覚醒、ゴブリガン
ゴブリマン改めゴブリガンは、屋根の上で大の字に倒れていた。
目は白目を剥き、口はぽかんと開いている。息をしていない。死んでいるようだ。
しばらくするとフガッフガッっと息を吹き返す。そのままイビキをかき出した。そしてまた、息が止まる。
ゴブリガンは、寝ぼけ眼で目を覚ました。
「ぅあ?」
ゴブリガンは何故、こんなところで倒れているのだろう。
ゴブリガンは木箱の配送後、屋根をつたって帰る最中に、今がとっくに真夜中であることに気がついたのだ。とっくに眠る時間ではないか。
だが、ドクター・ダイナモの施した、«制約の契約»の術式が、ゴブリガンを縛る。反抗することは出来ない。
しかし、ゴブリガンは戦士だ。戦士はいついかなる時でも戦えるよう、体調を整える必要があるはずだ。
そしてゴブリガンの額の宝玉に宿る、マギウスの力。ゴブリガンは今、マギウス戦士なのだ。宝玉を休ませ、自然のマギウス粒子を取り込むことで、損耗を防がねばならないはずだ。
寝よう。ここで寝よう。ゴブリガンは思った。これは、主人への反抗ではない。より良き奉仕の一環である。
ゴブリガンは泥のように眠った。
今は昼近い。目覚めたゴブリガンの全身スーツの内側を、冷や汗が流れる。寝過ごしたのだ。
ゴブリガンは焦り、跳ね上がるように立ち上がった。
しばらく呆然と立ちすくむ。何度か、腹の底から出るような咳をした。
ゴブリガンはやがて、決意を込めて顔を上げる。
「んーーーーーーーー!?」
その場で何かを貯め込むようにうつむき、ドスドス足を踏み鳴らす。
そして跳ね上がるようにポーズを決めた。
「サボリガン!!」
「うるさいよ!!」
ゴブリガンはビクリと硬直する。
「だれだい人んちの屋根で!!なにやってるんだい!!」
家の中からガナリ声が響く。
ゴブリガンは逃げ出した。踏んだり蹴ったりだ。とにかく研究所に帰らなければ。
だが、このまま研究所に帰れば、悪い評価を受ける気がする。それは危険だ。
危険によって損なわれてしまえば、主人へのより良き奉仕に支障をきたす。
調子はずれの鼻歌を歌いながら、ゴブリガンは心を決めた。よし、研究所の周りをぐるぐる回ろう。ずっと夜から回っていたのだ。警備していたのだ。
ゴブリガンは、屋根を飛び移りながら、研究所を遠巻きに回った。
「ヒャーーーーーーー!!」
ゴブリガンの働きで、今日も研究所は守られたのだ。
研究所が爆発した。
ゴブリガンは、真顔でそれを眺めた。




