肉の禊ぎ
巨大な艦影が、超空間から浮上する。
スターディザスター級戦艦は主力戦艦である。500ギャラクティックフィート(1ギャラクティックフィート=約30ギャラクティックセンチ)の艦体は、主に武装区画と装甲区画で構成された前部、ならびに管制区画・主動力区画で構成された後部で成り立っており、単艦で有人惑星を更地に変える程度の火力を持っている。
外装であるナノテック積層装甲は、星間物質を取り込んである程度の自己保全、自己修復を行い、モジュール化され交換も容易である。ダメージコントロールのため前部区画はさらに細かく区画分けされており、区画ごとの分離投棄も可能である。
『レガシー』協力実験艦として改装され、観測内宇宙でただ一艦の『レガシーキューブ』搭載艦となるにあたり、機密保持のために名前を抹消され、その都度都合で名前を変える名無しの艦となる。そして同時に、『レガシー』の力による人類史上初のカテゴリー、超空間潜宙艦ということになった。
元々スターディザスター級は宇宙戦艦であり、大気圏内の運用は想定されていない。惑星の重力に捕まれば、その巨体も相まって、重力の井戸の底からの脱出は困難を極めるだろう。
だが、この艦には『レガシー』がある。艦体を超空間に沈め、超空間浮力の高い『レガシーキューブ』のみを露出させた状態ならば、『レガシーキューブ』みずからの重力制御能力で大気圏脱出は可能になる。
そもそも完全に超空間へ潜航してしまえば、通常空間の物理法則など関係がないのだ。
重力下実験も想定してある程度の構造強化が施され、大気圏内航行もカタログスペック上は可能、ということになっているものの、元々が純宇宙艦である。大気圏、惑星重力圏内航行によって艦体はギシギシと嫌なきしみを上げ、各所重力制御装置は負荷にあがらい、けたたましい轟音を立てた。
前部区画前方より係留用の重力アンカーが2本、垂れ下がっている。アンカーの先には小さななにかが吊り下げられていた。
牛の死骸だ。
スターディザスター級は牛の死骸を吊り下げたまま低空を航行していく。そしてやがて原住民の集落にたどり着いた。
集落はざわめきに包まれる。武器を取るもの、逃げ出そうとするもの、へたりこんで祈るもの。
次元振動音声が集落に響き渡る。
『当方に戦闘の意思はない。我々は交渉を望んでいる』
『これを見てほしい。牛の惨殺体である。我々が取得したとき、すでにこの状態であった』
『だがしかし、我々が牛を惨殺したのではないことを強く主張したい。我々は善意の第三者である』
次元振動波によりかき混ぜられた大気が気流となり、家々を、木々を、人々を震わせた。人々は必死に身を支え、弱き者は地べたに這いつくばる。
『独自の調査の結果、この牛はこちらに所属するものであると判明した』
『責任者に問いたい』『この牛の惨殺体を』『我々に譲っていただきたい』
『対価について協議し』『すみやかに返答せよ』
『繰り返す、可及的速やかに返答せよ!』
と、いうようになる感じのことを、コアたまごは簡潔に説明した。
「おい、やめろ」
と、無敵丸は言った。