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コアたまごのフードチート

「あっ、ムッチーおる」


 タレットくんと連れ立って歩くコアたまごは、昼間から怪しい格好で、ノシノシと歩いてくる無敵丸を発見した。

 ところどころ焦げて油臭いクロークフードと黒装束を身にまとい、近接刀を腰に下げている。局地装甲服のマスクも健在だ。

 とても昼間の人前を堂々と歩く格好ではない。通りすがる人々も、決して目を合わせようとしなかった。




「ムッチーやーい」


 トテトテと近寄っていくコアたまごに、無敵丸も声をかける。

「おう、コアたまごか」


 そしてトロトロとついてきたタレットくんに目を向ける。


「…後ろのはなんだ?」


「タレットくん」


 コアたまごの答えに合わせ、タレットくんは頭と胴体をキュイイと同じ方向に回してみせる。


「ふぅん」


 無敵丸は小首をかしげた。そしてしげしげとタレットくんから突き出たリボルバーマシンキャノンを見る。


「お仕事終ったの?」


 コアたまごの問いに、無敵丸は肩をすくめる。

「因縁をつけて型にはめるだけの、碌でもない仕事だったさ」


「大変ね」


「後始末がひとつ残ってるんだがな。まあしばらく様子見だ。無手勝流と言ってな」


「ふむ、カツか」


 コアたまごは何か理解したていで、深くうなずく。

「わたしは天ぷらを食べに行くところ」




「…なにっ!?」




 無敵丸は驚嘆する。

「天ぷらだと!?」


「ムッチーも食べる?」


「…それは流石に相伴に預かりたいな。俺は天ぷらが大好物だったんだ」


「しょうないなぁー。ここで食べちゃう?」


「…ここでか?」


 ある程度の人通りがある闇市場近くの通りだ。


「こんなこともあろうかと、ドロイドくんが用意してくれたんだ」


 コアたまごは高らかに指示を出す。

「タレットくん!サイドチェストだ!」




 タレットくんの両側側面が、気密が破れ空気を吸い込む音とともに、カパリと半端に開く。

 コアたまごはそこに手を突っ込み、ゴソゴソとまさぐってピンク色の四角い塊を取り出す。


「ハーフサイズ」


 コアたまごの声に合わせ、ピンクの塊は跳ねるように広がる。


「ナノテックレジャーシートさ」


 それは、縦10ギャラクティックフィート、横5ギャラクティックフィートほどに広がった。コアたまごはそれを道に敷き、中央にぺたんと座った。




 ナノテックレジャーシートは、ナノテック装甲板で有名なナノテック社が開発した、高反発レジャーシートである。

 軽量かつ携帯性の高さから、惑星にお住まいの皆様や、レジャー施設のあるコロニーの方々において、恐るべきシェアを叩き出していた。ナノマシンによって清潔さを保たれ、色落ちもなく、弾力がヘタることもない高性能レジャーシートだ。




 コアたまごが土足で座ったのを見て、無敵丸も土足で踏み入り端にあぐらをかいて座る。サイドチェストを開けたままのタレットくんも反対側に鎮座する。


 道行く人々は、迷惑そうな視線を向けるものもいたが、多くはコアたまごを見てニッコリと、あるいは狡猾そうに目を細める。そしてタレットくんを見て首を傾げ、無敵丸を見て目をそらし、そそくさと離れていった。




 あぐらをかいた無敵丸が、局地装甲服のマスクをはずす。

 マスクの中は、中年の顔だった。つぶらな垂れ目、頬骨が浮き出ており、エラが張った顎には少し無精髭が伸びている。

 眉毛は剃っており、とうもろこしのような髪が頭頂部からたれていた。


「だれ?」


 コアたまごは、言った。


「蒸れるんだこれ」


 言いながら、謎の男は頬骨のあたりに指を突っ込む。皮膚が頭皮までベリッとめくれ上がり、なかから精悍な顔が出てくる。鋭い目に輝く黒い瞳、黒い短髪を後ろに流している。

 つづいてグローブを外し、指を口の中に突っ込む。歯茎と頬の間から唾液まみれの綿の塊を取り出して、そのへんに放り投げる。それを四度繰り返した。


「マスクインマスクだ」


 言いながら見ているコアたまごに向かって、無敵丸は悪びれずに言う。

「コアたまご、早く天ぷらを食わせろ」




 無敵丸が準備万端整えたのを見て、コアたまごは立ち上がり、タレットくんのサイドチェストに手を突っ込む。そしてたまごを型に抜いたような、平たい箱を取り出した。

 その平たい箱の天板は大きくふたつに割れたたまごが描かれており、その隙間から黄色い鳥のヒナの絵が顔をのぞかせている。


「じゃじゃーん」


 コアたまごが言う高らかなファンファーレと共に、箱の蓋が開かれた。

 無敵丸は心持ちほころんだ顔で、それを覗き込む。


「天ぷら弁当ー」


 コアたまごは自慢気に言った。


「待て、コアたまご。待て」


 無敵丸は眉根を寄せて、眉間をつまむように手を当てた。




 弁当箱は仕切りによって、3つに分かれていた。それぞれ色が違うペースト状のものが、ぎっちりと詰まっている。


「コアたまご」


 無敵丸は気を取り直し、コアたまごをうながす。

「詳しく」


「しょうがないなー」


 サイドチェストから取り出したスプーン(柄のところに、弁当箱と同じような図柄がたくさん描かれている)で、区分けされた一番上を指す。


「バナナ」


 クリーム色のペーストだ。


「ああ」


 無敵丸はうなずく。



「肉」


 茶色いペーストで、弾力がありそうだ。


「こないだのだな」


「うん」


 無敵丸の言葉に、コアたまごはうなずく。



「天ぷら」


 肌色に近い白いペーストで、エアーのすが入っている。ふかふかした質感だ。


「これがわからない」


 無敵丸は言った。


「天ぷら弁当ー」


 コアたまごは満足げに、もう一度言った。




「その天ぷらな。なにで出来ているんだ?」


「加熱した合成グルテン」


 コアたまごは天ぷらを、スプーンですくう。そして無敵丸の手のひらにすくったものを載せた。

 無敵丸は微妙な顔をしながらも、口に入れて咀嚼した。

「…ああ、麸か」


 コアたまごはその言葉に少しうつむいて、自分でもそれをすくって食べる。

 無敵丸は神妙そうに聞いた。

「米はないのか?」


「何、それ?」

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