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地を這う虫

 ドクター・ダイナモは、人を遥かに超える力で大きく飛びすさり、マジックジャー機械の上に着地し陣取った。


「ダイナモ・テイザー、発射!!」


 掛け声とともに機械化された腹部から、先端に針状端子のついた二本のワイヤーが発射される。正確に襲い来るワイヤーに、無敵丸は横っ飛びに地を転がる。

 ワイヤーが床に当たると、端子から激しい光が飛び散る。バチバチッと乾いた音がした。

 高速で巻き上げるワイヤーを待ちながら、ドクター・ダイナモは高らかに笑う。

「ハハハッ、放電で電気を伝えるなど、馬鹿のやることだ!!」



 巻き上げられたワイヤーと端子は、腹部発射口にカチャリと収まる。

「電熱で人が松明のように燃えるほどの電撃だ!マギウス力は防げても、電気の力は防げまい、ヘンヴィ!」


 そして人が変わったかのように冷静な声を出し、昏い瞳でねめつけた。

「異常な剣速、カトブレパス・ゴルゴーンの青銅の皮膚を抜ける蛮族の鍛造曲剣。貴様の刃圏には入らぬぞ」



 無敵丸は姿勢を整えながら、先日仲間と交わした会話を思い出していた。




「電撃のマギウス?電気かい?ハチロー」



 白髪の老女が無敵丸に答える。金縁の丸メガネごしに、濁ってなお光を失わない双眸を向ける。

 彼女は錬金術師をなりわいにしている、『デス・サムライ』の外部顧問だ。そのサポートは、この世界での補給の難しい弾薬や、特殊な毒物等多岐にわたる。顧問料は高い。



「あんたのかんしゃく玉鉄砲、なんて言ったかね?」


「リボルバー・ドラグーン」


 無敵丸は答える。その答えに、老女は皺だらけの顔をしかめてみせた。

「あれを持ってるときに喰らったら、あんた、間違いなく死ぬよ。あれはすぐに火が回る危ない造りだ」


「防ぐ方法は?」


「…あるにはあるがね。絶縁体、避雷針、マギウス誘雷、磁界障壁、どれも個人がとっさにやるには非現実的だね」


「代わりに、電気を扱い、電気に接する上で、最も大切なことを教えてあげるよ」


「助かるよ」


「それはね…」




 無敵丸は、声に出してつぶやいた。大切なことなのだ。

「電気を発するものには、近づかない、触れない」


 二撃目のダイナモ・テイザーを大きく躱すと、無敵丸は近接刀を鞘に収める。


「…なんじゃと?」


 ドクター・ダイナモの訝しげな声を尻目に、無敵丸は背筋をピンと伸ばし、くるりと壁に空いた穴の方を向く。

 そして、とても良い姿勢で、駆け出した。




「なんじゃこれ」


 ドクター・ダイナモは虚を突かれる。激情が霧散していく。

 そして、ドクター・ダイナモは、状況を正確に、瞬時に悟った。


(奴を逃したら、負ける!!)




 ドクターダイナモは、瞬時に考える。

『デス・サムライ』を逃してしまえば、ワシには、確実な敗北が待っている。

 暗殺。『デス・サムライ』にとって、ワシを処理するのは別に今でなくてもいいのだ。

 日を改めてワシが油断しきった所、あるいは恐怖におののき疲弊しきったところを、背後から刺せばいいだけのことなのだ。


 奴を決してここから出してはならない。

 仲間の存在も匂わせた。外で戦えば、間違いなく援護が入るだろう。今殺るしか無い。

 だが、奴の動きは明らかに釣り。餌に飛びつく魚のように刃圏に入ってしまえば、たやすく返り討ちになってもおかしくはない。


 では、壁を使うか?壁の穴に差し掛かったところを狙えば、奴の振り返りざまの抜き打ちは、壁に阻まれることだろう。鋼板入りの分厚い壁。いくら優れた剣士でも、抜けるわけがない。抜けてなおワシを斬れるわけがない。



 否!奴の剣は、たやすく壁を抜けてくる。お願い判断の論理など、科学者のすることではない!



 ならば、壁の穴と奴の走りに軸を合わせ、背後からのテイザー攻撃だ。長距離テイザーは避けられた。奴の刃圏ギリギリまで接近して攻撃、これだ。

 壁の穴に差し掛かれば逃げ場はない。これしかない。



 ドクター・ダイナモは、出力強化された脚力で、走り出した無敵丸の背後に向かって跳躍する。


(ここまで瞬時に考えつくワシ、やはり天才じゃなかろうか)


 着地し、壁の穴に飛び込もうと走る無敵丸に向かってすばやく胴体を向ける。即座にテイザーを発射した。


(ならばこの一撃は、この名がふさわしい!!)


「ジーニアス・テイザー!!」


 発射されたワイヤーと針端子が、無敵丸の後背を強襲する。




 無敵丸が、消えた。

「なにっ!?」


 テイザーのワイヤーは研究所の外、細い裏路地を抜けて、すぐそこのあばら家に突き刺さる。



 否、無敵丸は下だ。ただ足から滑り込んだだけだ。『粉微塵』が破壊光弾で開けた、いびつな穴の縁、残った下の壁を蹴って、巻き上げでたるんだテイザーワイヤーを、横に転がって避ける。

(悪あがきを)


 無敵丸はうつ伏せだ。剣は使えない。そして確実にドクターダイナモの攻撃が速い。テイザーは巻き上げ中だが、あとは出力強化された腕力で事は済む。

(地を這う虫を、叩き潰して)


「終わりだ!!」


 ドクターダイナモは駄々っ子のように両腕を振り上げ、無敵丸を叩き潰そうとした。




 巻き上げられるテイザーワイヤーを頼りに、必死の形相の男が路地を横っ飛びに、長柄の銃をぶっぱなす。狙いも何もあったものではない。

(どこかに当たれ!!)


 革の帽子をかぶったギョロ目の男は、飛び込んだ空中から壁の穴に弾丸をねじ込み、そのままもんどり打って転がる。




 弾丸はドクター・ダイナモの、機械で出来た厚い胸元に着弾し、カンと跳弾する。火線が空中を色どった。

 突然のことに驚き、咄嗟に目線を向ける。




 無敵丸は半身で地を這うように、伸ばした足で円を書く。抜き打ちが銀光となり、下からえぐりこむようにドクター・ダイナモの胴を薙いだ。


 テイザーの巻き上げが、カラカラと止まる。


 無敵丸は、言った。

「地を這う数が、足りなかったな。ドクター」




 ドクターダイナモの上半身は、ゴリゴリと滑リ落ちる。

 やがて、たるんだテイザーの垂れ下がる下半身も、ぐにゃりと倒れた。

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