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【第一章終了】千紫万紅の吸血鬼  作者: 小松羽咲/了一
【第一章】君と僕のさよなら
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閑話:本日弟誕生祭Ⅲ

「で、なんで俺達は置いていかれたんだろーな」

「ぱん、美味しい」


 俺と絲は何故か木村ぱん店の近くのベンチに座りあんぱんを食べていた。

 というのも、兄貴にここで食ってから帰ってこいと一つずつあんぱんを渡されたからだ。渡した本人は大量のパンを抱えあっという間に帰ってしまった。


「まぁ、美味かったけどな」


 食べ終わったあんぱんを名残惜しく思いながら立ち上がる。


「そろそろ帰るか」

「うん」


 絲は頷くと餡子を口の横につけたまま立ち上がろうとした。


「お前、ついてんぞ」

「ついてる?」


 本人は口の横の餡子に全く気付いていないようで首を傾げている。


「だからここだって」


 指で口の横の餡子を取ると絲はその餡子をじっと見つめて頬を膨らませた。


「それ、絲の」

「は?」


 絲は自分のだと主張した後すぐ俺の指に食いついた。


「いって……」


 俺の指先についた餡子を無事回収し満足そうに笑う絲を見て、思わずため息を吐く。


「お前は犬か」

「絲、犬、違う」

「はいはい、ほら、帰るぞ」


 俺が歩き出すと絲も後ろからついてくる。

 最初は戸惑いがあったがふた月ほど過ぎた今は絲との生活にすっかり慣れ、絲がいるのが当たり前になってしまった。

 誰かと一緒の生活というのも悪くはない。


 寮につくと意外にも静まり返っていた。

 てっきりめちゃくちゃ騒がしいと思っていただけに拍子抜けしてしまう。

 ただ、裏口は何故か鍵が閉まっていた。鍵を兄貴に預けっぱなしだった俺達は部屋に入れなくなってしまい仕方なく玄関からこっそり入ることにした。あのアホ兄貴本当になんてことしてくれてんだ。


 中に入ったらさすがに騒ぐ声が聞こえるだろと思ったけど、玄関に入っても特に何もない。おかしい。俺の誕生日に兄貴達がこんな静かなのは明らかにおかしい。いや、見つかったら困るから好都合ではあるんだけど。

 不自然さを感じながらも部屋に向かおうと廊下を進みかけた時、向こうから他の兵の話し声が聞こえてきた。


「やべ、絲、こっちだ」


 慌てて近くの部屋のドアを開けて中に入る。

 部屋の中は昼間なのに何故か真っ暗だ。

 その中に謎の明かりが灯っている。


 嫌な予感しかしない。


「えっ、蒼羽、呼んでないのにもう⁉ 始めるぞ! せーの」

「はっぴばーすでーつーゆー」


 兄貴の掛け声で謎の不協和音が聞こえ、体中に鳥肌が立つ。

 肝試しか何かか?


「吹き消せ、蒼羽!」

「えっ」


 急に兄貴の声が聞こえ、反射的に目の前の火を吹き消した。

 一瞬部屋が暗闇に包まれる。


「蒼羽、十六歳の誕生日おめでとう!」


 カーテンが開けられた窓から眩しい光が差し込み先輩兵士達の姿が現れて、驚きで固まってしまった。


「えっと、ありがとう……?」


 どうにかそれだけ絞り出す。

 目の前の吹き消した物の正体は、食べ物らしきものに刺さったロウソクだった。丸くて白いその食べ物の真ん中には外国語で何かが書いてある。


 談話室の中は花屋からもらった沢山の花で飾り付けてあり賑やかな雰囲気だ。壁には蒼羽誕生祭と筆で書いた垂れ幕がさがってる。

 なんだよあれ、すげー恥ずかしいじゃん。


「で、兄貴、何これ?」


 近くにいた兄貴に詰め寄ると、兄貴はにこやかに説明する。


「誕生日パーティーを今年は例年より盛大にしてみたんだ。軍のみんなはもちろん、今日は看護師の二人も来てくれたぞ」

「二人……ってまさか」


 人数を聞いて顔が引きつってしまった。


「蒼羽! おめでと!」

「げ……」


 でかい花束が顔にぶつかった。そのまま抱きつかれて目元がひくついてしまう。

 抱きついてきた予想通り人物を手で押しのける。


「あーはいはい、ありがとな、千代」

「久しぶり、蒼羽!」


 紺色の洋装に身を包み、リボンのついた帽子をかぶったその少女は花束を俺に押し付け嬉しそうに微笑んでいる。

 左右の三つ編みを輪にした髪型の彼女は軍の救護班所属の看護婦見習い、千代(ちよ)、俺より二つ年下の少女だ。

 昔軍にいたお偉いさんの親戚で、昔からここに顔を出していたからたまに遊んでやったりしていた。少しめんどくさい妹みたいな奴だ。

 看護婦とは戦地や支部に行かない限り関わりはないんだけど、こいつとはなんだかんだで遭遇することが多い。


「蒼羽おめでと」

「三咲さん」


 千代と同じ装いの髪をひとつ結びにした背が高い女性、この人が三咲さんだ。


「朝からすみません、兄がお世話になりました」

「いや、蒼羽が謝ることじゃないのよ、後でたっぷりお詫びしてもらうから」


 彼女の笑顔に乾いた笑いを返す。

 以前俺の誕生日会を街でした時、三咲さんを手伝いで呼び出したお詫びと称して兄貴は看護婦寮の大掃除をさせられていた。帰ってきた兄貴は普段の任務よりキツかったって言ってたっけ。


「ねぇ、蒼羽!」


 急に腕を引っ張られ、転ばないように反射的に足を踏ん張る。

 引っ張られた方に視線を向けると、千代が不満げな顔で頬を膨らませている。


「あの子、何なの⁉︎」


 彼女が指さした先は俺の少し後ろ、そこには困ったように瞬きを繰り返す絲がいた。

 そうだ、この部屋に入ったのは祝われるためじゃない。絲がいたから隠れるためにたまたまこの部屋に入っただけだ。なんで忘れてたんだ。


「そうだぞ。このかわいこちゃんは誰なんだ?」


 先輩兵士が絲の肩を抱きながら尋ねてきた。

 その姿になんだか物凄く苛々する。


「別に何でもないよ」


 そう答えながら絲を引っ張り彼から引き離す。


「この子は蒼羽の従妹だ」


 兄貴が後ろから助け舟を出してくれた。

 いや、元々この状況はこいつのせいだから助け船とは言えないかもしれない。


「従妹? でも蒼羽は……」


 他の兵士が兄貴の話を聞き言葉を濁した。


「昔蒼羽が家の近くに女の子がいる家族が住んでたって話してたんだよ。その住んでた家族ってのが従妹家族だったんだ」


 よくもまぁ、ぽんぽんとそんな嘘の設定が出てくるもんだ。

 涼しい顔で説明する兄貴をジト目で見つめてしまう。

 確かに軍に来る前は田舎過ぎて近所の女の子くらいしか遊ぶ相手がいなかった。その話はしたことあるけど、まさか絲が従妹にされるとはな。


「その家族も吸血鬼に襲われて絲ちゃんはご両親を亡くしてな。それがきっかけで上手く喋れなかったり蒼羽と同じく記憶が欠けていたりして、別の施設にいたんだが最近蒼羽の従妹だと分かって俺がまとめて面倒見ることになったんだ」


 兄貴はなんでもない、当然のこととでもいうように笑った。

 絲の面倒見てんのは俺なんだけどな?


「そうなんすね! じゃぁ、絲ちゃんは蒼羽の妹みたいなもんで……つまり俺達の妹ってことっすか」


 古賀さんが兄貴の言葉を要約するように続けた。全然要約になってないけどな。

 赤い頬、こいつはすでに出来上がっている。


「そうだな、みんなの妹だ、よろしくな!」


 兄貴のその言葉に他の兵が返事をする。

 無茶苦茶な展開についていけずため息を吐いた。俺の誕生日はいつもこんな感じでグダグダだ。


「そんなの……ない……」

「千代?」


 さっきまでの笑顔はどこへやら、千代は酒を飲んだわけでもないのに頬を赤く染めて目に涙をためていた。

 かと思いきや、手で涙を払い絲を指さして睨む。


「あなた! ぽっと出なんかに私は負けないから」


 そう言うや否や彼女は走って部屋から出て行ってしまった。


「……なんなんだ?」


 訳が分からず絲と一緒に呆然とその後姿を見つめる。

 よく分からないが、何か気に入らないことがあったのは確かだ。昔、あいつの置いていた菓子を食べてしまった時と同じ行動だからそれに似た類なんだろうけど……今回は勝手に菓子を食べたりしてないし。女子の行動は理解できない。


「あー、あれはだいぶこたえたなぁ……なんで兄弟そろって天然たらしなのかしらね、あんた達」


 三咲さんが俺達と同じように千代の姿を目で追いながら呆れたように呟いた。


「まぁ、いいわ。千代のことは私がなんとかしとく。あんたは主役なんだから今日は楽しみなさい。じゃあね」


 彼女は俺の頭にぽんと手を置いた後、千代を追いかけて扉の外へ消えていった。

 女性にまで頭に手を置かれると嫌でも自分の身長の低さを実感してしまう。

 今日から牛乳飲む量を増やそ……。

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