表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/61

お持ち帰りおじさんと兄貴

 ハッチが開き、ドロイドくんが外に顔を出した。


「うわっ」


「いや、申し訳ありません。突然だったんでびっくりしちまったんで。いやホント。こっちこそ突然あいすいません。銀色のちっちゃい姐さんはご在宅ですかね」


 ハッチの向こうから、男の声が聞こえる。


「わたしだ」


 台座を飛び降り、コアたまごはハッチに向かった。コンピューターもコロコロと続く。

「はーいー」


 ぴょこんと顔を出す。

「地権者の方ですか?」




「はい?ああいえ、この辺の土地に権利なんてものは無いんです。いやホントはあるんでしょうけどねえ」


 体格は良いが贅肉のない体つきをしている、目付きの鋭い伊達男だ。派手でラフな格好をして、大きな紙袋を抱えている。

「申し遅れました。俺はこの辺を取り仕切ってる組織のもんで、ジョットと申します」


「ジョットの兄貴!こいつでさあ!こいつが袋と縄を盗ったんだ!」


 背の低い小太りの男が、居丈高かつ賢しげに指を指して叫ぶ。お持ち帰りおじさんだ。



「黙ってろって言っただろう。なんでもこの家がパッと現れて、姐さんもパッと消えたとか」


「おれの大事な商売道具が、食いちぎられたみたいになっただよ!こいつが切ったに違いないだ!」



 コアたまごははた、と思い至った。

「ああ、帰るときに袋を巻き込んじゃった?流石に正確に自分のかたちで超空間に入るのはむつかしいね」


 «てかマスター、有機体ボディで超空間に突っ込んで大丈夫なんですか?イカれてません?»


「自分のかたちをよく知ってれば、超空間で自分のかたちを失うことはないのだ」


 «自分探し女子みたいなこと言って»



 ジョットの兄貴にコンピューターの通信は聞こえない。当惑する。

「おっしゃってることはよくわかりませんが、魔女とか魔法使いとか、姐さんそれですよね」


「魔女」


 «ほほう»


 コアたまごとコンピューターは、顔を見合わせた。

「そうです」



「そんなわけねえだよジョットの兄貴!こんな綺麗なおべべ着たガキがこんな場所にいるなんて、ただの阿呆だ!格好のカモだ!」


 ジョットの兄貴はチラリと、お持ち帰りおじさんを一瞥する。お持ち帰りおじさんは黙り込んだ。

「魔女の姐さん、この度は本当にすいません。こいつは詫びのしるしです」


 ジョットの兄貴は大きな紙袋をさしだした。ドロイドくんが受け取る。

「バナナです」


「ほほう」


 «クイックスキャン…良いものです»


「ありがとう」


「袋と縄を盗ったことだって認めたんだ!罪を償わせるだ!連れてくだよ!」




「その鉄の骨野郎だってジョットの兄貴ならイチコロだ!ゲヘフェフェ、そしたら身ぐるみ剥いでふんじばって、それからまるっと家探しするだよ」


 ジョットの兄貴と、コアたまごと、ドロイドくんは、一斉にお持ち帰りおじさんを見る。

 お持ち帰りおじさんは黙り込んだ。


 ドロイドくんはキュイ、と肩をすくめた。

「本当すいませんね。ただね、そのことで少しだけお話というかお願いがありまして。いえ、聞くだけ、聞くだけでいいんです」


 ジョットの兄貴は真面目くさった顔で続ける。

「この辺はスラム街の中でもずっと治安が悪いとこなんです。うちの組ではまあ、よそ者の悪いのはなるべくボコしてるんですけどね」


「治安維持軍だ」


 コアたまごは感心する。



「ここは難民も流民も出稼ぎも、あくどい奴らもケイオスの化け物みたいなのも流れ込んでくる。いや姐さんもその一人ですがね」


「ここの悪い奴らもその日生きるのに必死なんです。そんななかに旨そうな餌ぶら下げた、触ったら死んじまうような凶悪…強力な罠が野放しでいるとですね」


「姐さんのことですよ。その、困るんですよ。返り討ちだけで死体の山が出来ちまう」


「こいつはそんな強そうに見えねえだ。ジョットの兄貴の考えすぎだ」


 お持ち帰りおじさんは鼻で笑う。もうだれもお持ち帰りおじさんを見なかった。



「あー、そのことなんですよ。もうちょっと強いと言うか、いかついと言うか、手を出しちゃいけねえって分かる感じの?そういうのを連れ歩いてもらえるとですね。こちらとしては助かるんですよ」


「なるほど」


 コアたまごは感心する。


「ただでさえ姐さんはそんな見てくれだ。ちょっと危険を負ってでも、ちょっかい出すやつは必ずいます」


「そこの鉄骨の兄さんみたいな人達に囲ませるなりですね、必要なくともですよ。ちょっと考えてほしいんですよ」




「わかった。善処する」


 «マスター、アドベンチャラーズ・インの場所を聞きましょう»


 コンピューターが通信でささやく。


「ジョットの兄貴、わたしが用事のあるところの場所を教えてほしいんだけど」


「護衛の準備だって大変だ。今日は案内させやすよ」


 ジョットの兄貴は人当たり良く言う。


「アドベンチャラーズ・インってとこなんだけど」


「「えっ」」


 ジョットの兄貴とお持ち帰りおじさんが、汚い声でハモる。



 ジョットの兄貴が額を押さえる。お持ち帰りおじさんは真っ青になってブルブル震えだし、後退りした。

「…おい、お前、姐さんを案内しろ」


 額を押さえたまま天を仰いだジョットの兄貴の言葉に、お持ち帰りおじさんは激しく何度も首を振り、脱兎のごとく駆け出し、転び、もつれるように駆け出した。


 ジョットの兄貴は言った。

「泣けてきた」


「大変ね」


 コアたまごはジョットの兄貴をいたわった。



「…近くまでならご案内できますよ。流石に中までは勘弁してください」


「ありがとう。じゃあ行こう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ