きみとぼくの再会Ⅱ
その頃、絲は蒼羽を探しきょろきょろと辺りを見回していた。
似た人を見かけ追いかけるが別人ということを繰り返し、よく分からない細い路地にたどり着き、本当に迷子になっていた。
「お嬢ちゃん、こんなとこで何やってんだ?」
近くにいた男性が絲の顔を覗き込んだ。絲の知らない、ガラの悪い男だ。
その男の後ろから「可愛いじゃねえか」と別の男もやってきた。
絲はなんとなく嫌な感じがし、踵を返して走り出す。
「あ、おい、待て!」
追ってくる男達から走って逃げるが距離はどんどん縮まっていく。
どうにか知っている道に出ようと走るものの、細い路地が続くばかりだ。
絲は足元の石に躓いて転び膝を怪我してしまった。袴に血が滲んでいく。
「お前、何逃げてんだよ」
追いついた男が苛々しながら絲の腕を掴もうと手を伸ばした。
「ねー、おじさん、何してんの?」
すぐそばで少年の声がし、男の手が止まる。
全く人の気配がしなかったのに、いつからそこにいたのか少年は笑顔で木箱に座っている。
「その子に手出さない方がいいと思うなあ」
十代前半に見えるその少年は明らかにこの街、この國の生まれではない。ふわふわとした金色の髪に、海のような鮮やかな青の瞳の持ち主だ。
服も洋装で、茶色のラインのセーラーカラーの白シャツに薄い茶色のズボンを履き、サスペンダーをつけている。
「な、なんだ、てめえ」
男はその珍しい容姿に怯みながらも少年の方に向かっていく。
「えー? 今度は僕なの? 節操ないなぁ」
少年は笑顔のまま右手をまっすぐ男に向ける。
少年の目が一瞬赤く光り、気が付くと男性は建物二つ分向こうの地面に落下しその衝撃で気絶していた。
「へ?」
もう一人の男性は何が起こったか分からず目を丸くしている。
「ボク優しいし、今はお仕事中だから、殺しはしないよ。安心してね」
少年は木箱からひょいっと下り、絲の元へ歩いていく。
「ねぇねぇ、おねーちゃん、めちゃくちゃいい匂いだね、すっごく美味しそう」
彼は絲に近付きながらご馳走を前にしたように舌なめずりをする。そのまま絲の膝に顔を近づけて何かに気づき眉を下げた。
「あ、でも残念、契約済みなんだね」
今度は顔の辺りでくんくんと匂いを嗅ぎ、考え事をするように腕を組む。
「しかも飼い主すごく強い人でしょ? あ、そっか。だからボク間違えちゃったんだ」
一人納得している彼にその場の誰もがついていけなかった。
絲は相変わらずきょとんとしたまま、少年を見つめている。
怖がる様子のない絲を見て、少年は不思議そうな表情で首を傾げる。
「キミ、ボクのことがこわくないなんて、飼い主は相当の紳士か色男なの?」
「お、お前はなんなんだよ!」
残された男性はやっと声が出せたようで恐怖の色を目に浮かべながら少年を指さした。
「えー? ボクはボクだよぉ、君達こそ何なの?」
「く、クソガキは失せやがれ!」
男が道の隅に落ちていた瓶を少年に向かって投げた。
瓶は少年の顔めがけて飛んでいったが触れる直前で消え、次の瞬間には男の目の前で地面に落下して割れていた。
「ば、化け物……」
男は小刻みに震えている。
「は? 化け物って、ボクを誰だと思ってるの?」
少年の顔から笑みが消えた。
「家畜風情が。調子に乗るなよ」
彼の目が再び赤く光りだすと、男は手で宙を掻き苦しみ始めた。
そのまま膝をついて倒れ、転がりながら悶えている。
少年の目の色が元に戻ると、男は一気に空気を吸い込み咳をしながら慌てて立ち上がった。よろけながら慌てて道の向こうへと消えていく。
気絶していた男も既にどこかに逃げ出したようで姿がなかった。
「fuckoff」
少年は低い声で呟くと、絲の方に振り向き笑顔を見せた。
「ねぇねぇ、おねーちゃんも迷子なの?」
絲は少し間を置いた後、小さく頷く。
「やっぱり! 僕もなんだぁ。じゃあ、一緒に連れを探さない? また何かあったら助けてあげるからさ」
少年の提案に絲は少し考えた末、再び頷いた。
「よし! じゃあ、早速しゅっぱーつ!」
少年は絲の手を引き上機嫌で歩き出した。




