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空中と屋根の上の戦い①

 超力兵団。

 マギウスシティが誇る、エリートマギウス使いのみで構成された自衛軍である。

 最低限『飛行』のマギウススペルを使える者のみを採用基準とし、その恐るべき機動性と制空能力、対地攻撃によって、いざ戦闘となればおそるべきキルレシオを叩き出した。


 特徴的なのは、その顔面を完全に隠す『仮面』である。

 飛行中の呼吸と詠唱を助け、正体を隠すことによる戦闘忌避の排除を目的としたその『仮面』は、超力兵団への畏怖と恐怖の象徴となっていた。

 ただ、彼らはジャスティスタワーに入れなかった者たちである。口さがないものは、タワーの二軍、タワー落ちなどと揶揄することもあった。




 コードネーム:ファントム04は、ファントム02とともに、空中からスラムの爆発火災へと急行していた。本来は魔石兵と呼ばれる戦闘兵器に当たる予定であったが、出撃間際の爆発発生により、急遽小隊をふたつに分けたのだ。

 爆発火災は延焼を広げ始めている。ファントム04は、自分たちの手には負えないことを確信した。



 放置してファントムリーダーの元への合流を提言しようとしたが、火災の近くのあばら家の屋根に、おかしなものを発見する。

「マギウススペル『千里眼』、発動!」



 強化された視覚によって、おかしなものを確認する。そして、ファントム04はあわててファントム02にマギウス通信を入れた。

「マギウススペル『ひそひそ』、発動!」


『04より02!爆発の犯人を発見!!繰り返す!爆発の犯人を発見!!』


 即座にマギウス通信が帰ってくる。


『02より04、何を言っている?まだこの火災が、人為的なものかどうかさえわかっていない!』


『04より02!見てください!あそこです!!』


 ハンドジェスチャーで、おかしなものを指し示す。

 ファントム02は『千里眼』で、04が指し示したものを確認する。



『犯人だ!!』


『そうでしょう!!』



 あばら家の屋根の上には、奇妙な風体の男がいた。はげしく地団駄を踏んだり、奇妙なポーズをとったり、ボーッとしたりしている。


 『千里眼』のマギウススペルで確認すると、その異常性がよくわかった。

 男は、はっきりと体の線が浮き出る仕立ての、緑色の皮を継ぎ接ぎして作られた、頭までを覆う顔出しのボディスーツを付けていた。

 ファントム04にはわかった。それはゴブリンの皮だ。ゴブリンから剥ぎ取った皮だ。明らかに異常者だった。

 異常者は口の周りに赤く、裂けた口をかたどった隈取りをしている。その顔が、突然こちらを向いた。



 ファントム04は空中という圧倒的優位にいるにもかかわらず、恐怖に震え上がった。


 異常者は、笑った。


 こちらを見て目を剥き、首を傾げて笑ったのだ。舌を異常に垂れ下がらせて、笑ったのだ。




『04!しっかりしろ!【飛行】のマギウスを維持できなければ死ぬぞ!ひとまず着地しろ!』


 ファントム04は我に返り、『仮面』の下を紅潮させる。そして恥への怒りによって自らを奮い立たせた。


『まだやれます!犯人を制圧します!』


『04!【爆裂火球】は使うなよ!【マギウス弾】でやる!』


『了解!』



 二人は、その緑の異常者にむかって猛然と襲いかかった。




 ゴブリガンはただ手をこまねいて、誰かの家の屋根の上から、しばらく研究所の火事を眺めていた。

 なにかしなくては、というのはわかる。しかし、ゴブリガンには何をすれば良いのか、何をするべきなのかわからなかった。

 火事から逃げ出す人が見える。物見高い野次馬がいるのも見える。

 彼らの幾人かはゴブリガンに気づいたが、目を合わせようとはせず、仲間内でヒソヒソと話しながら、ただただ離れていくばかりであった。




 額の宝玉が、不思議な感覚を感知する。なにかに見られている。

 ゴブリガンは緊張した。何かを振り切るように激しく地団駄を踏んで、無言でゴブリガンポーズを取る。

 …観察者は、このかっこいいゴブリガンポーズを見たはずだ。

 ゴブリガンは、そっと気配の方を振り向いた。



 人が飛んでいる。二人組だ。

 エフランの記憶が告げている。特徴的な『仮面』。あれは有名な、超力兵団だ。

 一人ひとりが冒険者ギルドSランクに相当するという、あの超力兵団だ。かつて憧れた存在のひとつである。

 ゴブリガンはキラキラ瞳を輝かせ、渾身の決め笑顔を送った。



 二人組はうなずき合い、こちらに向かって飛んでくる。



 これは、スカウト!?

 超力兵士ゴブリガンが始まってしまう!?

 ゴブリガンを、全能感が包んだ。



 額の宝玉が、危険を告げる。

 ゴブリガンは一つだけ、重要なことを知っていた。

 ゴブリガンの強さは、宝玉の強さ。宝玉の力がなければ、変身前のエフランという凡人に戻るしか無いのだ。

 ゴブリガンは宝玉を信じた。両手を高く上げて組み、華麗にくるくるスピンしながらその場を離れる。



 ゴブリガンのいた場所に、二発のエネルギー弾が突き刺さる。それらはあばら家の屋根を砕き、突き破った。

「わお」


 華麗に着地した、ゴブリガンは言った。




 ファントム04は、02とうなずき合う。02からマギウス通信が届く。


『手でも足でも良い。側面を狙え!頭に当たれば、その時はその時だ!』


『了解!』


 十分な有効射程に近づいて、側面に回り込み射線軸を合わせ、ファントム02のハンドサインに合わせて詠唱を開始する。

「マギウススペル『マギウス弾』、発動!」



 風を切り裂き岩をも砕くその高速弾の一撃は、異常者のおちょくるような動作によって躱される。異常者はくるくると、不気味な動作で飛び退った。


(読まれた!?発動の瞬間を感知されたの?)


 ファントム04は戦慄と恐怖を覚える。

 この相手は不気味すぎる。底が知れない。もしや私達は、魔石兵など比較にならないほどの脅威と、遭遇してしまったのではないか?

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