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ドクター・ダイナモと愉快な仲間たち①

「頭が空っぽではないか!」


 ドクターダイナモは、多針台座に設置されたこぶし大の魔石を見て、怒りをあらわにする。魔石は、空白の書き込みにさらされて、完全に光を失ってしまっていた。


 頑丈な椅子の上には銀のトレイがあり、そこには生首が設置されている。生首には電極針装置の付いたヘルメットがガッチリと固定されている。

「ギルチョーの間抜けめ、なにがハイランダーの技術と知識だ。貴重なオーガの魔石が無駄になってしまったわ」


 電極針ヘルメットの解除を待ってむしり取り、生首を手近にあった、装飾の施された木箱に放り込む。

「欲しがったのはギルチョーだ!送りつけてやれ、ゴブリマン!」


 緑の襲撃者は真顔で受け取り、スタスタとドアから出ていく。




「あれがいたのでは話が進まん」


 ドクター・ダイナモはそう言いながら、部屋の隅のガラクタの山をほじくり返す。やがて後ろにワイヤーと持ち手の付いた、小さな鉄の筒を掘り出した。

 そして、片手でワイヤーを引き絞りつつ、鉄の筒の筒先を『デス・サムライ』に向けた。



「新型火薬を使った、使い捨ての散弾筒よ」


 ドクター・ダイナモは『デス・サムライ』の腰のものに目を向ける。

「君らはちょっと、武器を大事にしすぎじゃな。こんなものは使い捨てていけばいいのじゃ」


 『デス・サムライ』は肩をすくめる。

「仕事自体はこなしたと思いますが?」


「…君が耳打ちした時な、武器を預けろと言ったじゃろ。何故君から新型火薬の匂いがしたのかね?」


「…それとあのハイランダーの人形じゃ。カトブレパス・ゴルゴーンのマギウス反応があったそうじゃ。たしか君が狩ったのだったな?」


「言い訳ができると思ったなら、してみればいいのではないかね?」




「たしかに俺は火薬を使う」


『デス・サムライ』がマスクの向こうで、静かに口を開く。

「だが、暗器を忍ばせてドクターの元を訪ねるような、そんな非礼な人間であるつもりはありませんな」


「口ではなんとでも言えるものじゃ」


「大牛は魔石だけを抜いて持ってきた。死骸がどうなったかなど知りません」


「それに俺がハイランダーと結託しているのなら、ハイランダーの人形破壊に協力するのもおかしな話でありますな」



「…何故じゃね?」


「ハイランダーの人形は木偶人形などとは違う、人と違わぬ精密なものでありましょう。命に値段を付けるなら、俺などよりその人形のほうが、遥かに高価なのでは?」


「…ふむ、それは道理じゃな」


 ドクター・ダイナモはかぶりをふる。

「だが、闇に生きるものが武器のひとつも隠さずに、身一つで現れるというのもまたおかしな話じゃ」


「今も俺は、この刀以外は持っておりませんよ。ドクターに対して礼を尽くすことのほうが重要ですからな」


「いいよるわ。イゴルンルンくん!」




 せむしの小男が『デス・サムライ』の腰の近接刀を外す。そして黒装束を叩いてボディチェックしようとする。

 『デス・サムライ』は両膝をつき、両手を高く上げる。

 小男は、これはすいませんなど言いながら、『デス・サムライ』の暗器をあらためる。

 胸の下のあたりをあらため、硬い感触があることを伝える。


「…そら、見たまえ」


 ドクターダイナモはうんざりしたように言う。


 小男は、黒装束の隠しポケットを見つけ、手を突っ込む。出てきたものを、ドクター・ダイナモに向かって高々と差し出す。


「…大銀貨ですな」


 拾った銀貨だ。


「おこづかいかね!!」


 ドクターダイナモは憤慨する。

「いい大人が!もっと持ちたまえ!」




「…しかしな、根付いた不信の芽というものはな、決して消えないものじゃ」


 ドクター・ダイナモは『デス・サムライ』に散弾筒を向けながら、話を続ける。

「ハイランダーとのつながりを匂わせる、というだけでケチがついたというものじゃな」



「…君はな、粗暴な剣使い共にしては、弁が立ちすぎる。ここで殺しておいたほうが、後顧の憂いを払えるものではないかね?」


「幸い、後腐れもないことではあるし」




『デス・サムライ』は、膝をついて手を上げたまま、何の動揺もなく話し始める。

「俺がドクターに近づいたのは、利権のためもありますが」


「正直じゃの!」


「俺は、前々から、ドクターのことを尊敬していたのですよ」


「…なんじゃと?」



「なんとかお目にかかりたいと、必死の思いでつないで見れば、蓋を開けて出てきたのが、これ」


 マスクのあごで、マジックジャー機械を指し示す。

「…まさに人の革新ですな」


「ほう!」


 ドクター・ダイナモは満更でもない声を上げる。


「この機械が発展し、知性あふれる魔石超人が完成した暁には、魔石超人の知、そのものを別の魔石に複製できるのではありませんかな?」


「むむ…」


「つまりこれは、戦いの力よりも、人の教育における革新でありましょう。ドクターは、世界の未来を見据えた研究をしていらっしゃる」


「尊敬もさらに深まるというもの」




 ドクター・ダイナモの顔は紅潮し、破顔しそうになりかけた。だが激しく顔を振り、叫ぶ。

「なんちゅう美辞麗句の嵐じゃ!」


「口のうまい奴め!あやうくほだされるところじゃったわい!」



「何かあかしを立てられれば良いのですがね」


 『デス・サムライ』の言葉に、ドクター・ダイナモは鋭い眼光を向ける。

「…あるとも。とっておきの奴がな」


「イゴルンルンくん!例の首輪を!」


「ハカセ、それは…」


 小男は躊躇するが、ドクター・ダイナモはそれを手で制す。

「信頼を持たぬものがそれを買う、というのはな、相応の対価を払ってもらわねばなるまいよ」




 小男が、銀のトレイに白いナプキンを敷き、装飾品をのせて持ってくる。魔石の嵌まった金の首輪だ。


「隷属の首輪じゃ」



「かの有名な、といいたいところじゃがな。あれは無駄の権化じゃな」


「高位マギウススペル『制約の契約』を刻み込み、服従をなすための魔道具なんじゃが」


「わしはその術式回路を解明し、契約者への服従のみに最適化、簡略化することによって、小さい魔石に収められるようにコンパクト化」


「コストを抑えて量産化することに成功したのじゃよ」


「契約者への反抗、命令違反、首輪の破損行為、等を行なうことによって体内の神経組織にやどるマギウスをかき乱され、気が狂わんばかりの激痛をおこす機能は」


「最適化によりむしろ元のものよりパワーが上がっておる」


「…効果はさんざん実証済みよ」


「ここら一帯の隷属の首輪市場は、すべてワシが独占しておるのじゃ!」


「輸出もしておる!不法港から!」



「どうじゃ?これを嵌めてみる忠義と誠実さが、きみにはあるかね?」


「隷属のマギウスによるワシへの絶対服従、これに勝る信頼はあるまい」



「隷属の首輪か」


 『デス・サムライ』は、いいかげん上げた両手をおろし、首をコキコキと鳴らす。そして力強く、親指を立てて自分を指し示した。

「ならば俺は、ふたつ嵌めよう」


「な、なんじゃと!?」

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