表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/61

乾坤一擲

 夜の闇を切り裂き、スラムの空を黄金の光が猛烈な勢いで飛来する。


 差し伸べた手のひらを、バッと立てたギルチョーに、黄金の光は猛然と襲いかかる。

 手のひらに張り付くように収まったそれは、ギルチョーの腕を引きちぎらん勢いで、執務室の窓から飛び込んでくる。

 仰け反ったギルチョーの体に不思議なエネルギーが満ち、ミチミチと切れつつある筋繊維の力を増加、補強する。

 ギルチョーは歯を食いしばり、打ち消すためのキネシス・サイキックエネルギーを、光の運動エネルギーにぶち当てる。

 血管が浮き出て、目が血走り、鼻血が吹き出した。



 コアたまごは、念話機の棚の前に放置された箱に気がついた。トテテと駆け寄り、中身を両手で取り出す。

「じゃじゃーん」


 コアヘッドだ。

「ミッションコンプリート?」



 胸のコンピューターは悲しげに、未練がましく通信で言う。

 «クオリティ談義はともかくとして、歌と踊りを動画に撮っておきたかったのです。マスターのお胸にくっついたままだと、マスターの姿を動画に撮れないのです…»


 «一緒にその動画を見て、その後大事にしまって永遠に塩漬けにする儀式、わたくしは必要なものだと思うのですが…»



 ゼイゼイと息切れしながら、ギルチョーは手に収まったものを確認する。あのときの極大魔石だ。

 もう片方の手で鼻血を拭いながら、ギルチョーは勝ち誇る。

「これで私の勝ちだな!この『粉微塵』の術式は、500年前の戦争で、ハイランダー超科学船の障壁と装甲を、抜いて墜とした伝説の術式だ!」


「クリエイション系マギウス最上位の、膨大な術式情報量!誰も発動できるものはいなかったが」


「我が国の諜報力による成し遂げを、ドクター・ダイナモの魔石加工技術を使って作り上げた、この『粉微塵』発動魔石!」


「ハイランダーの人形だろうがケイオスの怪異だろうが、防げるものではないぞ!」



 コアたまごは悩む。

 肩に載せてみる。

「ツーヘッデッドコアたまご?」


 頭に載せてみる。

「コアたまご・ビルディング!」


 小脇に抱えてみる。

「コアたまご・なんだろ。ポータブル?」



 コンピューターは言う。

 «そういった、拘束やアピールと捉えかねない形式的愛情表現でも、それをしない方は荒んでいくのではないか、とわたくし思います»


 «形式性に心が違和感を覚えたとしても、それが無かった時の感情流動性のダウンは深刻です。そして次の機会ではもっと愛の本質に寄せることも出来る。最適化出来ると思うのです。わたくしはコンピューターですから、ルーティンの大事さはよくわかっているつもりです»



 «ちょっとマスター、聞いてます?わたくし今すごく良いこと言ってるんですけど!»


「わたしのほうが良い感じのこと言ってますぅー」


 «意識高い言い草をすげなく扱うのはよくないと思いますぅー»


 コアたまごはコアヘッドを胸に抱える。コンピューターにコアヘッドの髪が、モフッと押し付けられる。

 «ふむ、まあたしかに、良い面も否定できません»


「超空間神経伝達!」


 コアたまごの掛け声とともに、胸に抱えたコアヘッドが、薄っすらと半目を開ける。

「ダメだね、血が足りない」


 «ここからだと、何がおきてるのか見えないのです»




 渾身の決め台詞をスルーされて、ギルチョーは激昂した。サークレットをかなぐり捨てて、髪を振り乱す。

「どいつもこいつも馬鹿にして!!」


 そして極大魔石をコアたまごに向かって、差し出すように片手で抱え上げた。

「原子の塵となって反省しろ!!全身全霊の、『粉微塵』をーーーっ!!」



 コアたまごとコンピューターに感知できない微量粒子が、空気を巻き込んで爆縮する。大気、魔石、ギルチョーの体のマギウス粒子が、極大魔石内に刻み込まれた回路を強く光らせる。

 体内から吸い出されるマギウス粒子の激痛と、エネルギーの圧力、そして全能感に、ギルチョーは吠えた。



 コンピューターの野生の勘が危険を告げる。プラズマ化した推進剤を急に吹かして、急旋回と急加速を組み合わせた緊急回避運動を取る。コアたまごはつんのめって吹っ飛んだ。コンピューターの球体がコアたまごの上胸にめり込み、胸骨がメキメキと折れる。



 極大魔石から発射された緑の光弾は、弧を描いてホーミングし、離脱しようとするコアたまごを急襲した。

 緑の光弾は、腕から離れたコアヘッドを、プラズマを撒き散らすコンピューターを、そしてコアたまごを巻き込んだ。




 なんの跡形も、エネルギーの残滓もなく、緑の光弾とそれに巻き込まれたコアたまごたちは、消えた。





 白い部屋の台座には、不思議な灰色のたまごが鎮座している。否、鎮座はしていない。たまごは焦ったようにオロオロしていた。

「全損しちゃった!」


 コンプレッサー音とともに壁のハッチが開く。廊下から、金属の球体がコロコロと転がってきた。

 «ちょっとマスター、この丸いの、買うと結構お高いんですよ?まあうちの工廠でライセンス製造してますけど»


 «…そういえばライツを払えなくなってしまいました…»


 コンピューターは、はたと気がついたかのように言った。


「困るー」


 «困ります»


 コアたまごとコンピューターは、困った。




 «では、反省会をいたしましょう»


「はい」


 居住まいを正す。


 «今回の敗北、マスターは何が足りなかったとお思いですか»


「うーん、素早さ?」


 素早さがあれば、あの緑の光弾を回避できたかもしれない。音速程度の素早さは必要だろうか。


 «素早さは大事です。しかし、強力な武力を持つ敵に対して交渉を行う場合、必要なのは、まず説得力です»


「口のうまさとかかな」


 «説得力というのは、相手の意志を曲げる力です。口のうまさも重要ですが、基本的に交渉相手の意思というものは、ただでは曲がりません。損益が必要です»



 «今回のような社会の仕組みを象徴する敵相手には、やはりこちらが相手に実際の破滅を提供出来ることを、悟らせなければなりません»


「フワッとしてないやつ」


 «はい。フワフワ感が作戦の根幹になるのなら、こちらからの積極的攻撃や威嚇攻撃は、トゲトゲ感で採用しづらくなります。したがって、防衛が主軸となるでしょう。こちらの防衛力を見せつけることで、相手の攻撃を封じねばなりません。ジョット様も言っておられましたね»


「なるほど、製造中の防衛兵器を示威に使うんだね」


 «それでやっと交渉のテーブルにのぞめるのです»




 «しかし、あの社会の仕組み人のサイキックブラストは、かなり強力でしたね。あれでは自尊心で動いてしまうのも分かる話です»


「あれどうなってたの。ビームって曲がるものなの?」


 コアたまごは、たまごをかしげた。


 «曲がった理屈はわかりませんが、ヒッグス粒子場と電荷を消滅もしくは破壊、除去して物質を崩壊させる、原子分解サイキックブラストだったようですね»


「レーザーキャノンより強い?」


 «攻撃速度は及びませんが、対装甲打撃力は非常に強そうです。この艦のナノテック複合装甲でも抜かれますねあれ»


「なんだか強そうね」


 «不思議なのは、おかしなホーミングもですが、熱エネルギーが全く発生しなかったことです。このため対消滅攻撃ではなかったようですが…次元操作でしょうか»


「次元干渉はなかったよ」


 «正直お手上げです。不思議攻撃です»


「魔法なんじゃないの」


 «またまた»

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ