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【第一章終了】千紫万紅の吸血鬼  作者: 小松羽咲/了一
【第一章】君と僕のさよなら
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きみとぼくの再会Ⅲ

「おい……おい!」

「え、なんだい?」

「なんだいじゃねーだろ、なにやってんだよ!」


 蒼羽は目の前の人物に抗議の声を上げた。

 その人物は気にする様子は全くなく、先ほど購入した百色眼鏡を楽しそうに覗き込んでいる。


「いやあ、これ奇麗だね。外国から来たものなのかな?」

「ああ、それ百色眼鏡だろ。それ前はかれいどすかふって言われてたらしくて……じゃなくて!」


 彼のペースに巻き込まれそうになり、蒼羽は首を大きく横に振った。


「なんで楽しく買い物してんだ! 連れを探すのが目的だろ!」


 蒼羽の発言にその人物は動きを止める。


「……そうだったね」

「なんでそんな一瞬で忘れられるんだ?」


 今思い出したようなその発言に蒼羽は突っ込まずにはいられなかった。

 彼は唐突に百色眼鏡を上に放り投げる。

 蒼羽はすぐにその行方を視線で追ったが百色眼鏡は何故か消え去っており、落ちて来た様子もなかった。実はこいつ吸血鬼じゃなくて奇術師か何かなんじゃないだろうかと疑いそうになる。


「さて、じゃぁ探しましょうか」


 彼はそれだけ言うと目を瞑り黙り込んだ。

 蒼羽はその姿に困惑する。じっとしたまま目を閉じてどうやって人を探すつもりだろうか。

 しばらくそうした後、彼はゆっくり目を開いた。


「僕の連れ見っけ」


 彼は嬉しそうににっこり笑う。

 どうやって見つけたのかは全く分からないが、今問題なのはそこじゃない。


「いや、お前の連れじゃなくて俺の連れを」

「それがどういうわけか一緒にいるようなんだ。お姫様怪我してるみたいだから一緒でよかったよ」


 彼は喋りながら蒼羽に手を伸ばす。

 警戒した蒼羽は刀に手を添える。


「今切られたら困っちゃうなあ。お姫様が私の連れと一緒にいるってどういうことか分かるかい?」

「くっ……卑怯者め」


 絲を危険にさらすわけにはいかない。まんまと人質に取られたというわけだ。


「まぁ、君にも彼女にも何もする気ないんだけどね。だから安心してよ」


 そう言いながら背広の男は手首の手拭いを解き瞬時に蒼羽を肩に抱えあげる。


「なっ、何すん」

「暴れると落ちるからじっとしててね」


 彼が言うと同時に息ができないほどの突風が巻き起こった。

 あまりの風圧に蒼羽は思わず目を閉じる。


「はい、ついたよ」


 地面に足がついた感覚と共に目を開くと、そこはさっきいた場所とかなり離れている菓子屋の前だった。

 目の前には絲と外国人の少年がいる。何が起こってこうなったのか頭がついていかない。


「あ、アンバー発見! てゆーかボクが発見されたのかぁ」


 少年は金色の髪を揺らしながらこちらへ駆けてくる。


「ポムフィ様、勝手に動かれては困りますよ」


 背広の男は困ったような笑顔を浮かべため息をついた。

 少年の後ろを絲が走って追いかけてくる。


「絲、怪我したのか⁉」


 膝に滲む血に気づき少年を睨みつける蒼羽を見て、絲は一生懸命首を横に振った。

 睨まれた少年は不服そうに頬を膨らます。


「そうだよ、ボク何もしてないよー。むしろクソ野郎どもからこの子を助けてあげたんだから感謝してほしいくらいだよ?」


 天使のような容姿で汚い言葉を吐く少年に蒼羽は訝し気な視線を送った。


「絲、そうなのか?」


 絲は何度も頷いた。

 蒼羽は納得いかない表情だったが少年の方を向き口を開いた。


「ありがとう」

「うっわ、すっごく嫌そうな顔で棒読み」


 蒼羽の反応が面白かったようで少年は怒ることなくケタケタ笑っている。


「アンバー、この子達何なの? なんか面白い匂いするね」

「んー、さぁ? 君達って結局何なんだっけ?」


 悪意を感じる言い方だが、確かにお互いのことは何も明かしていない。むしろ吸血鬼にわざわざこちらのことを教える必要はない。

 蒼羽は眉間のしわを深くする。


「吸血鬼に名のる名なんかない。だいたい人に聞く前に自分から名乗るのが礼儀だろ」

「ははははっ、だってアンバー!」


 少年は背広の男が注意されたのがかなり面白かったのか楽しそうに笑い続けている。


「お前もだぞ」

「え? ボク?」


 笑い声を止めた少年は愛らしい瞳を揺らし首を傾げる。


「ボクはポムフィだよ、ポムフィ・マットドラド。ポムとかフィーとか呼んでいいよー」


 ポムフィは可愛らしい笑顔のまま楽しそうに自己紹介を続ける。


「アンバーより年下だけど腕は確かだよ。あ、あと鼻がめちゃくちゃいい!」


 喋りながら絲の方に行き、彼女を見て口を尖らせる。


「おねーちゃん、契約済みなの残念だよー。でもまぁ郷に入っては郷に従えだからね。外に出るなら遠慮なくもらうけど今は仕事で来てるし。僕じゃアンバーに勝てないし何よりキングに殺されちゃ」

「ポムフィ」


 彼の自己紹介はアンバーと呼ばれた背広の低い声に阻まれた。


「喋り過ぎだ」


 笑顔なのに目が笑っていない。

 ポムフィは笑ったまま口を押えるしぐさをした。


「おっとぉ、あんまり喋るとボク殺されちゃう。こわいこわーい」


 吸血鬼の口にする感情と実際の表情はちぐはぐだ。むしろ楽と怒の感情以外が感じられない。


「ねぇ、アンバー。ボクおねーちゃんと一緒に街を見て回りたいなぁ、いいでしょー?」


 ポムフィは絲の腕にするっと自分の腕を回す。


「おっまえなぁ!」


 蒼羽がすぐに離そうと引っ張るがぴったりとくっつきなかなか離そうとしない。


「絲から離れろ!」

「えー、やだよー。いいじゃん、貸してよぉ」

「貸せるか! 物じゃねーよ!」


 背広は少し考えたそぶりを見せ、頷いた。


「じゃあこうしよう。僕らに付き合ってくれたら君に一ついいことを教えてあげよう。君、知りたいんだろう?」


 何故そのことを吸血鬼が知ってるのか分からないが確かに情報は欲しい。


「取引か」

「そうだね」

「絲は安全なんだろうな?」


 蒼羽の確認にもう一度背広が頷く。


「それは保証するよ」


 胡散臭い笑顔をどう信用しろというのだろう。

 蒼羽が腕を組んで悩んでいると、絲が蒼羽の袖を引いた。

 絲は腕に絡まるポムフィの頭を撫でている。


「まさか……絲は賛成なのか?」


 その質問に絲は少し間を置いた後、頷いて肯定を示した。

 蒼羽は自ら吸血鬼と行動しようとする彼女に開いた口が塞がらない。


「お姫様は構わないようだけど王子様はまだ決断する勇気が出ませんかねぇ」


 背広が余裕の笑みを浮かべるのを見て、蒼羽はなんとなく腹が立ち


「分かった、取引成立だ」


 気がついたらそう口走っていた。

 蒼羽は後にこの発言を後悔することとなる。

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