表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/61

いつもの白い部屋/プロローグ

 不思議な光が、静寂とともに部屋を照らした。


 がらんどうの部屋だった。白い小部屋だ。

 部屋の中央には子供の背丈ほどもある石造りの台座。その上には奇妙な灰色のたまごが鎮座している。

 たまごは殻とも金属とも言い難い質感で、生物的にも機械的にも見える。


 四方の壁の一つには、この奇妙な部屋にそぐわない、機械的なハッチがついている。

 ハッチの扉は固く噛み合い、何者をも通すまいという強固な意思があるように見える。あるいは、何者かをここから出すまいとしているのか…




 静寂を切り開き、ハッチがコンプレッサー音とともに開く。


 小さな金属の球体だ。

 ハッチの向こうの通路から、球体がふわりふわりと入ってきた。

 工学的に穿たれた各部ホールから推進気体を細かく噴射しながら、球体はたまごの正面に器用に静止する。


 «おはようございます。前回シャットダウンより、銀河標準時間において500年あまりが経過しております。当艦は通常空間潜望深度へ、正常に浮上いたしました。基幹部正常、システムオールグリーン。…今回の再起動、並びに通常空間への浮上。いかがなさいましたか?なにか問題でも発生いたしましたでしょうか»


 «マスターコア»


 球体は物言わぬたまごへと、柔らかな口調で話しかけた。



 いや、台座のたまごは、まるで身じろぎをするかのように動いている。

 たまごは球体に言った。


「だれ?」


 球体は静止したまま沈黙した。そして言った。


 «うわ、しゃべった»


「うわて」




「私は地球人。魂だけが宇宙を駆け、魂の器たるこのたまごに宿った。それがわたしだ」


 «地球人»


「そう。地球人が転生してきたんだぞ。地球人は、偶発的に死んだりちょっと目を離すとすぐ転生しちゃう、困った星人なんだ」


 «ふむ»


「だが一つ困ったことがある。わたしは肉体を、地球人ボディを失ってしまった」


「人の魂には人の体が必要なんだ。張り巡らされた感覚器が、知性にひも付けされ、動作を導く分泌が。…今やこの身は肉体を失い、意識というデータだけの存在。虚無に疲弊した魂が、ゴーストが薄れていくのがわかるぞ」


「とける~、電子の海にとけるぅ~」


 たまごは、たまごをじたばたさせた。


 «今はオフラインですよ»


 たまごは硬直した。



 気を取り直して続ける。

「そして地球人は、人外に転生しても、わりとすぐ人に戻っちゃう星人なんだ」


 «形状記憶星人なんですね»


「そうさ」


 うなずく素振りでたまごは言う。


「丸い人よ、頼みがある。わたしに人の体を作ってくれないか?わたしの意識と魂が、寄る辺もなくただ流され消えてしまう前に」


 «うーん»


「たのむよー」


 たまごはゴネた。




 «つまり、要約するとこういうことですね»


 球体は少し黙考する。


 «あなたは超常の力で飛来した、もともとは肉体を持っていた情報生命体、地球人である»


「うんうん」


 «そしてお国の最重要機密オブジェクト、『レガシー』であるマスターコアを、超常の力でハッキングし、乗っ取ったのですね»


「ん?」


 たまごをかしげた。


「ちゃうねん。あれ?」


「悪い地球人じゃないよ」


 «そして『レガシー』であるマスターコアを人質に、軍籍であるわたくしに、当艦の設備と資源を流用、横領するよう脅迫しているのですね、地球人»


「あのあの」


 たまごは焦った。


「そんなむつかしい話じゃなくて」


「もっとふわっとした地球人なのだよ?」


 球体は硬い声で答える。

 «マスター»


「地球人。はい」


 «ちょっとそこに座りなさい»


「はい」


 たまごはすでに台座に座っていたが、賢明にも黙っていた。せめてということで居住まいを正す。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ