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泣きおにぎり

作者: くにたか あきな

 「この世界はおかしくなった!」なんて叫んでいる意識の高い人の声は耳を素通りするけれど、実際に自分の身におかしなことが起きると、どうやら世界は本当におかしいのだと頭ではなく直感で理解できた。


 僕がバイト先のコンビニの裏口で夕方のピーク前に売れ残りの廃棄された弁当やおにぎりをゴミ袋に詰める作業をしていた時だ。最初は僕の後ろで子どもがお喋りしているのかと思っていた。だが、話し声はなかなか終わらない。「うるさいなぁ」と思いながら僕は声の方向へと身体を向けた。声の主を目で捉えたとき、今日は何かイベントでも行われているのかと妙に冷静に考えている自分がいた。いや、目の前に立ち塞がる異様な物体に頭の処理が追い付いていないだけかもしれない。


 「捨てないで。ちゃんと食べて。僕たちを大事にして。」


 声を震わせながら僕に訴えかけていたのは、冗談ではなくて、巨大なおにぎりだった。具体的には、白米の三角おむすびで広い側面に黒い海苔が人間で言うと眉と目と口の位置に張り付いており、まるでゆるキャラのような巨大おにぎりだ。


 「今日もたくさんご飯を捨てるの?ちゃんと食べて。お願い。」


 これは毎日食品を廃棄している僕の罪悪感が見せる幻覚だろうか。世界のどこかでは飢えに苦しむ人が大勢いるのに、日本では毎日食べ物が捨てられているアンバランスな世界なら、喋るおにぎりが存在しても不思議ではないのかもしれない。なんて考えながら、眉の位置にある左右の海苔を八の字にして悲しそうな表情を作るおにぎりの声を僕は受け止めていた。おにぎりがコンビニの裏口を塞いでおり逃げられないのだが。


 「僕一人ではどうにもできない。今捨てた食べ物も僕が勝手に食べるわけにはいかない。」僕の言葉に沈痛な面持ちのおにぎり。


 「わかった。せめて、君がどうにかできる食べ物だけでも。大切にしてあげてね。」


 悔しさをかみ殺してわずかな希望を託すように絞り出した言葉に対して、僕はうなずくほかなかった。おにぎりは少し頷くと米粒になって砂煙のように巻き上がり僕の目の前から消えた。


 帰宅後、SNSで今日の不思議な出来事をつぶやいてみた。信じてもらえないと思ったが同じような体験をした人からのコメントをいくつか届き「泣きおにぎり」と呼ぶ人もいた。あの巨大おにぎりは悲壮感を漂わせながら「捨てないで。ちゃんと食べて。」と稲を一本一本植えるように誰かに語りかけているのだろうか。



初めての投稿です。拙い作品を読んでいただき望外の喜びです。

小説を書きたいと以前から思っていましたが、なろうラジオ大賞2のおかげでとにかく挑戦してみようと色々と執筆しています。

プロ・アマ問わず作家の大変さや偉大さをひしひしと感じています。

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― 新着の感想 ―
[一言]  拝読しました。  理由はタイトル。  ンフっと、「そう来たか」と笑い、作品を鑑賞しました。  良かったと思います。  おにぎりも可愛く、短い文字制限の中で内容もしっかりあって。 …
[良い点] 悔しさをかみ殺してわずかな希望を託すように絞り出した言葉に対して、僕はうなずくほかなかった。 世の全てが、ほぼ、これ状態だなぁ と しみじみ 八百万の神、妖怪、モノに宿る心 うんうん…
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