妹の裏切りによって婚約破棄された引きこもり聖女は今日も裏切り者の元婚約者と妹の夢を見る……
「……うーん、良い天気ですわ」
「おはようございます。ローレリア」
「はい神官長様、おはようございます!」
長い銀の髪、青い目の神官長様、かなりの美形ですが、年がもう28歳と10歳年上で、お兄様と年が変わらないので、安心してお話できます。
私はあの時以来、年のころが変わらない男性が苦手となってしまいました。
「そういえば陛下と王妃様がずっと悪夢に悩まされているそうです。あなたにあんなことをした罰でしょうね」
「そうですか」
そういえば夢の中で、私は大きな黒い生き物になって鋭い牙で、妹と元婚約者に襲い掛かりその体をむさぼり食べたような気がしますが。
その前は、確か私は処刑人で、にやにや笑いながら、いつ首を落としてやろうかとギロチンに二人をかけてその首を落としたこともありましたわね。
でもしょせん夢は夢で、現実ではないのですわよねえ。
しかしこの夢を見た後はなぜかすっきりしていましたわ。
「今日の仕事は下町の慰問です」
「人の目があるのはちょっと……」
私はあの時の断罪事件以来、人間不信となり、引きこもり生活を送るようになっていました。
辺境送りになるところを神官長様に助けられたとはいえ、まだ人の目が怖いですわ。私は聖女として人々を助ける役割を与えられたはずでした。しかし王家のために力を貸せと言われ、癒しの力を使わされ……。
もう聖なる力はないのです。それがあったので余計、私が邪魔になったのでしょう。妹が真実の聖女とされ、王家に迎え入れられたのです。
「仕方ありませんね、では神殿の掃除をしてください」
「はい」
引きこもり聖女といわれるようになって3年ですわ。
妹いじめの罪を着せられ、婚約破棄されてもうそんなにたつのですね。
しかし、辺境送りにならないだけまだましでしたわ。聖女としてここにいる限りは王家の力は介入できませんし。
「しかし、悪夢のせいで神経衰弱になったそうですよ」
「へえ」
楽しそうに笑う神官長様、怖い怖いですよ。
神殿の窓を拭く私につきあってくれていますが、慰問は大丈夫ですか? まだ時間がありますと笑う神官長様。
「ふふ、あなたにあんなことをした罰ですよ」
「神官長様?」
「今日もいい夢が見られるといいですね、ローレリア」
「そうですわね、神官長様のおまじないのおかげで、悪夢は最近見ませんわ」
「それはよかったです」
にこにこと笑う神官長様、彼にもらったお守りのおかげで最近はとても良い夢を見るようになりました。
「聖女であるのはあと2年で終わりですが、私も……その時期に……」
「はい?」
「いえその時になったらお話ししましょう」
「わかりましたわ」
「しかし聖女のあなたを無理やり王家に連れていっていらなくなったからといって」
「ぽいなんてひどいですが見抜けなかった私も未熟でしたわ」
「因果応報、あの人たちに神の怒りは落ちますよ」
にこりと笑う神官長様、私は浮かれて王太子の申し出をうけた自分と、妹の我が儘を許してきた己の情けない性格を省みてできたらもう少し強くなりたいとため息をつきました。
「あなたは優しいままでいてください」
「神官長様?」
「神の怒りは確実にあの人たちに起きてますから」
にこっと笑う神官長様のその微笑みは良い夢を見るようにとお守りをくれたときの笑いかたと同じで優しいけど、少し怖いかなと思います。でも裏切り者たちよりよほど信用できますわ。
王妃と王が病の床につき、その座を弟君に譲ったと聞きましたが、これで少しはあなたの気は晴れました? と聞かれてさあ?と返したとき、神官長様は新たなお守りをくれました。
そのときからもっといい夢を見るようになりましたわ。ああ今日も眠るのが楽しみです。
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