空中と屋根の上の戦い②
ゴブリガンは戸惑う。超力兵団のスカウトマンから、攻撃を受けている?
…圧迫面接?
ゴブリガンは思い至った。
なるほど、超力兵団というのは戦闘組織である。常在戦場。いついかなる時にでも攻撃に備え、対応できる人材。
エフランだったゴブリガンにはわかる。それは口で言うには安くても、とても常人のおよぶことではない。
超力兵団、なかなかマッチョな組織のようだ。ゴブリガンの好みではないし正直引く。
憧れたものの現実など、こんなものなのかもしれないな。そうゴブリガンは思う。
おっと、また攻撃だ。放たれたエネルギー弾を、ひらひらと避ける。屋根を踏み外しそうになったので、慌てて隣の家の屋根に飛び移った。
完全に発動を読まれている。『マギウス弾』は初歩的なマギウススペルではあるが、見てから避けられる弾速ではない。
ファントム04は頭に血が上る。あの動作。完全に馬鹿にされている。
しかも異常者は、攻撃してくる様子がない。
…建物を爆破したことで、マギウス切れを起こしたのか?
マギウス通信で、ファントム02に提言する。
『接近して攻撃します!埒が明かない』
『危険だ04!この位置で奴が攻撃してこないのは、奴の射程外だからだ!我々を引き込もうと、挑発しているんだ!』
ファントム04は、『仮面』の下で唇を噛む。
『ならば【爆裂火球】を使うべきです!』
『正気か!下には街が広がっているんだぞ!』
『不法移民のねぐらなど、燃やし尽くせば済むことでしょう!!』
『04!!』
ファントム02の怒鳴り声に、04は身をすくませる。
『…ならば私が殺る。そこで見て頭を冷やしていろ!命令だぞ!』
『そんな!』
狙いが正確な高速弾である『マギウス弾』は、絶対に回避不可能な距離がある。
身のこなしはともかくとして、異常者の動きは人の範疇を超えない。そこまで接近すれば、確実に無力化が可能だろう。
しかし頭に血が上ったファントム04であれば、思わぬ反撃に対して対応できない可能性もあった。
ファントム02は複雑な回避運動を入れながら、異常者に接近する。
奴は素手だ。ならばおそらく奴が仕掛けてくる攻撃は、マギウスによる攻撃。こちらが『盾』のマギウススペルを使えば、『マギウス弾』程度の攻撃なら弾くことが出来る。
それを見ながらファントム04は、未だ怒りの収まらぬていで、呟いた。
「どうせ派手に燃えているんだ。少しぐらい燃やしても同じだろうに」
その時、ファントム02は異常者の攻撃を受け、墜ちた。
血まみれの体はどこかの家の屋根を跳ね、下の路地まで墜ちていく。
ファントム04は『仮面』の下で、真っ青になった。怒りなど吹っ飛び、背筋が凍った。
くるくるぐにゃぐにゃと迫る超力兵団を見て、ゴブリガンは苛立った。
ちょっとこれは馬鹿にしすぎでしょう。間違いない。これはアピールだ。僕はこんなにも飛べるアピールだ。
ゴブリガンは空を飛べない。やめろ、そのアピールは俺に刺さる。ゴブリガンは苛立ちを抑えきれなかった。
「ヒャーーーーーーー!!」
額の宝玉が光り、白い煙が立ち上る。
煙から出現したプロジェクタイルキャノンは前装式だが、弾丸は交換が可能だ。出現時に弾丸はすでに換装済みである。
ゴブリガンは叫ぶ。
「ショットガン!!」
普通だ。
爆音とともにプロジェクタイルキャノンから放たれた散弾が、接近するファントム02に襲いかかる。
咄嗟に『盾』のマギウススペルを無詠唱で発動する。通常詠唱時の数倍の負担がかかり、力が抜け総毛立つのを感じた。
不可視の『盾』は散弾を防いだが、これは上半身を隠す程度の丸盾だ。胸部と頭部以外の箇所に、多数の散弾が食い込む。ファントム02は絶叫した。
集中が途切れ、『飛行』のマギウスが維持できない。
浮力を失い、ファントム02の体は墜落する。どこかの屋根に衝突し、ファントム02の意識は途切れた。
「マギウススペル『爆裂火球』、発動おおおぉっ!!」
裂帛の気合とともに放たれた炎の球は、『マギウス弾』に比べれば遅く鈍く、だが勢いよくゴブリガンに向かって飛翔する。
キャノンを白煙に消しながら、余裕ぶっこいてひらりと飛んだゴブリガンだったが、炎の球はゴブリガンに向かって弧を描く。
それをみてゴブリマンは慌てた。着地の変なポーズのまま絶叫する。
「あーーーーーーー!!」
着弾とともに炎の球は、轟音とともに爆発した。
炎の匂いもなにもなくそれは燃え広がった。ゴブリガンは火達磨になり、爆圧で吹っ飛ぶ。
ゴブリガンは隣の家の屋根まで吹っ飛び、ゴロゴロ転がった。
炎に包まれながらも中腰で足をクロスさせ、手をダラリと両側に広げる。
「ヒャーーーーーー!!」
白煙とともに、ゴブリガンは全裸になった。
「キャーーーー!」「ぶはははは!!」「いいぞ!怪人!!」
遠巻きに悲鳴と歓声、拍手が巻き起こる。観客が集まっていたのだ。
ゴブリガンは嬉しくなった。すっくと立上がり、笑顔で目を見開いて、首を傾げ舌とイチモツをダランと垂らしながら観客に手を振った。
悲鳴と歓声が大きくなる。
「下等な愚民ども!!」
ファントム04は激怒した。
魔法の炎は家に燃え移り、木が燃える匂いが立ち込める。
血の昇った頭で考える。奴は次元マギウス使い?『アイテムボックス』を使うのか?タワーが求める次元マギウスを。
こんな愚劣な化物が、この私を差し置いて、タワー入りするだと!?
「許されざるをぉぉぉーーーっ!!!」
『仮面』の裏につばを飛ばしながら、もつれた口で絶叫する。
そうだ。このまま『爆裂火球』の炎で囲んで、煙に巻いて殺してやる。何発でも何発でも。こんな卑しい愚民どもが、何人死のうとかまうものか!
この知的な戦闘センス!瞬時に踏み込める判断力!私こそタワーにふさわしい人間であるはずだ!
ファントム04は握り潰すように力を込めて、憎悪の感情とともに手のひらを異常者に向ける。
「マギウススペル『爆裂火球』、発ど」
高速で飛来したなにかが、ファントム04のあごを砕く。なにかは砕け散り、激しく飛び散った。
キュインと、風切り音が遅れてやってくる。のけぞったファントム04はくるくると、回転しながら墜落した。
飛び散ったなにかの破片が、全裸のゴブリガンまで飛んでくる。顔についたその破片を指で拭い取り、しげしげと観察した。
芋だ。
芋の破片だ。
燃え落ちたわけでもないというのにメキメキと音を立てて、『爆裂火球』で燃え上がった家が崩れ、潰れる。
すぐそこに、何かがいる。なにか強大な存在がいる。
危機はまだ続く。全裸のゴブリガンに、寒気が走った。




