは絲のみだったらしい。後の二人は何故か目を輝かせている。

 蒼羽は嫌な予感がし、目元をひくつかせながら尋ねる。


「な、なんだよ……」


 そんな蒼羽に向けて清親が興奮気味に言葉を放った。


「お前すっげー! 画材がないのが残念だ、この凄さを絵ですぐに表したい!」

「いや、お前」

「本当だ! 撮影機材がなかったのが悔やまれる。次こそは肌身離さず……」

「お前らな! 危険なんだっつの、本当に分かれよ!」


 蒼羽の説教は二人には全く届かないらしい。

 感動して感想を言い合う二人を見てがっくりと肩を落としていると、慌ただしい足音が聞こえてきた。


「おや、蒼羽、奇遇だね?」


 今一番聞きたくない声が降ってきて、蒼羽は体を震わせる。


「いいいいい壱岐兄⁉ なんでここに? 十番隊の巡回はまだ」

「あぁ、九番隊の分隊長が昨日の戦闘で少し怪我をしてね。俺が駆り出されたってわけだよ、前残業だ。ここには警備隊の彼に呼ばれて来たんだ。あと今勤務中だから上司には敬語」


 彼の表情は笑顔だが明らかに機嫌が悪い。

 九番隊と共に駆けつけたのは蒼羽が所属している十番隊の分隊長、壱岐だった。

 先程逃げた警備隊の男性は壱岐を見つけてここまで案内したようだ。


「で? 勤務前の蒼羽がなんでこんな場所で油売ってるのか理由を教えてもらってもいい?」


 笑顔なのに笑顔じゃないその表情に蒼羽は泣きそうな気持ちになりながら答える。


「け、警備隊の笛の音が聞こえて様子見に来たら危なそうだったから、つい……」

「つい?」

「か、刀を抜きました」


 蒼羽の言葉はだんだん小さくなっていく。

 壱岐は呆れ顔でふぅと息を吐いた。


「まったく、お前は本当に……一般人まで巻き込んで」


 清親達を見る壱岐に蒼羽は慌てて抗議の声を上げる。


「あいつらは勝手にここに」

「はい、言い訳しない」


 抗議の声はばっさり切られてしまい、蒼羽は苦虫を嚙みつぶしたような顔で清親達を見つめた。


「お前らなぁ」

「一般人に怒鳴らない」

「うっ……はい」


 壱岐には勝てそうにないと思いながら頷く蒼羽に絲が駆け寄る。


「あお、帰る?」

「おー……そうだな、もうすぐ巡回だし帰るぞ」


 とぼとぼと寮に向かおうとする蒼羽の背中に壱岐の言葉が追い討ちをかける。


「蒼羽、今日は罰として十四番隊の担当まで巡回だ」

「なんで⁉」


 驚いて振り返る蒼羽ににっこり笑って壱岐は告げる。


「一般人を危険にさらした罰」

「……理不尽すぎる……」


 決定した残業に落ち込む蒼羽は先程より重い足取りで帰路に就く。


「また明日な!」

「俺はもう明日お前らの顔見たくねー!」


 清親の言葉に言い返す蒼羽に


「一般人に怒鳴らない!」

「はい!」


 再び壱岐の叱責が飛んできたのだった。


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