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攻撃無効の死角

「なに登録って」


「…冒険者ギルドへの個人情報登録ですよ。冒険者ギルドで仕事や持ち込みをする際に必要となります」


「賞罰、職務履歴、預金残額等、信用に応じてランクが上がり、偽造防止に簡易マギウス回路が施された登録カードが付与されます」


「カードはマギウスカードリーダーがある施設はもちろん、無くとも冒険者ギルドが保証する身分証代わりになりますので、ランクの高い方は営業活動に有利となりますね」


「…クレーム内容や密告、密告者名等も管理され、ギルドの業務が滞り無いよう取り計らわれることとなります」


 眼鏡先輩はどことなくそっけないふうに説明する。そして声を潜めてコアたまごに言った。

「実は、これはタワーが冒険者ギルドに懸念を寄せる案件のひとつです。この個人情報を読み取る技術、よくわからないんですよ」


「技術格差だ」


「エルブンガルドの技術のようですが、マギウス技術でも帝国の機械でも、その延長上でもないような」


「そのくせこんな、都市とはいえ僻地の組合支店に平気で導入している、本当に意図が読めません」


「かといってその情報をどこかに送信している痕跡もありません。これが長距離信号のやり取りによって管理されているのならタワーの脅威ともなりましょうが…」



 眼鏡先輩は情報を流す。コアちゃんは敵の敵であり、未知の高度存在である。知識があるかもしれないし、協力も仰げるかもしれない。あと愛らしい。

 なぜか仕事モードのほうがコアちゃんの食いつきがいいのも気になる。仕事ができるママが好みなのだろうか。

 だが、仕事ができるママだって、我が子にはベタベタしたいのだ。この懊悩、なんとかコアちゃんにわかってもらえないものだろうか。

 眼鏡先輩は苦悩した。




「ふむ」


 コアたまごはオコーチャを飲み終わり、ぺろりと唇を舐める。

「わたしが登録しよう」


 眼鏡先輩が絶句する。


 «まーた始まった»


(攻撃無効性の高いわたしが囮となって、敵をおびき寄せ確認するのだ)


 «未知の技術はなにが出てくるかわからないから怖いんですよ。宇宙の遭遇戦なんて一方的展開にしかなりませんからね»


(データを読まれても生体ボディのものだろうし、へーきへーき)


 «踏み込みたい気持ちもわかりますけど、ジョットの兄貴の無事も考えながら行動するんですよ»


(うい)



 眼鏡先輩は長い間眉根を寄せて硬直していた。

 やがてメガネの位置を直すと、少し心配げな声でいった。

「初回登録料は、大銀貨一枚になりますけど…」


「えっ」


 コアたまごの最大の弱点を突かれた。



「大丈夫ですか?お小遣い足ります?」


 眼鏡先輩が気遣わしげに、自分のスーツに手を当てる。

 コアたまごは、困ってしょんぼりした。

(どうしようコンピューター)


 «強行偵察作戦としては、バックアップを軽視しすぎましたね。良い勉強と思って、撤退も視野に入れるべきかと»


(そんなー)



 コアたまごの敗北である。銀河宇宙を股にかけ、恐怖と破壊を振りまく『レガシー』でも、社会を舞台にした経済戦は門外漢であった。

 星ひとつを簡単に殲滅できる力があっても、自分の力では現地の貨幣ひとつさえ入手できないのだ。コアたまごは、自分の無力さに悲しくなった。




「どうしたんです姐さん!」


 ジョットの兄貴がカウンターの向こうから声をかける。敗走寸前のコアたまごにとって、心強い援軍の登場であった。

 コアたまごは、やましい気持ちを感じながらも、弱々しくジョットの兄貴に助けを求める。

「…お金がないの」


「俺が出しますよ!」


 即答である。コアたまごの表情がぱぁっと華やぐ。

 眼鏡先輩の笑みが深くなる。スーツに当てた手を、スッとおろした。




「この鑑定用紙に、血液か唾液を染み込ませます」


 受け取った紙片を、コアたまごはベローンと舐める。

 眼鏡先輩は躊躇なく受け取り、ミッちゃんに声をかけて渡す。ミッちゃんはうへぇなどと言っているようだ。


「例の鑑定機が情報を読み取り、そちらの自動書記機に鑑定結果が書き出されます。それをカード発行機に読み取らせれば、登録完了です」


 ミッちゃんが鑑定機の蓋を開け、読み取り部をふきんで拭き、紙片を載せてふたで挟む。



 鑑定機が小さく唸りを上げる。遅れて自動書記機から伸びる棒のような細腕のロボットアーム、その先に設置された羽ペンが、セットされた植物紙に情報を書き出していく。


「書き終わったら、今度はそちらの差込口に鑑定結果を入れますよ。ちょっと時間がかかりますから、待っていてくださいね」


 コアたまごは黒い目をキラキラさせながら、足をパタパタと揺らす。待ちきれないといった風情だ。



 中肉中背の目立たない職員が、そろそろ書き終わる鑑定結果に目をやる。

「大変だ…」


 小声でつぶやき、書き終わった鑑定結果を機械からすばやく取り上げる。


「ちょっ…」


「すいません!ちょーっと待ってください!すいません!」


 眼鏡先輩の抗議に強く弁明しながら、給湯設備がある部屋に駆け込んでいく。そこには二階に向かう階段があるのだ。


(持ってかれちゃった!)


 «わたくしこれ知ってますよ。すごく強い鑑定結果が出たやつです。騒ぎになりますよ»


(囮としてはそれでいいのかな?)




 鑑定結果はこう書かれていた。

『登録情報:なし』


『賞罰記録:なし』


『魔石反応:なし』


『異常反応:あり』


『詳細鑑定開始……不完全成功』


『アーカイブによる種族鑑定:バイオロイド 追記:所属不明、該当技術系統不明』


『マギウスパターンによる種族鑑定:カトブレパス・ゴルゴーン』


『※※※ 特級連絡事項対象 ※※※』


『本部に情報を大至急送付せよ』

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