強い戦士ジャック
「芋だ」
カウンターに座った、屈強すぎる蛮族戦士が、空の皿を店主に差し出す。
くしゃくしゃの長髪、彫りの深い顔は厳ついが整い、格好はほとんど半裸だ。ありえないほど盛り上がった筋肉が、その膂力を主張する。
カウンターに立てかけている武器は、バスタード・ソードだ。無骨で、研ぎも酷いが、とても頑丈そうだ。
アドベンチャラーズ・インは、今日も静かな喧騒に満ちている。馬鹿騒ぎを恐れているかのように、皆が小声でボソボソと、それでいて楽しげに飲み食いや賭け事に興じていた。
「ジャック、その辺にしときなよ」
「うまい芋だ」
店主はため息を付いて、山盛りの肉入りマッシュポテトをよそってやる。
「そろそろ仕事しなよ、ジャック。ツケは月末払いだ」
「このおかしな肉がうまい」
店主の言には答えずに、ジャックはマッシュポテトを頬張る。
「いい肉だ。肉の旨味があり、歯ごたえもある。それでいて筋張らずに柔らかい」
「いつもの肉よりうまい」
「…そりゃすまんね」
店主は皿を洗いながら、気のない返事を返す。
「いつもの肉も、悪くはない。だが、いつもの肉は、あまりに均一だ」
ジャックは喋りながらも、無表情でさじを運ぶ。
「おかしな肉だ」
「…詮索は無しだぜ、ジャック」
ジャックは無言で、肉入りマッシュポテトを平らげる。
「芋だ」
そして、店主に皿を差し出した。
「たまには飲んだらどうだ?うちは酒で稼いでるんだ。食ってばかりだと商売上がったりなんだよ」
「俺は下戸だ」




