ラスト・アタック
無敵丸の刀が、真一文字に『粉微塵』を切り裂く。
「あっ」
コアたまごは、声を上げた。
『粉微塵』の鉄仮面がふたつになって落ちる。すでに魔石は光を失い、ただの濁ったガラス玉のようだった。
そのまま『粉微塵』はふたつに分かれ、両側に倒れていった。
無敵丸は立ち上がり、頬を膨らませて深く息を吐く。
「やはり、マギウス粒子の探知で判断していたか」
「だが隷属の首輪を外し、『ひそひそ』も外した俺のことは、探知できなかったようだな」
無敵丸は、ゆっくりと刀を鞘に収めた。
「悪かったな、コアたまご。だが、こっちもお前と違って命がけでな」
コアたまごは黙っていた。
「そう気を悪くするな。だが、気を引いてくれたおかげで助かったぞ。お前のおかげでなんとか今日も生き延びて、仕事を終えて一杯だ。まあ、回収ができなかった以上、仕事は半分失敗だがな」
「まったく、強さとしぶとさは見てはいたがな。お前の頑丈さには恐れ入る。お前にかかれば俺の無敵の名も返上せねばならんな」
コアたまごは、言った。
「試してみる?」
「何…?」
「わたしの頑丈さを、揺るがなさを試してみる?ムッチー」
無敵丸はコアたまごを一瞥する。そして肩をすくめてみせた。
「俺は、勝てない戦いはしない主義でな。気持ちだけ受け取っておくよ」
「わたしはなるべくだけれど、すすんで周りを巻き込むことのないように、ただそこにあるようにしている。ムッチーの試しを、わたしは決して辱めたりしないよ」
無敵丸は、困ったような、たしなめるような顔で黙っている。
「そしてわたしは、決してムッチーの技と刀によって、損なうことは出来ないよ」
「…ほう…?」
「ムッチーが従っている、本当はその刀で断ち切りたいなにかより、わたしはずっとずっと固く、強いよ」
裂帛の気合。おぞましき凶相を浮かべ、咆哮する無敵丸がコアたまごに渾身の一撃を振り下ろす。抜き打ちからの刀の軌道が、空中に美しい弧円を描いた。
激突音。空気が震え、砂埃が舞い、あばら屋が軋む。
刀がへし折れ宙に舞った。それは異常なほど捻じくれ、激突の凄まじさを表していた。
同時に無敵丸の腕が、肘の下からへし折れて跳ねる。刀の柄が手を離れ、宙を舞った。
「ぐおおおおおぉぉぉぉ…」
無敵丸は跪き、俯き、呻く。脂汗が吹き出し、地面にポタポタと落ちた。
コアたまごは、しばらく黙っていた。そして無敵丸に向かって言った。
「じゃあね、ムッチー」
「待て!!!」
絞り出すような絶叫が、コアたまごを押し止める。
「…なあに?」
「…待て、コアたまご…俺と…」
無敵丸は油汗まみれの蒼白な顔をあげ、コアたまごを見てニタァっと笑った。
「俺と、友誼を結ぼうではないか!!!」
コアたまごは、少し黙ってから言った。
「…どうして?」
「凄いものなのだろう!!」
「えぇ?」
「そうだ。強いだの固いだの、そんな言い方すべきではなかった。お前、凄いものだろう!!」
「…まあ、そうかも?」
「そんな凄いものと友誼を結んだとなれば」
無敵丸は、凶相をうかべて笑う。
「俺に、箔がつくというものだ!!!」
「えぇー?」
コアたまごは、なんだか困ってしまった。
「最初からおかしいと思っていたんだ」
「お前、それだけ凄い存在なのに、どうして人に化身した?しかもあの姿だ」
「わざわざ材料を交渉しに落ちてきたのは何故だ。おてんとさんなど言い訳だろう」
「のこのこ出歩いて、トラブル起こしちゃ帰るだけ。なぜ戦う気もないのにフラフラしている」
「なぜ力を見せることを避ける。降りかかる悪意に、何故殺り返そうとしない」
「これだけ情報が揃えば誰にだってわかる。自明の理だな」
無敵丸はニヤニヤ笑いながら、言った。
「お前、かまってほしくて来たんだろ!!」
「ドキーン!!」
「お前、パワーがありすぎて、前のとこハブられたな!!」
「あーーー!!」
「やめて!!」
無敵丸は喚くコアたまごを見て、折れた腕をブラブラさせながらゲラゲラ笑う。
「ハジカチー」
コアたまごは、ふと、折れた刀に気を止める。
「武器、折れちゃったね」
「ああ」
無敵丸は、気にもとめずに言った。
「研ぎ減らした数打ちさ」




