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知ってた?



 美佐子さんとの会話を終えたあと、俺は1人紗耶ちゃんの家に向かっていた。


「紗耶ちゃんが神、か」


 美佐子さんは確かに、そう言った。自分のところにやって来た神は、真っ赤な目をした冬乃江 紗耶だったと。でも俺はまだ、その言葉を信じたわけじゃない。


 確かに美佐子さんは、嘘をついているようには見えなかった。……いや寧ろ、彼女の瞳の奥のあの恐怖は、紛れもなく本物だった。



 でもだからって、紗耶ちゃんが神だなんて話を急に信じることはできない。



 だから俺はそのまま美佐子さんに、もっと詳しい話を聞こうとした。けどそこでちょうど見回りの教員が来てしまい、話はまた明日ということになった。


「でもやっぱり、信じられないよな」


 紗耶ちゃんがクロやシロと同じ、神。それはやっぱり、簡単に信じられることではない。……でも、彼女が神だとするなら、彼女の狂気がクロに届いたのも納得できる。


 人は決して神に敵わないけど、同じ神同士なら話は別だ。一度シロがクロを殺したように、紗耶ちゃんが神ならクロを害することもできるだろう。


「……っと、着いたな」


 そんなことを考えながら歩き続けて、ようやく紗耶ちゃんの家にたどり着く。美佐子さんの話が本当なら、ここには紗耶ちゃんの両親なんていない筈だ。だって神には、親なんて存在しないから。


 ……だから仮にもし、この場所に紗耶ちゃんの両親がいたとするなら、美佐子さんの話の信憑性が揺らぐ。


「ま、居ないんだけどな」


 けど紗耶ちゃんの家には電気がついておらず、人の気配もない。どうやら今日は、留守のようだ。


「ならやっぱり、紗耶ちゃんは……」


 ……いや、確か1番最初に紗耶ちゃんに監禁された時、彼女は言っていた。自分の両親は、仕事でしばらく帰って来ないと。なら今日はただ単に、仕事で家を空けてるだけかもしれない。


「仕方ない。今日はもう、帰るか」


 そう呟き引き返そうとしたところ、ふと声が響いた。



「こんなところで何してるのよ? 未白」



 声の方に、視線を向ける。するとそこには、いつもよりずっとラフな格好をした、莉音の姿があった。


「……お前の方こそ、どうしてこんな所にいるんだよ?」


「あたしはコンビニに、シュークリームを買いに行こうとしてたところよ。知ってた? そこのコンビニの新作のシュークリーム、凄く美味しいのよ?」


「夕飯前にそんなの食うと、太るぞ?」


「……うるさいわね。女の子は、甘いものじゃ太らないようにできてるの。……それよりあんたは、どうしてこんなところにいるのよ? この家に、何か用事でもあるの?」


 莉音はそう言って、紗耶ちゃんの家に視線を向ける。


「まあ、ちょっとな。ここの子とは友達だから、少し話でもしようと思って来たんだけど、どうやら留守みたいだ」


「……ふーん。まあ、あんたがそう言うなら、それでいいわ」


「なんだよ、その含みのある言い方は」


「別に含みなんて、ないわ。それより、暇なんだったら少し、あたしに付き合わない? アイスくらいなら、奢ってあげるわよ?」


「…………」


 そう言われて、少し頭を悩ませる。汐見さんと紗耶ちゃんには、今日は早めに帰ると伝えてある。けど美佐子さんと話をしたせいで、今はもう結構いい時間だ。


 ……でも、せっかくこうして莉音と会えたんだから、彼女とも話をしておきたい。だって今回は色々と、いつもと様子が違う。だからもしかしたら莉音にも、何かおかしなことが起きているかもしれない。


「何よ、黙り込んで。……もしかして、あたしと一緒に行くのが嫌なの?」


「いや、違うよ。……ただちょっと、久しぶりだなって思っただけ」


「そうね。確かに、久しぶりね。……でもそんなの、今は関係ないでしょ? それよりあたしに、付き合ってくれるの? それとも、今日はもう帰るの?」


「付き合うよ。俺もちょうど、お前と話がしたいと思ってたところだしな」


「ふふっ。なら、早く行きましょうか」


 莉音はとても嬉しそうな笑みを浮かべて、歩き出す。


「…………」


 だから俺も、その背に続く。


「なぁ、莉音。お前さ、最近なにか変わったこととかないか?」


「なによ、藪から棒に。別にないわよ、変わったことなんて。……まあ強いて言うなら、こんな所であんたと出会ったことが、変わったことかしら」


「……まあ確かに、ちょっと運命的だよな。俺かお前の出かける時間が5分ズレただけで、こうやって話すことはなかったんだから」


「ふふっ。あんたが運命なんて言葉を使うと、ちょっと笑っちゃうわね」


「どうしてだよ。そんなに運命って言葉が、俺に似合ってないか?」


「うん、似合ってない。そもそもあんた、運命とかそういうの昔から信じてないじゃない」


 確かにそれは、そうだ。俺……というか久折の家に産まれた人間は、みな幼い頃から実在する神について教えられる。だから運命だとかそういうものは、いまいち信じる気になれない。


「あ。でもそういえば、あったわ、変わったこと」


「……赤い目をした女の子に出会ったとか、そういうのじゃないよな?」


「何よ、その昔のホラーみたいな展開は。……そうじゃなくて、ちょっと前にメモ帳が置かれてたのよ。朝、いつものように目を覚ましたら、枕元に買った覚えのないメモ帳が……って、どうしたのよ? 未白。そんなに怖い顔して」


 俺の困惑に気がついたのか、莉音は不安そうに俺を見る。


「…………」


 だから俺は一度大きく息を吐いて、心を落ち着かせる。


「……なあ、莉音。それってもしかして、可愛いキャラクターが描かれたメモ帳か?」


「そうよ。よく分かったわね。あたし、そういうメモ帳よく使うから、前に買ってたのを忘れてるだけなんだろうけどね。でも見つけた瞬間は、凄くびっくりしたわ」


「それ、中に何か書いてあったか?」


「……やけに気にするわね。もしかしてそれ、何かまずいものだったりするの?」


「いや、別にそういうのじゃないよ。でも、俺のところにも似たようなものが置かれてたから、少し気になるんだよ。だから、莉音。できればメモの内容を教えて欲しいんだけど、ダメか?」


 俺は真っ直ぐに、莉音の瞳を見つめる。


「……!」


 すると莉音は照れたように頬を染めて、恥ずかしがるように視線を逸らす。


「べ、別にそんなに真剣にならなくても、メモの内容くらい教えてあげるわ。……でも、本当に変なことが書かれてただけなんだけど、それでもいいの?」


「ああ。何でもいいから、教えてくれ」


「……分かった」


 俺の言葉を聞いた莉音は、明後日の方を向いたまま小さく息を吐く。そしてゆっくりと俺の方に顔を向けて、澄んだ声でその言葉を口にした。



「始まりから7日後、神様が死ぬ。そんな訳の分からないことが、書かれてただけよ」



 そうして事態は、前へと進む。



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