雨の日の少女亡霊事件Ⅹ
弟や家族、街のみんなを吸血鬼から救おうとして、吸血鬼が現れる場所を知らせるために事前に弟を向かわせた――蒼羽は頭の中で仮説を立ててみたが、予知能力が幽霊にあるのかなんて分からない。結局真相は闇の中になりそうだ。
「本当にお騒がせして申し訳ありませんでした。この子を助けてくださってありがとうございます。ほら、お前も謝れ」
父親は母親と共に蒼羽に深く頭を下げ、息子の頭も押さえて下げさせた。
「ご、ごめんなさい。あと、ありがとう」
名月は泣きはらした目を伏せ、嗄れた声で呟くように謝罪と感謝の言葉を述べた。
蒼羽は笑いながら彼の肩を叩く。
「とりあえずお前が無事でよかったよ。冷や冷やしたけどなー」
名月の耳元で小さい声で付け加えた。
「言ったろ? お前は一人じゃない」
蒼羽の言葉に名月ははにかんで笑みを見せた。
「その手拭いは差し上げます。ただ応急処置なのですぐに医者に診てもらってください。軍への報告は上手いこと言っとくので安心してください」
蒼羽はそう言って悪戯っぽく微笑む。
そのまま報告すれば混乱を起こしたとして名月が罰せられることになる。それはどうにか避けたい。
幸い蒼羽は言い訳の天才だ。任せろと言わんばかりにどや顔の蒼羽を見て、父親は思わず噴き出した。
「ははっ、すみません、頼もしいな」
「だろー?」
その場にはさらにみんなの笑い声が広がる。
赤い花はもう地面には咲かない。彼らの胸の中でまぶしく笑っている。
「ん?」
「おにいちゃんどうかした?」
「今あの陰に……いや、気のせいか」
蒼羽が空を仰ぎ見ると、雨はすっかり止んで空には青が広がり始めていた。
風待ち月が近づく匂いがする中、どこかから切ない声が聞こえた気がした。
――もう! 有的、気を付けてよね!
「さようなら……文乃……」
こうして雨の日の少女亡霊事件は幕を閉じた。
「これがデジャヴってやつか」
蒼羽は小さい声で呟く。
本部で報告を終えた蒼羽を待っていたのは分隊長の説教だった。
「貴様は、貴様は」
怒り心頭に発した彼の顔は真っ赤になっている。
「貴様は異動だああぁぁ」
「まじか」
それを聞いた蒼羽の顔は分隊長と反対に真っ青になったのだった。




