冒険者ギルドを襲おう
「冒険者ギルドに行こう」
«お前マジか»
白い部屋に帰ってきたコアたまごとコンピューターは今後の方針について話し合う。
あの時、無敵丸はこう言っていた。
『間違えて冒険者ギルドの方に行くなよ。多分面倒なことになるからな』
あの時、アドベンチャラーズ・インの店主はこう言っていた。
『嬢ちゃんは、冒険者ギルドには顔を出さんほうがいいな』
『あそこはこことは違う。本当にろくな事にならないだろうさ』
コンピューターは、コアたまごの意見に異を唱える
«お二人とも、マスターを心配して言ってくださったんだと思いますよ。そういう気持ちを踏みにじるのは、やはりどうかと思うのです»
「えー、だってー」
«おてんとさんに申し開きできます?»
「おてんとさんの話はするな!!!」
コアたまごは激怒した。
«えぇー?»
コンピューターはびっくりして困惑した。
「やつは汚い気分屋じゃないか!わたしは一時でもおてんとさんに信頼を寄せたというのに、やつはそんな気持ちを裏切ったんだ!」
«うぇえ?えーと、いけませーん?マスター、いけませーん?»
「何故だ!」
コアたまごは憎悪を込めて尋ねる。
«えーと、お肉運ぶ時の話ですか?おてんとさんと何かありました?»
「だってあいつ、わたしに感知できない波で話しかけてきて、ぶっ殺すとか言ってたし」
コアたまごは不貞腐れる。
«えー»
コンピューターは、どこから出したのかわからないような高い声で、困惑を表す。
«…わかりましたよマスター。それはおてんとさんではありません»
コンピューターは厳かに話し始めた。
「なんだって!?ならばあれは、何だったと言うんだ!?」
今度はコアたまごが困惑する番だ。
«…マスター、わたくしは前に一つお話したじゃないですか。アドベンチャラーズ・インの人よけの話を»
「たしか、サイキッカーの培養脳のやつだっけ?…まさか…」
コアたまごは口元を抑える。コアたまごのこめかみを、ひとすじの汗が流れた。
「『サイコ・ハッカー』…!」
«…そうです。『サイコウェーブ・マインドハック・サイキッカー』です»
コアたまごは膝から崩れ落ちる。
「くそー!」
コアたまごは床に手を付き、叫んだ。
「なんてカッコよさなんだー!」
「そんなカッコいい存在が、おてんとさんに偽装して、わたしを欺いたというのか!」
«通称プンヘッピ(PWMHP)です»
「やめよう」
コアたまごはたしなめるように言った。立ち上がり、膝を払う。
「通称の話はやめよう」
「ちょっと通称の読み方に悪意がないです?」
いくらなんでもプンヘッピ(PWMHP)は可哀想である。コアたまごは義憤に駆られた。
«通称の話はどうでもいいんです»
「そうだった!」
«冒険者ギルドに行くのはどうなのって話ですよ»
「そうだっけ?」
「たしかに、二人がわたしのことを気遣ってくれたのはうれしい」
コアたまごは続ける。
「だが、まず二人は知らないのだ。わたしが惑星紛争レベルの火力では、決して損なわれはしない、ということを」
«マスターのみに限れば、宇宙戦争レベルでも平気ですね»
「二人の認識は共通だ。冒険者ギルドは敵性勢力である」
「そしてもう一つ、二人にはある共通認識がある」
«それは、いったい?»
「わたしの力を知らずとも、ある程度は察しているということだよ」
「ムッチーは、わたしが半径30ギャラクティックフィート程度の空間打撃力を持っていることは知ってるよね」
«まあ見せましたからね。星系ごとぐらいならチョロい、ということは誰にも知られてはいけませんよ»
「んむ。そして店主は言った。『強制はせんがな』と。つまり、彼も状況から、わたしの力の規模をある程度推察している。冒険者ギルドの面倒事を、突破できると思っているんだ」
«うちのマスターは天才ですね。可愛くて天才とか、もうたまりませんね»
「てれるー。つまり二人は、わたしを気遣うと同時に、面倒事を懸念している。火の粉が飛びかかることを懸念しているんだよ」
«…だから、その気遣いを踏みにじっても良いとおっしゃるのですか?»
「そうじゃないよ。気遣いと保身は、同時に存在できる。人の思考はグローバルデータだ。ローカルデータ一つで評価できるものではない」
«マスターの認識の力を感じることで、わたしはマスターをペロペロスリスリしたくなってきました»
「コンピューターが望むなら、わたしはそれを許そう」
«うっひょうー!»
コンピューターは突撃する。
「だが、この場合、二人の気遣いは、わたしが敵性勢力を強行偵察することを妨げている」
«手も足も出ねえ!»
コンピューターはコアたまごのブーツにガンガンとまとわりつく。
「二人のやさしさが、わたしを縛っているのだ…」
コンピューターは突撃をやめてコアたまごを気遣う。
«マスター…»
コアたまごは、胸を抑えて言葉を絞り出す。
「そのやさしさが、人を苦しめる!」
«ほわぁーっ!»
コンピューターが変な声を出す。
«素敵です、マスター!今日のマスターはどうしちゃったの!?»
コアたまごは得意げに、胸を抑えて言いはなつ。
「そのやさしさが、人を苦しめる!」
«あ、そういうのはいいですマスター»
コンピューターはそっけなく言った。
コアたまごはしょんぼりした。
「…だから二人には後でごめんなさいしよう。わたしは敵を知る必要があるだろう」
«そこまでおっしゃるのでしたら、異論はございません»
「お国の人も言っていた。『シチューにカツを見出すのだ』と」
«なんと冒涜的な…いえ、挑戦する姿勢、当たって砕けろということですね»
「ふふふ…待っていろ冒険者ギルド」
コアたまごの黒い瞳が、ギラリと光る。
「砕け散るのは、お前たちの方だ!」




