表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/61

サムライ・ショウダウン

(さて、殺気を消したおかげで、なんとかターゲットから外れたようだが)


 ゆったりと、あぐらをかいたままの無敵丸は考える。

(正直なところ、このままコアたまごに押しつけるか、コアたまごを囮にして戦いたいがな。…『粉微塵』だったか?こいつより遥かに厄介な存在が、このコアたまごだ)


(まあ、殺るしか無いな。とにかくこの、無防備状態をなんとかせんと…)



 その時、マギウス通信が無敵丸の鼓膜を揺らした。


『大将、射線確保しました。いつでもいけます。上空に超力兵が来る前に頼みますよ』


『…待て』


 咄嗟に咎める声が上がった。鉄仮面が無敵丸をねめつけるように動く。奥底の光が揺らめいた。


『そこ、何を話している。マギウス通信の流れが見えるぞ』



 無敵丸は肩をすくめて見せる。

「仕事の話だよ」


 『粉微塵』はそれを聞いて、こころもちしみじみと言う。


『そうか…正しいこととは言え、くつろぎの食事時にご苦労なことだ』


(正しさ、か。このこだわりを、ほじくり返していくか)


 無敵丸は、静かに覚悟を決めた。




「コアたまご。麸…天ぷらをもっとくれ」


「はい」


 コアたまごはスプーンで掬って渡す。

「気に入った?」


「懐かしい味ではあるよ」


 無敵丸はそれを噛んで飲み込み、『粉微塵』のほうを向いた。



「あんた、名はなんと言ったかな」


アイアーム(私が) ディスインテグレート(粉微塵だ)!』


 『粉微塵』は左手の親指で、自分をビシッと指し示す。


「『粉微塵』、俺と勝負しないか?正々堂々、インチキなしの正式な決闘だ」


『ほう?』


 『粉微塵』は興味を示したようだったが、鉄仮面でかぶりをふる。


『私には、貴様と戦う理由がない。戦う正しさがないのだ。巻き込まれたくなければ、どこへなりとも消え失せろ』


(俺が首を斬っただろうが!記憶が飛んでるのか?)


 無敵丸は顔をしかめる。だが遠慮なく立ち上がり、近接刀に手をかけた。

「いいや、正しいね。これは実に正しい戦いだ。これこそ万人が認める正しさというものだ」


 無敵丸は首を傾げて、ニヤリと笑う。

「俺の刀とお前のマギウス、どっちが速いか試してみようぜ」




 周りにはいつのまにか、遠巻きに見物人の人垣が出来ている。周りの喧騒が聞こえてくる。


「何なに!?」


「黒衣の剣士が子供をかばって、鉄仮面の化け物と戦ってるんだって!」


『それは正しくない』


 『粉微塵』は、呟く。


「あの化け物の姿!ケイオスの怪異というやつじゃないのか!?」


「怖いわねぇー!人間の国に入り込んでくるなんて!」


『その認識は正しくない』


 『粉微塵』は、呟く。




「で、どうなんだ?俺の刀より速く、詠唱できる自信がないか?」


 無敵丸は『粉微塵』に、返答を急かす。


『ふん』


(『観客の中に、高レベルマギウス使いが、二人。仕込んできたか』)


 周囲を探り、『粉微塵』は答えた。


『私の粉微塵は、今や私自身の能力だ。詠唱など必要ない。それでもその刀一本だけで、勝てると見込んだか?』


「そうかい。そいつや鍛えたもんだな」


 無敵丸のさりげない返答に、わずかに言葉に詰まる。


『…鍛えてなどいない』


「自信がないか」


『…その挑発に、乗ってやろう。ここまでくれば、後には引けないのが正しさというものだ』


「よし、決まりだ」



 無敵丸は突然、大声で観客達に呼びかけた。

「おい、お前ら。聞け!!」



 黒装束の隠しから大銀貨を取り出して、掲げてみせる。

「この大銀貨を投げて、地面に落ちた瞬間が、この決闘の始まりだ!!」


「それまでは一歩も動かず、武器にも触れない!マギウスの準備もしない!!」


「これが決闘のルールだ!!」



「いいぞ!!」「早く始めろ!!」「だれか胴元しろよ!」


 観客達がガヤガヤと答える。



 無敵丸は続ける。

「こいつは、立会人もいない決闘だ!ルールを守らせるやつなどいない!!」


「すなわち!ルールを守らせるものは、約束と、誇りだけだ!!」


「そんなもん、この街にはねえよ!」


 誰かが茶々を入れる。ゲラゲラと笑い声が起こった。


「約束を守ることが出来ないのは、そうしないとこの街では生きていけないからだ!!」


 無敵丸のよく通る声に、笑い声がスッと止む。


「約束は、正しさだ!正しさは、強くなければ守れない!!」


「そしてこいつは、強さを競う決闘だ!!」



「つまり、この決闘のルールを守れないやつは、これから一生」


「正しさも誇りも強さもない、インチキ野郎だ!!」



 観客が調子づいて返す。

「おお!」「おう!そうだ!」「早く始めろ!!」「約束破りは、ゲス野郎だ!」



「どう言い逃れようが、言い繕おうが、擁護をつけようが、償いをしようが、そいつは一生、クソ野郎だ!!」



「いいぞ!!」「早くやれよ!!」「守れないやつは弱いやつだ!」「ずっと言いふらしてやるよ!」



 無敵丸は、『粉微塵』に向き直る。

「と、いうルールでどうだ?」




『べらべらとよく、口が回るものだ』


 『粉微塵』は心持ち愉快そうな声で答える。


『名を聞いておこう』


(ん?)


 無敵丸は少し疑問に思う。

「我神一刀、無敵丸だ」


『よかろう無敵丸。だが覚えておけ。先に横紙破りをするものに、私はルールを破る躊躇はないぞ』



 コアたまごはこの様子を、ぺたんと座ったまま目をキラキラしながら眺めていた。そして肉のペーストを、すくって食べた。



「よし。ならば、行くぞ!」


 無敵丸は、大銀貨を親指に乗せて弾いた。

 大銀貨は、高く、とても高く舞った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ