おてんとさん管理社会
無敵丸は混乱をおぼえるが、なんとか手に入った情報を整理しようとする。
(宇宙とは、空の上にあるハイランダーの巣のことだな。別の宇宙と言うならば、ハイランダーとは別勢力か)
(あやかしが化身を作り、人にとけ込むのはよくある話だ。この大牛は強力な魔獣。肉も力に満ちている)
(上空から監視し、落ちてきた?高空からの落下をものともしない存在)
ちらりと上を確認する。木々、そして雲だけが見える。たまごを投下したなにかは、影も形も見えない。
(強大な存在。だが態度は友好的、寛容。そして稚気が多い)
(わけのわからん存在ではあるが、たたずまいにケイオスは感じない…なれば)
無敵丸は心の中で、悪い笑みを浮かべた。
(しゃぶりつくしてやろう)
(おだてに踊る甘ちゃんなら、言いくるめて良いように使ってやるさ)
(冷や汗かかされた分、運も巡ってきたじゃないか)
慎重に口を開く。
「…運べるのか?」
「モチよ」
「少し話をしよう。それは良いか?」
「いいよ」
間近な真新しい倒木に腰掛け、足元に宝玉を放り投げる。
「まず、お前は何者だ?ハイランダーと関わりがあるのか?」
「ハイランダーとかしらん。『レガ…』」
危ない。それを言ってはいけない。
「しがないたまご」
「なんのたまごだ」
(なんのたまご?マスターコアのたまごかな)
たまごは答える。
「コアたまご」
「牛の肉がほしいと言ったな。なぜ、わざわざ空から落ちてきて俺にたずねた」
「現地の責任者だから?」
無敵丸は目をつぶり、眉根を寄せる。鼻でため息をつく。
「…お前は俺が及びもつかん強力な力を持ってるよな」
「ギクー」
「ソンナノナイヨ。ナイナイ」
たまごは白々しく言う。無敵丸はそれを生暖かい目で見た。
「なぜ肉を奪わなかった」
「ん?」
「お前の力ならたやすかろう」
「おてんとさんが見てるから?」
「…何?」
無敵丸は思案顔で聞き返した。
「おてんとさん」
「…そうか。おてんとさんが見てるか」
「おてんとさんは強力なグレーターコズミックビーイングなんだ」
「いや、それはわからん」
無敵丸はしばらく黙考したが、やがて肩から力を抜いた。
「コアたまご、お前に仕事を任せることは、やぶさかじゃない」
「やったー」
コアたまごはホッとする。
「ただな、おてんとさんが見ていると言うのなら、ちょっとばかり具合が悪いことがあってな」
無敵丸はそれを見て、顎の無精髭をなでつけ、ニヤニヤと笑った。
「実はな、俺は牛泥棒なんだ」
「な、なんだってー!?」
「ムッチーは悪いやつだった?」
「悪ではないさ。…ムッチー?」
首をひねりながらも無敵丸は続ける。
「だれにだって立場や都合はある。この牛を奪うことで牛の持ち主は困るな?」
「困るー」
コアたまごは困った声で答える。
「だがこの牛は化け物牛だ。戦争に使われるものだ」
「それは確かに…結晶化ガスやレーザー発射口は確認した!ミュータントうしだ!」
「言ってる意味はわからんが、そうだ。そして俺は牛を持つ組織、それに対抗する勢力の者だ」
「潜入工作員だ!」
コアたまごは感心した。
「これは悪か?」
「いつもお仕事お疲れ様です」
「…おう。そしてこの牛の中身、こいつだ」
足元においた宝玉をつま先で軽く蹴飛ばす。
「これは魔石と言ってな、超常の力を秘めたものだ。こんなデカイのは貴重なものだな」
「エネルギー結晶体?中で光が動いてるしプラズマ量子コンピューターかな?」
「…こいつを欲しがる悪いやつがいてな?また別の敵だ。それをやっつける餌に使われる予定だ」
「勢力争いかー」
「つまりこの肉はもともと後ろ暗い牛の肉、しかも他人の争いの都合で殺され、奪われた牛の肉ということになる。とてもおてんとさんに顔向けできる代物じゃあない。…だがな、俺はお前にこれを運んでもらって、望み通りに仕事の分け前として肉をお前に渡そう」
「さて、コアたまご。…お前はどうする?」
「むむむ」
コアたまごは困ってしまった。
「…ムッチー、なんだか話をむつかしくしてない?」
無敵丸は真顔で答える。
「そうかもしれんな」
「…なんだかわざと、話さなくても良いところまで話してるでしょう」
「かもしれんな。話すと都合の悪い、黙っているべきことまで、つい口をついてしまったかもしれん」
「ムッチーはなんでそうやって、わたしを困らせようとするの!」
そしてキレた。
無敵丸は、それはそれは嬉しそうに、ニマーっと笑った。
「おてんとさんが見ているからさ」
「ムキー!」
コアたまごはポヨンポヨンと怒りをあらわにする。
無敵丸は真剣な顔に戻った。
「おてんとさんが見ているなら隠し事は無しだ、コアたまご。もう一度聞く。お前はその力でどうするつもりだ?」
コアたまごはむむむと唸っていたが、はた、と無い頭を上げた。
「肉の禊ぎをしよう」
「…何?」