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【第一章終了】千紫万紅の吸血鬼  作者: 小松羽咲/了一
【第一章】君と僕のさよなら
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きみとぼくの再会Ⅴ

 その夜、蒼羽と絲が買って帰った羊羹をお共にお茶をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。

 蒼羽が返事をしようとするとドアが開き、予想通りの人物が入ってきた。


「だーかーらー、いつもノックしてから入れって言ってんだろ兄貴!」

「しただろう」

「普通返事も含めてノックなんだよ!」


 千草は文句を言う蒼羽を軽くあしらい空いている椅子を反対向きにして腰かける。


「巡回終わってそのまま来たのかよ。せめて風呂入れよ汗臭い」


 蒼羽が顔をしかめると、千草は眉尻を下げた。


「お兄ちゃんにひどいぞ蒼羽ー」


 彼は軍服のままで背中には大剣と大きな銃が背負われていた。馬鹿力の千草は状況によって使い分けをするらしい。戦場では吸血鬼並みに敵に回したくない相手だ。


「あお、お兄ちゃん、優しく!」


 落ち込む千草を見て、絲が蒼羽に訴えかける。

 その様子を千草は鳩が豆鉄砲食らった様子で見つめた。


「え、絲ちゃん、話せるようになったのか⁉︎」

「あぁ、片言だけどなー」


 蒼羽はめんどくさそうにそう付け加えてお茶を一口飲んだ。


「すごい、すごいぞ! もう一回お兄ちゃんって言ってくれ!」


 頭をガシガシ撫でながら喜ぶ千草に、絲は首を傾げる。


「お兄ちゃん?」

「妹よ!」

「変態兄貴、汗臭い体で絲に抱きつくな離れろ蹴るぞ」

「蒼羽、それは蹴る前に言うもんだぞ」


 蒼羽の蹴りが脛に当たった千草は痛みに耐えた笑顔のまま絲から離れた。


「で、用は何だよ。何もねーのに来たわけじゃないだろ?」


 蒼羽は涼しい顔で再びお茶を飲みながら尋ねる。


「あぁ、前に話すって言ってたことの許可が下りたんだ」


 その言葉を聞き、テーブルを両手で叩いて立ち上がった。


「まじで⁉」

「兄ちゃんは他の話題でもそれくらい食いついてほしいぞー。まぁ、それはさておき、長く待たせて悪かったな」


 蒼羽は興奮しながら椅子に座りなおす。


「だが、許可が下りたのはお前だけだ。他の兵には決して漏らすな、いいな?」


 兄の珍しく真剣な顔に蒼羽は深く頷く。


「あ、絲ちゃんは一緒に聞いて大丈夫だぞ。判断能力に欠けているから聞いても問題なしとのことだ」

「何気に失礼だな、上のおっさん達」

「まあそう言うな。教えてもいいって言われたんだから」


 千草は少し笑った後蒼羽に尋ねた。


「で、お前は何が聞きたいんだっけ?」

「兄貴の持ってる情報全部」

「だから、どれから聞きたいんだよ。貪欲だな」


 本日二度目の貪欲の言葉をいただきイラっとしながらも蒼羽は兄の質問に答える。


「じゃぁとりあえず喋って思考する吸血鬼について」

「分かった、そこからな」


 千草は頷くと吸血鬼について話し始めた。


「まず吸血鬼ってやつには階級があるらしいんだ」

「階級? それって、軍、みたいなもんじゃないだろし、華族とかそういうやつか?」

「ビンゴ!」


 蒼羽の答えに千草が嬉しそうに指を鳴らした。

 訳が分からず悩んだ末蒼羽は兄にその意味を尋ねる。


「びんごってなんだよ」

「正解という意味だ」


 横文字を使う兄のどや顔になんとなく腹が立った。


「下級以上の吸血鬼は基本的に喋ることができる」

「下級?」

「ああ」


 千草は手で高さを示し階級制度を説明していく。


「吸血鬼の世界には下級、中級、上級と階級があるらしい。下級にも入れない最底辺、おそらくそれが前にお前が言ってた紛い物、つまり」


 千草は自分の発言に苦笑しながら続けた。


「俺達が今まで対峙していた吸血鬼だ」


 蒼羽はいきなり降ってきた事実に言葉を失った。

 一番下の階級、もしそれが強さを基準にした階級だと仮定すれば、上級の強さはいったいどれほどのものだろうか。

 考えるだけでぞっとしてしまう。

 蒼羽は震える唇を噛んだ後、口を開く。


「その階級は強さで決まってんのか? 考えて行動するのは下級以上ってことか?」

「知能や強さ、能力は階級が上がるに伴って上がる。遭遇したことがないから分からないが、中級以上は人間と変わらないらしいぞ。上級は日中に活動できるとも聞いたな。まあでも、階級は生まれながらにして決まってるって話だ。血筋てやつだな」


 蒼羽の中の今までの吸血鬼のイメージと明らかに違う話に頭が混乱しそうになり、蒼羽は必死に思考を巡らせた。


「なんで、軍はそんな情報知ってて隠してんだ? どこから得た情報なんだ?」

「それは残念ながら俺ごときには知らされてないんだ。気にはなるけどな」


 千草は残念そうに肩をすくめる。

 嘘をついてるようには見えない。おそらく本当に知らないのだろう。


「兄貴……」

「ん?」

「実は、今日の昼間、また吸血鬼に会ったんだ。その……喋れる奴に」


 急にされた報告に今度は千草が慌てて立ち上がった。


「名前、何て言ったっけな……あ、そうだ、琥珀、琥珀の君って」


 蒼羽がその名前を出した瞬間、兄貴はこれでもかというほどべたべたと蒼羽に触り始めた。


「なっ、ちょ、やめっ……やめろって!何すんだ!」


 しまいには服をめくられ蒼羽は兄の頭に拳を落とした。

 千草は椅子に座る蒼羽の前にしゃがみ、泣きそうな顔で蒼羽を見上げる。


「だ、大丈夫だったか⁉ 怪我とかしてないか⁉ そいつと戦ったのか⁉」

「はぁ?」


 蒼羽は日中の出来事を思い返す。

 思い返してみても自由奔放な吸血鬼達の行動にイライラするだけだった。


「いや、何も。蕎麦一緒に食わされて、百色眼鏡とでんでん太鼓買わされて、振り回されただけだ」

「振り回されたって蒼羽がか⁉」

「言っとくけど、兄貴が想像してるような物理的な振り回されたじゃないからな」


 足を掴まれぶんぶんと振り回される自分を確実に想像している兄に訂正を入れる。


「蕎麦に百色眼鏡にでんでん太鼓って、本当に琥珀の君なのか? 蒼羽、街の人に騙されただけじゃ」

「俺もそう思いたいけど、たぶん奴は本当に吸血鬼だ。連れも確実に化け物だった」


 彼らは人間のように振舞っていたが、明らかに人間離れしたことができる化け物だった。


 ――人間だって豚や牛を食べるのに、ボクらは人間の血を飲むから化け物なのー? だったら君ら人間も化け物だね。


 ポムフィの言葉が頭に響いている。


「人間に害をなす化け物に決まってんじゃん」


 蒼羽は迷いを潰すように小さく呟いた。


「あれ、そういえば兄貴はなんで琥珀の君を知ってんだ?」


 千草は蒼羽がどこも怪我をしていないことを確認し安心したのか椅子に再び腰かけた。


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