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ドクター・ダイナモの優雅な研究①

 薄暗い大きな部屋にいるのは、三人の男だ。


 一人は若者。幼さが残る顔つきだが成人はしているようだ。若者は木製の頑丈な椅子に座り、手足を革ベルトによって椅子に結わえ付けられている。

 恐怖におののく油汗まみれのその頭部には、半円状のヘルメットが固く装着されている。


 奇妙なヘルメットだ。分厚い半円には幾本もの細い円柱が立ち並び、円柱の先端からはコードが伸びている。ネジ式の万力でこめかみが固定され、革製のあご紐もついている。実に頑丈そうだ。



 一人は老人だ。頭頂まで禿げ上がった頭部に残った白髪は腰まで届くほど長く、彫りと皺の深い顔、目つきは鋭く、鷲鼻には丸い両眼鏡が掛けられている。

 老人の背筋はピンと伸び、爽健さを感じさせる。膝まである白衣の前ボタンをきっちりと止め、広いラペルに太いネクタイをしっかりと巻き、老人にしては異様に分厚い胸板をきっちりと包んでいた。


 老人は若者に言う。

「君は運がいい」


 ウンウンとうなずいてみせたあと、細かく震える若者を見て、慌てたかのように大声で告げる。

「おーっと!動いてはいかんぞ。決して動いてはいかん。君の脳深くに打ち込まれた電極針が、クチャッっとなってしまうからな!」


 若者はなんとか震えを止めようと食いしばる。

 若者の努力を認めるかのようにうなずいて、老人は続ける。

「これから君は、超人となるのじゃ。えーと、君は…名前はなんじゃったかな、イゴルンルンくん」



 もう一人は小男だ。執事服を着たせむしの男だ。顔色は悪く、不自由な片目は腫れ、髪はボサボサだ。

 小男は老人に答える。

「エフラン、でございます」


「ふむ、エフランくん。良い名前だ。花の趣きがある」


 老人は、若者に向き直る。



「エフランくん、イゴルンルンくんが持つランプを知っているかね?」


 小男は片手に、意匠を凝らした真鍮のランプをかざしていた。組み込まれたガラスの枠は眩しく輝く。炎の光ではない。

 若者は恐怖に荒い息のなか、あえぐように小声で、知っている、見たことがある、と言う。


「ダイナモ印のマギウスランプじゃ。ワシがあの有名な、ドクター・ダイナモよ。どうじゃエフランくん?安心したじゃろ?ん~?」


 老人は近づき、若者の表情を至近で覗き込む。若者は顔を歪め、エヘエヘと弱々しく笑った。



 その様子を見て老人はニンマリと笑い、顔を若者から離す。

「古臭い魔道具職人などとは一線を画すこの頭脳!マドーグ!マッドーグ!…ちょっと旨そうな食べ物みたいではないかね?」


「左様でございますな」


 小男は答える。


「秘訣は科学とマギウス技術、ふたつを合わせることにあるのじゃよ。こういうのをなんと言ったかな?イゴルンルンくん。え、わからない?そうかね?」



「ハイブリッド?」


 老人はコツコツと歩き回る。


「フュージョン?」


 老人は若者の椅子の前で足を止め、パチンと指を鳴らした。


「ジーニアス!!」


 そのまま足をクロスさせるように若者の方を見て、手を広げてポーズを決める。そしてウンウンと満足げにうなずいた。



「そしてワシはな、研究の末に理解したのじゃよ。なぜ魔石にはマギウス・スペルの力が込められるのかを」


「魔石にはな…人の意志があるのよ!正確には意思のようなものじゃな」


「つまり、魔石の意思がマギウス使いとなって、マギウス・スペルを発動しておるのじゃ!」


「ここまでわかったかね?」



 若者は過呼吸のように空気を求めて喘ぎながら、目とまぶただけでなんとかうなずこうとする。それを見て老人は嬉しそうに笑った。

「わかりの良い生徒とは実に良いものじゃな」


「そこでワシは考えたのじゃ。なれば、魔石にマギウス・スペルの術式を刻み込むがごとく、魔石には、生きた人間の意思をも刻め込めるのではないか?」


「そして生まれたのが、この『マジックジャー機械』なのじゃよ」




 部屋は捻じくれた奇妙な機械で埋め尽くされていた。それは若者の頭部から伸びるコードとつながり、さらに若者の椅子から少し離れた横にある作業台に太いケーブルを伸ばしている。

 作業台には3つの魔石が置いてある。小指の先ほどの小さな魔石、親指の長さほどの中ぐらいの魔石、握りこぶしほどの大きな魔石だ。


 老人、ドクター・ダイナモはコツコツと作業台に向かう。

「小さいものはゴブリンの魔石」


「中ぐらいのはオークの魔石」


「大きなものはオーガの魔石」


 横目で必死に見る若者に、ドクター・ダイナモは丁寧に一つ一つ提示してみせる。

「さあエフランくん、どれになりたい?」



「これかね?」


 小さな魔石を手に取る。若者は必死に、目の動きだけで首を振る表現をする。

「これかね?」


 中ぐらいの魔石を手に取る。若者は少し迷うが、やはり目を激しく横に動かした。

「やっぱりこれかね?」


 大きな魔石を手に取る。若者は目で何度もうなずく。必死にうなずく。



 ドクター・ダイナモは若者に優しくニッコリと笑い、ウンウンとうなずいた。若者も横目で顔色をうかがうかのようにエヘエへと笑う。若者の呼吸がどんどん荒くなる。



「正解!やっぱりこれでしたー!」



 ドクター・ダイナモは、中、大の魔石を払って跳ね飛ばし、小さな魔石をかかげて見せて、できの良い生徒を慈しむようにニンマリと笑う。若者はウーウウーと唸るように泣き出した。クシャクシャに歪んだ顔から涙がこぼれ落ちる。

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