コ/アたま/ご
『デス・サムライ』は、クリーム色の液体を踏みつけながらコアたまごの残骸に歩み寄ると、やにわに片足でその背中を踏みつける。
ポーズの研究に余念のない緑の襲撃者にチラリと目をやると、マスクの裏でつぶやいた。
「おい、こっちがコアたまごか?」
音の振動が足をつたって、中で困っていたコアたまごに伝わった。コアたまごは指向性次元振動波のひそひそ声で答える。
「ちょっとムッチー」
「やっぱりお前か」
「光学センサーもパッシブソナーも頭部に集中してるから、周りが全然わからないんですけど?」
『デス・サムライ』は、言いにくそうに切り出す。
「あー、コアたまご。悪いんだがな」
「これ、前の肉の貸しで、見逃してもらえんものかな?」
そういえば、ムッチーは潜入工作員だった。コアたまごはそれに思い当たる。
「お仕事大変ね」
「日々、人の情けにすがって生きてるよ」
『デス・サムライ』は、コアたまごの残骸から足を下ろすと、倒れたジョットに歩み寄り、落ちた銀貨を拾う。そして銀貨を黒装束の隠しにしまった。
そして振り向き、どこか遠くを見上げる。一度ジョットに目線をやってから、自分のマスクの顎をパンパンと叩いた。
「んーーーーーー!!」
緑の襲撃者は、うつむいて激しく足を踏み鳴らす。そして跳ね跳ぶようにポーズをとった。
「ゴブリガン!!」
襲撃者の表情がパァッと明るくなる。自慢げな顔で首を傾げ、舌を大きく垂らした。
『デス・サムライ』は、そんな襲撃者に声をかけ、歩き出す。
「行くぞ、ゴブリマン」
「ゴブリガン!!」
「そうか」
二人は連れ立って、闇の中へと消えていく。
去り際に、『デス・サムライ』は、襲撃者に言った。
「あと、普通にしゃべれ」
「マジすか」
汚い格好をした背の低い小太りの男が、おそるおそると物陰から近づいてくる。
「ゲヘフェフェ!ジョットの野郎もこうなっちゃあ型なしだ!」
お持ち帰りおじさんだ。
「怖い奴らもいなくなったし、このガキは胸にきれいなブローチをふたつもしてただ。きれいなおべべだって洗えば売れるかもしれねえ。靴はサイズが合わねえが、これも立派なもんだ」
ぐふぐふ笑いながら、お持ち帰りおじさんはコアたまごの残骸をまさぐろうとする。
激しい破裂音、そして甲高い轟音が響く。
汚い水瓶が割れて飛び散り、もうもうと蒸気が立ち込める。あたりを猛烈な熱気が襲った。
お持ち帰りおじさんはのけぞって、ヒィと腰を抜かしへたり込む。
現れたのは球体だ。四方八方に細いプラズマを吐き出す球体だ。飛び上がりそうなものを無理に押さえつけるように、ゆっくりとホバリングしながら近づいてくる。灼熱の大気が気流を起こす。
そしてあたりに、憤怒に満ちた声が轟いた。
『機械を、水につけてはいけません!』
お持ち帰りおじさんは、許してくだせえ、許してなどと言いながら涙と鼻水を流す。
『壊れちゃうでしょ!』
球体はプラズマを消し、ほんとにもーなどと言いながら、コアたまごの残骸の上にポテリと落ちた。ジュウという音がする。
«はぁ息切れた»
「コンピューター、今どうなってるの」
«ムッチー様と撃った人は帰ったみたいですね»
「じゃあわたしたちも帰ろ。周りは大丈夫?」
«お待ち下さい»
コンピュータはお持ち帰りおじさんに、音声で呼びかける。
『危ないですので、離れて下さーい』
『巻き込まれは、大変危険です。離れて下さーい』
腰を抜かしたままのお持ち帰りおじさんは、あわてて這いずり後ずさりする。
«安全確認ヨーシ»
「不可抗力ダイブ!」
球体も、残骸も、クリーム色の液体が染み込んだ地面も消える。そこには半球形にえぐれた地面があった。
範囲を逃れたお持ち帰りおじさんは、顔をぐちゃぐちゃにしながら這いずって逃げ出す。
後には穴と、倒れたジョットだけが残った。




