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【第一章終了】千紫万紅の吸血鬼  作者: 小松羽咲/了一
【第一章】君と僕のさよなら
23/63

きみとぼくの再会Ⅰ

 

「はあぁぁぁ」


 蒼羽は大きなため息をつきながら絲と一緒に街中を歩いていた。

 あの後分隊長に異動を言い渡され、蒼羽の次の所属隊は十番隊に決まった。

 十番隊の分隊長は()(さき)曹長だ。千草より年下だが、現場に出る大尉以下では千草、千草の同期の()(ぐれ)に次ぐ実力者だ。三人合わせて軍の三羽烏なんて呼ばれたりしている。千草と違い、頭が切れ柔軟性もある。見た目はかなり温厚な感じの青年なのだが、蒼羽は外れくじを引いた気分だった。


「よりによって壱岐兄の隊かよー」


 苦虫を嚙み潰したような顔の蒼羽を見て絲は首を傾げる。

 そんな絲に蒼羽は、お前に言っても分かんねーだろーけど、と愚痴を続けた。


「壱岐兄はさ、見た目は軍の誰よりも優しそうなんだよ。だけど実際は一番スパルタだし、毒吐くし、容赦ねえし! まだ前の分隊長のがマシ!」


 勝手なことしたらどんな折檻が待ってるか想像したくもない。

 蒼羽はがっくりと肩を落とした。


「しかも反省文提出させられた上、出来が悪いからってこれからしばらく非番なしの連勤だぞ⁉ ありえないだろなんだそれ!」


 壱岐分隊長に処分方法任せた奴におかしい処罰だと切実に訴えたい。

 だが、一末端兵士にそんなことができるはずもなく、大人しくしばらく出会えないであろう休みの日を堪能することにしたのだった。


 今日は特に街に用はなく、しばらく連れ出してやれなくなる絲を好きな場所に案内することにしていた。


「絲、まずはどこに」


 絲に尋ねようとした時、茶色の背広を着た男性とすれ違った。

 心臓が大きく鳴る。


 知っている。

 奴だ。


「なんでっ」


 蒼羽は慌てて振り返る。今すれ違ったばかりなのに奴とはもうだいぶ離れている。


「逃がしてたまるか」


 人を避けながら急いで追いかける。向こうは歩いていて、こちらは走っているのに全く追いつけない。

 奴の足が止まり、ようやく追いついた蒼羽はそいつの腕をつかんだ。


「つかまえたぞ」


 そいつはのんきな顔で振り向いた。


「ふぁ?はあ、ほほはえほ」


 その口には棒に刺さった天ぷらがくわえられていた。

 何を言っているのかさっぱり分からない。


「……は?」


 蒼羽は呆れた顔でそれしか返せなかった。

 茶色の背広の男性は天ぷらを噛んで飲み込んでから改めて口を開く。


「久しぶり、偶然だね」


 その瞳は緋色、ではなく。


「お前、この前の吸血鬼、だよな?」


 くすんだ赤と黄色を混ぜたような色、オレンジが輝くような奇麗な瞳は、どうみても吸血鬼のそれではない。

 若干たれている瞳をじっと見つめていると、彼は声をあげて笑った。


「そんなに見つめられると照れてしまうよ」


 そうは言っているが照れている様子は全く見られない。


「大体、なんでお前がこんな真昼間に元気に人間の食いもん食ってんだよ」

「いやあ、人間の食べ物を昔友人に勧められてハマっちゃってね」


 彼は手に持っていたあと二本の天ぷらも一気に平らげて不思議そうに蒼羽を見た。


「そういえば、今日はお姫様はご不在なのかな?」

「は? 何言って……」


 その言葉に蒼羽は慌てて周囲を見回す。


「絲っ」


 急いで追いかけてきたため、彼女がついてきていないことに気づけなかった。

 よりによって今日は多くの人が休みでいつもより混雑している。この中から探すのは骨が折れそうだ。


「あー、お姫様とはぐれちゃったのかあ。私も連れとはぐれてね。そのついでだが、不肖ながら探すお手伝いを致しましょう」


 そいつは何を考えているかさっぱり分からない口調でにっこりとほほ笑んだ。

 信用したわけではないが、こいつをここで逃がすわけにもいかない。

 蒼羽は悩んだ末、手拭いで自分の左手首と彼の右手首をつなげた。


「ん? これは何かな?」


 首を傾げるその男を蒼羽は睨みつける。


「逃げられたら困るからな。お前はこのまま俺の前を歩いてもらう」

「逃げたりしないのに。まるで罪人扱いだなあ」

「変わんねーだろ」

「ひどいね」


 相変わらずへらへらと笑うそいつに蒼羽が若干苛つきながら、歪な捜索隊は人探しを始めた。


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