ダンジョンにて・・・・・・・C級冒険者ミスカ(猫獣人)
この子も主人公じゃ
ひょい、ぱく。
小さな白い指がレーズンをつまんで唇に持って行く。そして数度もぐもぐ、とした後にゴクン、と飲み込む。
「はあー、かわいいわー。あ、こっちも食べる?なんかイチジクっていう異国の珍しい果物のドライフルーツらしいけど。」
「・・・」
ハクがこくりと頷く。
もうね、ハクちゃんが小さいお手々でこれまた小さいお口に食べ物を持って行く姿自体がかわいらしいよね。これが分からないのはもう感性がどこか壊れてるよね。
全然しゃべんないし、口元以外仮面で隠されてるんだけどもう目がね、語ってるんだよ。おいしいものちょーだい、って。これはもう貢ぐしかないでしょ。渡来ものだから割と高かったんだよね、この干しイチジク。
「おいおい、ここがダンジョンだっていうの忘れてねーか?おやつを食べに来たわけじゃないんだぞ。だいたい、ダンジョンにそんなけったいな食いもんもってくんなよ。ハクが腹壊したらどーすんだよ、このくそ猫。」
「あっれー、なんかわんちゃんが吠える声がするな-。わんちゃんなら変なもの食べてもおなか壊さないかもしれないけどハクちゃんが食べたらおなか壊すかもしれないじゃない。ちゃんと安全性は確認してありますー。」
「ああん。やんのか、くそ猫。」
「野蛮だねー。このわんちゃんは斥候職の私が相手するわけないでしょ。あたまをちゅかいましょうねー。」
全く、このくそ犬は。というよりここがダンジョンだっていうこと忘れてるんじゃないだろーかね。味方同士で戦ってどうするんだっちゅうの。
まだまだうち達には余裕な階層だからって気を抜きすぎなんだよ、もう。
「くす」
ハクが思わずといった感じで笑い声を漏らす。
「あ、ハクちゃんが笑った。かっわいいー。わんちゃんの失言もたまには役に立つじゃん。ナイスっ」
「ばっか、ちげーよ。くそ猫が変な行動するからだっての。ハクにすら笑われてるんじゃだめじゃねの」
わんちゃんのくせに生意気いうじゃないの。にらんでるけど全然怖くないんですけど~。
「ああ、もう、二人ともそろそろ真面目にしてください。ミスカは先行して偵察、ガウルは周辺の警戒ですよっ。ハクも食べれるときにこまめに食べておくのは冒険の基本ですけどそろそろしまって進むのに集中しましょう。」
「ガウル、しっかりロウとハクちゃんを守るんだよ。
「ちっ、いわれなくても分かってらぁ。さっさといけ。罠とか見逃すんじゃねーぞ。」
「こっちこそいわれなくても。じゃあ、ハクちゃん、行ってきまーす。」
いやー、やっぱりロウをリーダーにしてよかった。うちとわんちゃんのどっちかだったら言い合いばっかになって何にも決まらなさそうだもんね。そもそも、ロウの魔術師とか後衛職がリーダーするのは定番なんだけどね。
さてさて、おばかなわんちゃんやかわいいハクちゃんのことはおいといてお仕事しないとね。まだまだ手強い魔物は出てこないけど罠は結構危ないからねー。油断してたらすぐ命を落としちゃ。それはもうあっさりね。だから斥候職の私がしっかり頑張らないと。ハクちゃんと魔術師のロウを守るのは、当然としてわんちゃんもハクちゃんの盾になってもらわないといけないからねー。
っと、罠発見。ちょっとだけ盛り上がってるこの地面のところを踏んだら壁のギミックが作動しそう。このダンジョンのこの階層だったら多分矢が飛んでくるかな?
印をつけといてよけて通ってもいいけどこれくらいだったら解除しとこうかな。
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ちゃき、ちゃき、ちゃき、っと。解除成功。
この階層にしては珍しい二重トラップになってたよ。矢が飛び出して危ないけど、それを避けると今度は矢で反対側のスイッチに当たって、今度は落とし穴が起動するっていうなんとも冒険者の油断をついてくるものだね。矢ぐらいなら反射神経でよけれる人も割といるからねー。
罠も一つ解除したし、魔物の気配もしないから一回ハクちゃんの所にもどろっと。
「ハクちゃーん、罠解除してきたよ、ほめてほめてー。」
ハクちゃんに頭を突き出してな出てもらう。最初のほうは頭を突き出されて戸惑っていたハクちゃんだけど今ではこの通り。私との最適なコミュニケーションを感じ取ってくれてるんだね!
「はっ、これが愛?」
「なんか知らねーが、ぜってーちげーからな。」
まったくわんちゃんは。この絶妙な手加減を知らないからそんなことを言えるんだよ。こうね、なでられてるとすっごい和むんだよね。髪をすくようにさー、っとながしたり、時々押さえつけたりもうテクニシャンだよ。一時期血迷ってロウとか他のいろんな人になでさせてみたけどこのハクちゃんのなでられ心地には到底及ばなかったゴッドハンドだよ。このなでさえあればどんな過酷な環境でも戦って見せるね。
「・・・ハクちゃん?」
ハクちゃんの手が止まった。
いつものハクちゃんなら後10秒ぐらいは撫でてくれるはずなんだけど。不思議に思ったうちはハクちゃんの顔を覗き込む。
「あ、ロウ。ハクちゃんのあのやつ来るよ。」
「チームのみんなの安全を考えるとあんまり好ましいことではないんですが、ここは低階層ですからね。他の人のことを助ける余裕もあるからいいでしょう」
ハクちゃんはなんかたまに他の冒険者が危険な時とか、強い魔物と遭遇しそうな時とか第六感でも働くのか察知することがあるんだよねー。それに従うことで今までうまくいってたからロウもガウルも、もちろん私もそれには出来るだけ従うことにしてるんだよね。
「ロウ、いい?」
「ええ、構いませんよ。今回は」
「ゴブリンの群れ。先行する」
必要な情報だけ伝えて、自己バフをかけるだけかけるとハクちゃんはさっさと行った。
「さってと俺らも追いつけるように走るか」
「ばっか、わんちゃん。そうやってまたロウを置いてったら怒られるよ。先行するのは私の役目だって!後から追いついて。」
今回はゴブリンの群れだって言うからハクちゃんに危険はないだろうけど冒険に絶対はないから全力で頑張るよー!
ないです