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銀河を超えて届く歌

 ギルチョーの絶叫に、コアたまごは顔をしかめて両手のひらで耳をふさぐ。

「うるさいなあもう。とりあえずコアヘッドを返してもらえます?」


 ニュッと箱に手を伸ばす。が、ギルチョーはすばやく箱をかっさらい、抱え込んだ。

「わた、わたわたしの箱だ!」


「中はわたしなので」


 コアたまごの奇妙な言い方に、ギルチョーは一瞬硬直したが、ガタガタと椅子をなぎ倒して壁際まで飛び退る。

「これは、…これは!私のものだ!!」


「えぇー」


 コアたまごはげんなりする。



「だって!だってそうだろう!これは!」


 唾を飛ばして叫びながら、肩肘を張って、箱の首を指差す。それにコアたまごは割って答えた。

「わたしです」


 ギルチョーは眼球をすばやく何度も動かして、泡を吹きながらコアたまごの顔(くっついてる方)を指差す。

「これは!?」


「わたしです」


「おかしいだろそんなの!!」




「なんでぇー」


 コアたまごはげんなりを通り越してしんなりしてきた。


「これっ、これふぁ!これは私がっ!貰ったものだ!貰ったものを返せだなんて横暴だろうが!!」


「んもー」


 コアたまごは切り替えて、ゲス顔でいった。

「でしたらあなたの上司に相談しますけどー?」


「私がここの上司だ!!」


「破綻!」




 «暴力によって奪ったものを、正当に手に入れたと主張する。奪われた側にとっては実に不愉快ですね»


 胸にくっついているコンピューターは、冷え切った口調で通信を飛ばす。

 «やはり、処理いたしましょう。マスター»


(いうてー)


 コアたまごも指向性次元振動波で答える。

(わたしらがそれをすると、弱いものいじめすぎない?)



 コンピューターはコアたまごの言葉に少し沈黙し、さらに冷たい声を出す。

 «マスター、この方は、言わば社会の仕組みそのものです。社会の仕組み、というものは、強力で強大です。脆弱な個体として扱うべきではありません»


(おてんとさんよりも?)


 «イエス、マスター。おてんとさんよりもです»


(まーじーでー!?)



 «そういった仕組みに対抗するためには、我々も、社会の仕組みを逆に利用する必要が出てくるでしょう。仕組みに携わる個体達が、我々にその悪意にまみれた仕組みを向けることを、躊躇するようになさねばならないのです。ですが、決してマスターがそれをやってはいけません»


(なんで?)



 コンピューターはそれには答えず、こう言った。

 «わたくしが、やりましょう»


(だめでーす)


 コアたまごは即答した。


 «なっ…なぜです!?»


 コンピューターは機先をそがれ、うろたえる。


 コアたまごは首を傾げて、答えた。

(なんか、フワッとしてないから?)



 コンピューターは絶句した。そしてただただ繰り返す。

 «フワッと»


(好み?)


コアたまごは補足する。



 ギルチョーは、黙り込んでいるように見えるコアたまごに、なにか言ったらどうだ、だの、言葉がわからないのか、だのをしきりに言っていた。




 «好みじゃ仕方がないですね…»


 コンピューターは言葉から険を抜き、やれやれといった感じで言った。

 «しかしそれでは、社会の仕組みに奪われるばかりになりますよ。どうなさるおつもりです?ガマンします?»


(うーん)


 コアたまごは悩む。我慢はカラダに悪いのだ。


(コンピューター。今のわたしには、社会の仕組みに対して、どうするのが正しいのかわからない)


 «はい»


 コアたまごの悩ましげな声に、コンピューターは穏やかに答えた。


 コアたまごはキリリと悩みを振り払い、黒い瞳をきらめかせ、熱き誇りを胸に抱いて、高らかに宣言する。

(だから今は、歌おう!高らかに!)



 «…はい?»



 コンピューターの内部で、緊急警報が鳴り響く。事態は最悪の方向に向かおうとしている。

 «い、いけません!マスター、危険です!それは、うわっ、てなる系のやつです!»


(ふふふ、ではコンピューター、始めよう。社会の仕組みへの反撃を)




 怒鳴り疲れて息切れしたギルチョーを、ある疑念が支配する。

(私は、間違えたのか?)


(間違いを認めるなど、そんな恥が受け入れられるか!)


(だが…鑑定結果を見て、ハイランダーの生き人形が、ケイオスの雄牛を使って良からぬことを企んでいると理解してしまった私の優秀さが)


(私を窮地に追い込んでいる!)



(マギウスの動き無く現れる力)


(切っても生えてくる首)


(あきらかにおかしな言動)



(逆だったのか?この子供は)


(ハイランダーに擬態した、ケイオスの、怪異!?)



 その時、コアたまごから、チャカポコした音楽が流れ始める。



「う、うわあぁぁぁっ…」


 ギルチョーはあまりの意味不明さに、確信を深める。

 間違いない、ケイオスの怪異だ。



 コアたまごは腰に手を当てて、つま先立ちでリズムを取り始める。そしてくるくるふにゃふにゃとした振り付けとともに、音楽に合わせて歌い始めた。

「♪首から~上なら~ コアヘッド~」


「♪胸から~上なら~ コアトップ~」


「♪ホントのコアは~ 内緒なの~」


「♪おなかが怪しいぞ~」『それは怪しい!』


「二番行きまーす」




 コアたまごが歌い始めるのと同時にギルチョーは、発泡ワインの入っていた戸棚に飛びつき、大きな棚の戸を開ける。

 そこには、奇妙な機械が入っていた。


「テレパス系マギウス使いにも頼らず、ハイランダーにも傍受されないこの画期的長距離伝達装置、壱号念話器である!」


 奇妙な機械から有線の三角錐を引き出し、尖った片耳に当てる。そして付属の取っ手付きクランクをそれは必死に、すごい勢いで回し始める。

「早く出ろ!ダイナモ!!」




 念話機、それはドクター・ダイナモが開発した、マギウスと科学を組み合わせたジーニアス・マシーンである。

 テレパス系マギウスを組み込んだ魔石をベースに、増幅装置と念波認証装置によって、音波を相手の念話器に伝える仕組みとなっており、受念器と送念器によって構成されている。

 受念器の発した音波を送念器が拾ってしまうと、なんだかピョーピョーとうるさいので、受念器は音量を絞り、耳に当てる形式が採用された。

 送話器には念波増幅のためのクランクが付いており、高速回転させることによって、内蔵コイルが念波を増幅安定させる仕組みということになっている。


 ちなみに本来であれば、クランクによるコイルの回転は必要ない。『このくらいの負荷でもないと、あいつは小さな用事でも掛けてくるからな』とは、ドクター・ダイナモの談である。




 コアたまごの歌は間奏を経て、二番に突入した。

「♪首が~返って~ 来たのなら~」


「♪どこに~つけるの~ コアヘッド~」


「♪ほんとのところは~ 邪魔なのよ~」


「♪お腹につけたらすごくキモい~」『そうですね!』


 コンピューターが自棄気味に合いの手を入れる。



『はい、こちらドクター・ダイナモ魔石科学研究所』


 せむしの小男の声だ。


「私だ!ドクターダイナモを出せ!早く!」


『お待ち下さい…何やら音楽が聞こえますが…なかなか良いご趣味ですな』


「私のじゃない!!」


『ハカセー!ハカセー?ギルド長殿からお念話です』


『今何刻だと思っとるのだ!もう寝たと言わんか!』


『もう寝てしまったようですな』


 クランクを激しく回しながら、ギルチョーは激昂する。

「茶番は!!茶番はもうたくさんだ!!敵が来ているのだぞ!!」


 小男は答える。

『でしたらご用件を』


「アレは!アレは出来ているのか!使うから外に出せ!!」


『出来ておりますよ。ハカセ!アレを使うそうです!…十五秒お待ちになってからどうぞ』


「十秒でやれ!!」


『まあお好きに。では切りますぞ』




 歌い終わったコアたまごは、微妙な表情でしきりに首をひねる。

「なんか思ってたのと違うなあ」


 «マスター、ここに来たときに見た映画があるじゃないですか。マイクと魔女と、ケーブルでハックされた企業ヤクザたちが、軽快な音楽に乗ってみんなで歌って踊るシーンが有ったでしょう»


「そんなシーンあった?」


 «あのぐらい予算と、見栄えの理屈に手間暇をかけないと、我々にわかが歌と踊りを差し込むのは、なかなか厳しいと思いますよ»


「お金ないかんなあ」


 コアたまごは決心する。

「よし、社会の仕組みと戦うために、歌と踊りを使うのはやめよう」


 «今はそれがよろしいかと思います»




 ギルチョーはイチ、ニ、サンと律儀に数えながら、ぶち破られた窓のあたりをウロウロする。律儀にジュウゴまで数え終わってから、窓の外に身を乗り出し、片手を差し伸べて叫ぶ。

「マギウススペル、『物体の引き寄せ』発動!来い!『粉微塵』!!」

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