おまけ
コンピューターは、ぼやいた。
«この星の人達がおかしいんですぅ~。銃口を突きつけられて怖がらないほうがおかしいんですぅ~»
タレットくんが困ったように、キュイイと回る。
示威戦力として期待されたタレットくんだったが、どうも周囲の手応えは今ひとつのようだ。
多くの住民はタレットくんのリボルバーマシンキャノンを見ても驚かず、おののかず、さらにはその多くがタレットくんを見て、不思議そうに首を傾げた。
周辺住民はコアたまごのことを認知したようだが、これでは遠出すればまた、無用のトラブルが寄ってくる可能性が高い。
「いうてー」
コアたまごは台座の上で足をブラブラさせながら、タレットくんを擁護する。
「やっぱり機械も人間も中身が大事?タレットくんは気立てもいいし、お弁当もしまえる。言うことない感ある?」
タレットくんは細かく首と胴を振って身じろぎしている。照れているようだ。
«タレットくんがいい子なのはよく知っております。ただ今は見た目の影響力が求められる局面なのです»
«いいですか?マスターはおそらくこの銀河最強の空間打撃力をお持ちですよね»
「わりと屈指かな?」
«しかしマスターを見て恐れおののくかたはおりません»
«もしかしたら恐れるよりも癒やされてしまうかも知れません…»
コンピューターは悲しそうに言う。
コアたまごは周辺住民に対しては、『抉りの魔女コアット=マゴット』として通している。その恐ろしい異名とは裏腹に、近所のおばちゃんから貴重なお菓子をもらったり…献上されたりしているのだ。
«それでは世に潜む悪意を祓うことは不可能なのです。良きかただけと関わることなどできないのですから»
「ふむ」
コアたまごはもっともらしくうなずく。
「実戦力より示威力が不足している現状を憂いているのはわかった。で、どうするの?」
«実は、ドロイドくんが一晩でやってくれました»
「一晩で」
よなべしたようだ。
«はいっていいよー»
固く閉ざされたハッチがコンプレッサー音とともに開く。
それは重厚な関節作動音を響かせながら、ゆっくりと入ってきた。
『黒騎士』。一言で形容するならばそれだ。
黒く塗装された重厚な陸戦装甲服。現地風のマントをなびかせながら、キュイイ、キュイイと作動音を背負い、装甲脚部を踏みしめてそれは入ってくる。
頭部は髑髏を思わせる意匠が施されている。『黒騎士』が立ち止まると、髑髏の双眼が鋭い音を立てて光った。
黒騎士は貴人にかしずくように握った腕を胸の前に当て、足を引き敬礼を取る。
『参上つかまつりました、ユア・マジェスティ』
渋いしわがれ声で言う。
コアたまごは目をキラキラさせている。
「かっこいい!」
『恐縮です』
«なかなか権威と示威を感じる良い出来だと思います»
コンピューターも得意げに言う。
敬礼を崩さず、黒騎士は言う。
『マイ・マスター。我に使命を。そして新しき名をお与えください』
コアたまごは困ってしまった。
「名前かー。あと使命?」
『恐縮です。我が使命は元々マスターの裏方。ですが新たな力を得て前面に撃ちいでる今、それにふさわしき名と使命を賜りたき所存』
コアたまごはうなずく。
「わかった。ただし、虚飾の使命や名前は与えない。実務と効力を持って誇りとなすことを誓うのならば、わたしは君の献身の意思に答えよう」
『無論…誓います』
「ならば使命と名を与えよう」
コアたまごは台座の上から手を伸ばし、黒騎士の額の上に手のひらを差し出す。
「『ショッピングワン』!おさとうを買ってきてくれ!」
スラムの雑貨屋の主人は、昔はさんざん豪腕で鳴らした男だ。腕っぷしと度胸がなくてはスラムで商店などやっていけるものではない。
しかしその日は心底ビビった。
「いらっしゃ…」
主人は唖然とする。
キュイイ、キュイイと躰をきしませながら、それは入ってきた。
異形。
それは髑髏の騎士だった。
屈強な体躯を洗練された鎧に包み、ボロボロのマントをなびかせる。
髑髏の顔が主人をとらえると、その双眸が鋭い音を立てて光った。
「ひっ」
縮こまった主人に向かって、その鎧に包まれた腕が迫る。主人はおののき、死を覚悟した。
その差し出した腕、その手のひらには銀貨が一枚載っていた。大銀貨だ。
髑髏の騎士は、言った。
『おさとうを…くれ』
「ひいいいっ!!」
主人は恐れ慌てふためき、砂糖の壺を探す。混乱の余りどこにあるのかわからなくなっていた。
『これぞ、我が使命』
髑髏の騎士『ショッピングワン』は、満足気に言った。
「そういえばドロイドくんは?」
コアたまごは尋ねた。
「えっ」
コンピューターは意外そうに答えた。
 




