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代わりに怒り、恨み悲しむ事(仮題)


 何となくだが、そんな気はしていた。

 その存在の理由も自分に関わる理由もわからないが、一つだけ……ルアが自分に臨んでいる事はわかっていた。


 復讐である。


 だからこそ、ルアが用意した一つ目の場は、『自分を嫌う上司の幸せそうな姿』だった。

 とは言えその理由も動機もわからない。

 だが、もし本当に自分に復讐をさせたいのならば……ルアはサンタではなく悪魔や死神の類なのだろうか。

 そう天堂は考えた。

 そして、その上で、天堂はどうでもいいと考えていた。

 復讐もルアがいる事も、そして自分自身が呪われようと何等かの契約をさせられようと――。


「それで、二つ目はこれですか」

 天堂はそう呟きルアはニコニコと微笑んだ。

 この一週間、ルアを見て来た天堂は理解した。


 ルアは何も知らないし何も出来ない。

 いや、確かに何でも出来る力は持っている様でちょうちょく気軽に奇跡を起こしている。

 だが、日常生活にかかわる事そのほとんどをルアは出来なかった。

 料理は爆発、洗濯は泡まみれ。

 そして掃除をすればクラッシャー。


 ついでに言えばあのサンタ服が恐ろしく目立つ恰好である事も、目立つ事があまり良くない場合が多いという事なども、もっと言えば人間関係すら理解出来ていない。

 何故か思ったよりも目立たなかったが、それても天堂はあの日以来サンタの恰好はさせない様にした。


 そう、結局天堂は押し切られる形で同棲を開始し一週間が経過してしまった。

 何も出来ず迷惑ばかりかけるという意味でも迷惑は被ったが、正直その位は些事である。

 本当に困った事は……ガードが緩い事である。

 それに、男である天堂は苦しめられ続けていた。

 それはいつもの日常、会社での嫌がらせとはまた違う苦痛であり、正直慣れていない分ルアから受ける苦しみの方がより心を動かされていた。


 ちなみにルアの今の恰好は服屋で店員の言われるがままに選び買った服である。

 似合っている事は確かなのだが、天堂の着る服と比べて十年分以上の金がかかった。

 とは言え、使い道のなかった蓄えである。

 惜しいという気持ちは湧いてこない。

 そんな事すら些事に思えるほど、ルアとの生活は耐える事の連続だった。

 



「あの二人、顔もあまり変わってないけどわかるよね?」

 ルアが優しい笑みのままそう言葉にし、天堂は顔を顰めながら頷いた。

 極力無表情か暗い顔で生きてきている天堂だが別に感情がないわけではない。

 嫌な事は嫌だし嫌いな物は嫌いだ。


 ただそれ以上に億劫で何もかもがどうでも良いだけであり感情がないのとはまた違う。

 だからこそ、その胸は激しい痛みにも似た感情に刺激され続けていた。


 目の前にいるのは自分と同年代で自分とは違い心から幸せそうなカップルである。

 キラキラした笑みで女性が左手の薬指いついた指輪を嬉しそうに何度も確認している事から、そう言う事なのだろう。


 ちなみにその二人は、天堂の中学時代の同級生であり、その後のアルバイト生活での先輩でもあり、そして天堂が未成年の時に最も虐げて来た二人である。

 それは彼らが高校を卒業するまで実に六年という長い間だった。

 男の方からは親がいない事と体中が傷まみれな事を馬鹿にされ、殴る蹴るで今でも残る古傷を増やされありとあらゆる状況で大勢の前で馬鹿にされ嗤われ続けた。

 女の方からは理由はわからないが女性に酷い事をした極悪人と言われ六年間天堂は同級生の女子とマトモな会話をした事もない。

 覚えているのは怯えられた事や泣かれた事であり、そしてその事を教師と共に責められた事だけである。


 その頃はまだ少しは希望が残っていたからか、流石に良い気持ちはせず思い出すだけで天堂は顔をしかめ消え去りたくなる。

 それほどに傷が増えた時代だった。


「……今初めて理解しました」

「ん? 何が?」

「あの女性が私に酷い事を言って嫌っていた理由ですよ。つまり、あの時から二人は付き合っていたという事ですよね?」

 その言葉にルアは表情に影を落とし、悲しそうな顔で頷いた。

「正解。もっと言えば女の方が男と付き合いたいから貴方に酷い事をして関心を得たわ。ちなみにどうでも良い事だけどあの二人、新婚でも何でもないわよ」

 そうルアが言葉にした瞬間、男の方に少年がどんとぶつかっていった。

 その少年の顔は、二人の顔に良く似ていた。


「七歳だって。二人の愛を確かめる為に七年かけてお金を貯めて結婚式をちゃんと豪勢にするんだってさ」

 そう言葉にするルアの表情はこの前と違い笑顔ではない。

 もしその表情を一言にするならば『反吐が出る』だろう。


「そうですか」

「……かず君を苦しめた出会いで幸せになったあの二人ってどう思う? あの二人に受けた苦痛と支払ったお金を、利子つけて返して欲しいって思わない? 一方的に苦しめられた貴方にはその資格――」

「ありませんよ」

 天堂ははっきりと言い切った。


「……どうして?」

「法律で認められていないからです」

「私は法律なんて関係ないし絶対にバレない様に仕返し……いえ、あの二人を破滅させられるよ?」

「それをすればあの子が悲しみますよ。子供に罪はありません」

 断言する天堂を見るルアの表情は同情や憐憫に似て、そして絶望に近かった。


「……じゃあ、こういうのはどう? 二人が溜めた七年のお金を貴方の物にする。それなら仕返しとして丁度良いんじゃない? 六年の仕返しに一年分の利子で」

 そう言って手をぱんと叩き、ニコニコするルアを見て天堂は首を横に振った。


「興味ありません」

 ルアはその言葉を聞き、静かに涙を流した。

「……そんなの……それじゃあ貴方は失ってばかりじゃない……何もないじゃない……」

 その言葉に天堂は何も言えなかった。


『何もない』


 その言葉が自分を表すのにあまりにも適切過ぎたからだ。


「……ああ。私を地獄に落としたり悪魔の契約をさせたい訳じゃあなかったんですね」

 もしそうならこんな風に泣かないはずだ。

 そう思って天堂がそう言葉にするとルアは目を丸くして怒りだした。

「ひどいひどいひどい! 私はかず君の為になると思って言ってるのに!」

 そう言ってぷんぷんと拗ねるルアを見て、天堂は何故か無性に懐かしい気持ちになった。


「……ああ。そうか。私の代わりにしてくれてるんですね」

 その言葉に怒るのを一旦止め、ルアはちらっと天堂の方を見た。

「どゆこと?」

「何も出来ない私の代わりに怒って、私の代わりに悲しんで、そして私の代わりに笑ってくれていたんですね。ありがとうございます」

 天堂の言葉にルアは困った顔をした。

 それでも、否定する事なく確かに頷いた。


 少しだけ、一週間前よりも豊かになった様な気がする天堂の表情と、表情の種類の種類明らかに増えたルア。

 それがルアの優しさだと天堂は初めて気が付いた。


「……あれ?」

 天堂は違和感を覚え、ルアの方を見た。

 気づいてからみると、やはり恐ろしい位に違和感が残っていた。

「どしたの?」

 既に件の二人とその子供はどこかに立ち去っており、二人きりとなった広場でルアは首を傾げた。

「いえ。今までルアさんの髪に違和感を持っていなかったのですが……」

 ルアの髪はサラサラの綺麗なロングヘアーで、そして美しい白色である。

 まるで透明に近いその高貴な色合いはキラキラと輝いており雪も真っ青な美しさである。

 そして、とても自然の物とは思えないほどの怖いほどの美しさでもあった。


「ん? 変かな?」

「変というよりも、普通それだけ綺麗な髪でしたら目立つのに今まで言うほど目立っていなかったなと思いまして。私も何故か何ら違和感なく受け入れていましたし」

「まあそういう魔法使ったからね」

 魔法使いという言葉やそれが出て来る子供向け映画を天堂と共に見たルアはふんすを自慢げにそう答えた。

「他にどんな魔法を使っているか教えて頂いても?」

「えっとね……何か小さな紙持った人が寄ってこなくなる魔法と男の人がニヤニヤしながら寄ってこなくなる魔法と敵意、害意を持って寄ってくる人が五分後に死ぬ魔法」

 指折りながらの言葉に天堂は無表情のまま、誰かの捨てていった新聞に目を通した。


 日付は昨日の物で、一面には謎の連続不審死についてが載っていた。

 この辺りだけの特徴であり、警察は被害者が反社会的な集団であっ為抗争相手による毒殺を疑っているらしいといった記事になっていた。


「……まあ良いでしょう」

 別に天堂は博愛主義者でも何でもなく、ただのめんどくさがりなだけである。

 忠告も否定もせず、どうでも良い事として流した。


「それじゃ、後一つだね」

 そう言葉にするルアを天堂は見た。

「後一つ、とは?」

「魔法のランプをこすったら三つの願いが叶うんでしょ? だったら後一つだよ」

「……願いを叶えたつもりはありませんが?」

「願いがあるならちゃんと聞きますが?」

 そう返され、天堂はそっと溜息を吐いた。


 願いらしい願いはないものの、一つ小さなお頼み事ならば天堂の中にあった。

「……あまり体が丈夫ではないんです私」

「うん。知ってるよ」

 古傷と幼少時の生活の所為かそれはもうどうしようもない事である。

 それ自体も天堂にとってはどうでも良い事なのだが……一つ問題があった。


 そんな状況でルアに付き合って食事を取っていたら胃に来たのである。

「……一つお願いが」

 その言葉にルアは目を輝かせた。

「何何!?」

「……今日の夕食は、さっぱりした物を食べに行きましょう。お金はちゃんと出しますので」

 これ以上ラーメンや揚げ物が続くのだけは避けたかった。

「良いけど……お金大丈夫? 安月給な上に色々な人達に削られてるのに」

「ええ。使っていなかったのでまあそれなりにありますので」

 趣味もなく使う気もない天堂にとってお金すらもどうでも良かった。

 とは言えそれがないと生きられない為ずっと適当に貯蓄していた。

 だから本当に二人分の生活程度で困る事はなかった。


「はーい! じゃ、何時も通りご馳走になります!」

「ええ。さて、何かないかさがしましょう。正直うどんとかで良いんですが……」

「腹持ち悪いよー。もすこしがっつりしよ?」

「それがきついんですよ……」


 そう言いながら、二人は店を探すという新しく出来た日課を何時もの様に始めた。


ありがとうございました。

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