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【第一章終了】千紫万紅の吸血鬼  作者: 小松羽咲/了一
【第一章】君と僕のさよなら
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雨の日の少女亡霊事件Ⅷ

 あの後、名月に生前の姉のことを聞いたが吸血鬼と関わりがあるような話は全く出てこなかった。

 やはり信じたくはないし信じられないが吸血鬼に殺された恨み、他の人も道連れにしようと現れる亡霊の仕業ということなのだろうか。


「うーん、やっぱすっきりしねーなぁ」


 その後もう一度広場で数人に話を聞いたが、解決につながりそうな話はなし。


「乾物屋のにーちゃんとこ寄って今日はお終いにするか」


 このまま聞き込みを続けても前進しそうにはない。

 蒼羽は絲を連れて目の前にある乾物屋の暖簾をくぐった。


「佐倉のにーちゃーん、いるー?」


 店内に女性客が見えて、蒼羽は慌てて大きな声を出してしまった口を手で塞いだ。


「あはは、相変わらず元気がいいなあ。何か用かい?」


 髪を一つ結びにした細目の気弱そうな男性。彼、佐倉は乾物屋の息子だ。

 腰を悪くしたおっちゃん、つまり店主に変わり、最近店番をすることが多くなった。


「あー、うん。ちょっと少女の亡霊の噂について調べてて。でもお客さんいるなら後」

「あ、蒼羽っ」


 佐倉が慌てて何か言いかけた瞬間、女性客が声を発した。


「もう、やめてください」

「え?」

「これ以上、やめてえぇぇぇ」


 女性客が急に上げた叫び声にも近いそれを聞き思わず耳を抑える。


「ちょ、何が」


 訳が分からず困惑する蒼羽の横で女性客は狂ったように声を上げる。

 どうにか止めようと手を伸ばした時、蒼羽の手が触れるより先にその女性を抱きしめる男性がいた。


「大丈夫、大丈夫だから」


 男性が繰り返し声を掛けると女性の声はすぐに収まった。

 耳から手を離すと、気絶した女性を支える男性に申し訳なさそうに頭を下げられた。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。佐倉さんにもご迷惑を」

「いえいえ、私こそ未然に防げず申し訳ない」


 物言いからして佐倉は状況を把握しているようだ。


「えっと?」


 蒼羽は自分だけ蚊帳の外な気がして説明を求める声を上げる。


「あ、すみません。私は彼女の夫でして」


 女性の旦那と名乗る男性は悲しそうな顔で妻を見つめていた。


「おそらくあなたが少女の亡霊の話をされたので反応したんだと思います。街中でこの一連の事件について調べている方がいる話を聞いて妻は不安定になっていたので」


 夫婦はやつれており、どことなく疲れているように見える。


「少女の亡霊について……何かご存じなんですか?」


 情報を一つでも集めたい蒼羽は躊躇しながらも彼に質問を投げかけた。


「亡霊については何とも言えませんが」


 男性はそこまで言うと、悲しそうにまつげを伏せた。


「噂になっている少女というのは私達の亡くなった娘なんですよ」

「少女……環名さんのご両親、ですか」

「環名を知ってるんですか?」


 蒼羽の口から娘の名前が出てきたことに驚いた様子の男性が今度は蒼羽に質問を返した。


「あ、いや、知っているというか、息子さんに少し話を聞きまして」


 息子の単語が出ると今度は男性の顔が曇る。


「あぁ、あの子ですか。あの子は、いやあの子こそ、姉の霊なんて存在するわけがないものに囚われているのです」

「囚われている?」

「その上、この騒ぎを軍が扱うことになるなんて、もうどうしたらいいか」


 男性は苦しそうに顔を歪め、妻を抱く手に力を込めた。


「それって」


 その言葉の真相を確かめようとした時、絲が蒼羽の袖を引っ張った。


「ん? なんだよ」


 蒼羽が絲の方を振り向くと、彼女の向こう、店の外を赤い花が通り過ぎるのが見え、弾かれるように店の外へ走り出す。


「悪い、ちょっとだけ待ってて!」


 蒼羽はそれだけ言うと傘もささず全速力で少女の亡霊を追いかけ始めた。

 亡霊は二つ目の角を右に曲がったようだった。

 蒼羽はそれを見て口角を上げる。


「逃がすかよ」


 亡霊が曲がった角より一つ前を右折し、足元の泥を跳ね上げながらさらに走るスピードを上げていく。

 突き当りの角を左に曲がり、二つ目の角も左折する。


「やっぱりな」


 蒼羽が勢いよく角を曲がった瞬間、亡霊と鉢合わせた。

 建物の陰になっている細い路地。ここなら見つからないと踏んだのだろうか。


「この街は俺の庭みたいなもんだからな。逃げられると思うなよ」


 捕獲するため亡霊に近づこうとしたとき、蒼羽の体に軽い痺れが走り、彼は顔をしかめた。

 舌打ちしながら刀を抜いて構え、亡霊の方を睨みつける。


「お出ましか」


 そのまま走り出した蒼羽は亡霊の横を通り過ぎ、奴に刀を向けた。

 金属がぶつかる音が辺りに響く。


「よぉ、吸血鬼。今日は随分と早いご登場だな」

「グ……」


 髪の長い吸血鬼は後ろに跳んで蒼羽と距離を取る。

 だが苦しいのかすぐに膝をついた。


「吸血鬼のくせに体調悪いとかあんのかよ。大体な、いくら暗いからって今まだ日暮れじゃねーぞ。なんでこんな時間に出てくんだよ。お前は特別な吸血鬼なのか? それとも本当はみんなこの時間に動けるのか? あ、もしかしてこの時間に出てきたから体調悪いとか」


 蒼羽は一気に捲し立てた後黙って返事を待つが、相手は唸るだけで返事は返ってきそうにない。


「おい、お前喋れるんじゃなかったのかよ」


 不満に顔を歪める蒼羽に吸血鬼が攻撃を仕掛ける。

 足元が悪くて少し戦いづらいが、ここで奴をどうにかしなければ今後も安心して見回りできなくなってしまう。


「体調悪そうなわりに、いつもの吸血鬼より(つえ)ぇじゃんか」


 刀で応戦しながら蒼羽は変わらず話しかける。


「お前、本当になんなんだ? なんで亡霊の出る場所に現れる?」


 もちろん返事など返ってこない。返ってくるのは当たったら大けがをしそうな攻撃だけだ。

 蒼羽は舌打ちをして蹴りを入れる。


「おい、そろそろ答えろよ」

「キ……ケ……テ……」


 吸血鬼はこの前と同じ言葉を繰り返している。

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