グランドフィナーレ・カーテンコール
『わたくし、まだムッチー様のことを許していないんですけど。マスターのことを踏んづけたこと、わたくし未だに根に持っているんですよ』
「…誰?」
「コンピューター」
「…ああ。コアたまごのご母堂でしたか。道理でよく似ていらっしゃる」
『んまぁ!』
『…良いかた!ムッチー様は良いかた!』
キュイイと音がする。
日が暮れて、アドベンチャラーズインの喧騒は一層の勢いを増す。
ここに集まる悪漢達は、不思議とどこか上品だ。怒号も哄笑もなく、酒や食器が宙を飛ぶこともない。鯨飲するものも、怪しい賭け事に熱中するものさえも、談笑の輪の仲だ。
スイングドアがギギと開き、黒衣の男を先頭にした一団が入ってくる。
喧騒の中で、黒衣の男に気安く声をかけようとする者たちもいる。だが、その後ろに続くものたちを見て、躊躇したり押し止められたりしていた。
それは、子供だった。銀灰色の髪色の、あまりに可憐で美しい女の子だった。胸の上にはアクセサリーだろうか。大きな金属のボールが付いている。
勝手に動く奇妙な筒がついてきている。底面に付いた軟質のボールを転がして、その円筒は、子供の後ろをトロトロ走る。
黒衣の男はカウンターに向かう。そこでは屈強すぎる蛮族の戦士が食事をし、カウンターの向こう側では壮年で頭頂の禿げ上がった、彫りの深い顔をした店主が、食器を磨いていた。
「おつかれさん」
店主は黒衣の男に声をかけて、チラリと後ろの子供に目をやる。
「…お前が肉屋のケツを持つ、で良いんだな?」
「ああ。…肉屋?」
無敵丸はうなずく。そして首をかしげる。
そして振り向き見渡して、よく通る大声で呼びかけた。
「みんな!聞いてくれ!」
喧騒が一斉に止み、視線が集まる。
だが、あの時のような、冷たく固い、閉ざされた空気ではない。
すっかり治っている腕でコアたまごを指し示し、酒場の皆に呼びかける。
「肉屋のコアたまごだ!」
コアたまごは、ふんすと鼻息を吹く。
「こう見えて凄い化け物で」
コアたまごは振り返り、何かを期待するかのようなキラキラした黒い目で、無敵丸をじっと見つめる。
無敵丸は降参とばかりに軽く両手を上げて、口を歪めて首を振る。不器用な苦笑だ。
「…俺のダチだ」
コアたまごは無敵丸に、にぱーっと笑い顔を向けた。必殺の、満面の笑顔だ。
「よろしくなコアたまご」
「よく来たな、肉屋」
「コアちゃん、お姉さんの膝に来る?」
「コアたまご、芋を食え」
「あー、そうだ肉屋、肉を売ってくれ」
「ムチムチ丸、おつかれさん!」
「大変だったらしいな、ムチムチ丸!」
「大将!先にいただいてますぜ!」
一斉に声がかかる。場に喧騒と談笑が戻った。
芋を食べる、強い戦士ジャックがいる。
布で包んだ長物を立てかけ、革の帽子を被ったギョロ目の男が手を振っている。
目の部分だけ開いた黒い革袋を深く被る、巨漢の男がいる。
淡い髪色の、豊満な褐色の女がコアたまごに手招きしている。
隅にはゴブリガンが、私服で縮こまっているのが見える。
他にも大勢の悪漢たちが、賭け事をしたり酒を飲んだり、興味深げにコアたまごたちを見たりしている。
アドベンチャラーズインの夜は、こうして更けていくのだった。




