きみとぼくの再会Ⅵ
「そりゃ知ってるに決まってる。琥珀の君は五人衆の一人だからな」
「五人衆?」
また知らない単語が出て来て蒼羽は困惑する。
「上級の中でも一番上の方、最上級と呼ばれる五人のうちの一人の通り名だ。吸血鬼は通り名がそのまま名前になるらしいがな」
蒼羽は頭の中で今までの琥珀を思い出す。
――いやあ、これ奇麗だね。外国から来たものなのかな?
――やっぱりこれじゃどちらにしろ君への贈り物、になっちゃうかな。
「あれが、最上級……」
にわかには信じがたい。捉え所のない奴だったが恐怖は感じなかった。
むしろ今までの吸血鬼の方が危険度は高そうに見える。
「軍の上層部の人間でも五人衆に遭遇したという話は聞いたことがない。……蒼羽、本当お前よく無事でいてくれたな」
「わ、泣くなよ恥ずかしい」
千草は今更ながら心底安堵したのか蒼羽を抱きしめて泣き始めた。
「はいはい、怪我もなくピンピンしてんだからもう泣くなよ」
自分の周りにはどうしようもない大人が多いなと思いつつ、蒼羽は仕方なく背中を撫でて兄が落ち着くのを待った。
「わ、悪いな蒼羽」
「いいえー」
なんとか落ち着き鼻を鳴らしながら謝る兄に棒読みで答える。
「俺が答えられるのはこれくらいだ。他に聞きたいことはあるか?」
「そうだな……あいつ、琥珀ってやつは今までの吸血鬼と違って、髪も瞳も肌も色が違ったし牙もなかったのはなんでだ?」
琥珀やポムフィの外見は人間と変わらなかった。
一瞬目の色が変わったくらいのものだ。
「それは上級吸血鬼だからだろうな。上級は姿を変えられるから擬態してるんだろう」
「擬態……」
本当にそうだろうか。琥珀が言っていた生まれつきという言葉がなんだか引っかかる。
「仮に擬態していたとして、何の目的で?」
「それは人間を襲うためだろ。警戒心を持たれない方が楽に動けるから当然じゃないか?」
確かに筋は通っている。しかし、素直にそうだと思えない自分がいる。
蒼羽が納得できずに唸っていると絲が心配そうに顔を覗き込んできた。
「あお、大丈夫?」
「あ、うん、なんでもない」
悩んでも答えは出そうにない。最近こんなことばかりだ。
「そうだ、蒼羽、琥珀の君はどんな擬態をしていたんだ?」
「え、なんで?」
蒼羽は戸惑いながら質問に質問で返す。
千草はすっかりいつものペースで勝手に羊羹をつまみ口に放り込んでいる。
「んー? そりゃ、見つけて倒すためだろ。特徴が分かれば見つけやすいからな」
当然と言わんばかりの兄の口ぶりに蒼羽は一瞬動揺してしまった。
そんな自分に嫌悪感でいっぱいになる。
「そう、だよな。俺は吸血鬼が嫌いだ、許せない、絶対殲滅する……でも」
蒼羽はそこまで言って目を伏せた。
「あいつは、相当強いからやめた方がいい。今の俺達じゃ勝てない」
「蒼羽! お兄ちゃんを心配してくれて……!」
勝手に喜ぶ兄を無視してお茶を喉に流し込む。
「……お茶冷めたな。入れなおしてくる」
「あ、じゃあ、聞きたいことがもうないなら俺は風呂入りに行くな」
湯呑の中身を覗き込む蒼羽を見て、千草は立ち上がり椅子の向きを直した。
「おー、早く臭いのどうにかしてこい」
「さっきまで優しかったのに急に冷たくないか⁉」
「うっせ」
いつもの調子の蒼羽に笑いを返し、兄は部屋から出ていった。
千草の足音が聞こえなくなると蒼羽は大きなため息を吐いた。
「あお、絲、お茶、入れる?」
「いや、いいよ、俺がやる。絲は座っとけ」
今も吸血鬼は憎いし倒すべき化け物だと思う。
けれど、それだけじゃない感情が蒼羽の中に生まれ始めている。それが何かは分からないが、押し込めようとしてもじわじわと広がっていきそうで気持ちが悪い。
「あお、大丈夫?」
「え?」
「顔色、悪い」
言われてみれば気持ちが悪い上になんだか体がだるい。
「あぁ、大丈夫だ。今日は少し疲れただけ」
蒼羽はお茶を入れに急須をもって台所へ向かう。
そんな彼に後ろから絲が声を掛けた。
「あお、あの人達、人間襲う?」
「え」
「人間、吸血鬼、仲悪い? 倒す?」
当然と答えようとするのに、何かが喉につかえたように言葉が出てこない。
「あお、お茶」
絲の言葉にハッとし、蒼羽は落としそうになった急須を持ち直した。
「あ、あぁ、お茶な、お茶」
――時が来たらお会いしましょう。
もう一度会えば、会った時にもっと情報を聞き出せば、この得体のしれないモヤモヤは消えるのかもしれない。
次会った時に吸血鬼だと実感できれば今までの吸血鬼と同じように奴らを斬れるのかもしれない。
「早く現れろよ吸血鬼野郎」
蒼羽は低い声で小さく呟いた。




