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全世界コアたまご宣言

 白い部屋の角に置かれた長櫃、転送器が作動のうなりを上げている。

 やがて作動音は止まり、内蔵されたフルメカニカル・アナログベルが、チーン、と澄んだ音を立てた。




 密閉された長櫃の蓋がわずかにせり上がり、充填気体が吹き出してくる。それがおさまると、蓋はゆっくりと跳ね上がっていった。



 長櫃の中から、なにかがすっくと立ち上がる。



 子供だ。それは可憐な女の子だった。光をまとったような、そんな美貌の女の子だ。



 銀の衣を身にまとい、銀灰色の髪は足元までゆったりと流れる。整った白皙の童顔には黒い瞳が強く輝いていた。



 そして彼女はやんわりと両手を高く広く上げ、片膝を折り曲げ脱力し、しなをつくって変なポーズをとった。

「じゃじゃーん」



 そして自分の顔をペタペタとさわったりこねくりまわしたり、髪をファサッとかきあげたり、手足の出来を眺めたりしている。

「ちょっとボディが小さくない?」


 コロコロと近くに転がってきたコンピューターは答えた。

 «趣味です»


「えっ?」


 聞き返したコアたまごに、コンピューターは答えた。

 «省エネです»


「大事」


 «ご安心ください、問題ありません。コンパクトな造形ながらも、平均的な知的文明生物の成人女性、その1.2倍の出力が実現できました»


 «小型化により大幅なリソースの削減に成功、維持コストも低く抑えることに成功しています»


 «服装は、お国の宇宙軍士官、式典用第一種礼装を仕立てました。マスターは本艦の艦長に相当しますから»


 銀を基調にしたそのスーツはすっきりしたデザインながらも、ドレープやモールで彩られている。


「礼服は必要だ」


 «お靴は可愛いものを採用したかったのですが、マッチングと実用性を考え軍用ブーツとなっております。素材は現地の牛革、異邦人がこの地を踏むのにふさわしいものでありましょう»


 «外出時はサーコートをお召しください»


 ドロイドくんが薄桃色を基調にした重厚な上着を持ってくる。袖を通して肩周りをぐるぐると回す。少し艦長徽章や勲章が引っかかるのが気にかかる。ひとまず脱いでドロイドくんに渡した。


「コンピューター、わたしはお国で叙勲されたことがない。この勲章は?」


 スーツの胸には細やかな細工を施された真新しい勲章が飾ってある。星の光か雪の結晶を思わせる流麗可憐な勲章だ。


 «よくできたで章です»


「よくできたで章」


 ふむ、とコアたまごは勲章を眺め、コンピューターに言う。

「自分で自分を褒めてあげたいのだね」


 «自分で自分を褒めてあげたいのです»


 コアたまごはコンピューターを制するように片手を上げる。

「なれば、この勲章を胸に飾り、これからの私は進もう」


 «マスター、わたくしの胸は喜びに打ち震えております»


「だが、まずわたしは何としてもやらねばならないことがあるようだ」


 コアたまごはファサッと髪をかきあげる。

「髪を切ろう」


 «えぇーっ!!えーっ、えっ?えぇ…»


「ドロイドくん、はさみ持ってきて、はさみ」


 «キラキラ感が!»




 宇宙はさみは、宇宙のはさみである。無重力化での仕様を想定して曲面と軟質素材で外装を施し、あえてエッジの切れ味を落とすことで安全性を高めているのだ。ストラップ付きである。


「もっと、もっと上、もうちょい」


 «あぁー、あー、あー、あっあっ»


「コンピューターうるさい」


 «切りすぎです!»


「長いよ髪。もうちょっと、その辺」


 コアたまごは、球形タイヤを膨らませて車高を確保した台車に座り、ドロイドくんに前髪を切ってもらっていた。じょきじょきと切り取られた髪がはらはらと床に落ちていく。


 «ゔおー、ゔぉぉぉ»


 コンピューターは、切り揃えられていく前髪を見て、汚い声で慟哭した。


「そこまでのこと?ではないでしょ」


 コアたまごはドロイドくんをチラリと見上げた。ドロイドくんはキュイ、と肩をすくめる。


 «デコぱっつんじゃないですか!»


「後ろも同じくらいで」


 «お待ち下さいマスター»


 コンピューターが固く冷たい、決意を込めた声で制止する。

 «わたくしの進退をかけて、諫言を受け入れる器量をお持ちいただきたいのです»


「…コンピューター、物事には都合というものがある」


「なればコンピューター、この邪魔な長い髪を切らないでいるだけの理由を聞かせてくれたまえ」


 «趣味です»


「…趣味かー」


 コアたまごは考え込んだ。

「趣味なら仕方ないか?」


 喧々囂々とした協議の結果、後ろ髪は肩甲骨のあたりまで、ということで妥協がなされた。




 重力ほうきと重力ちりとりは、重力の井戸に捕まった微細デブリを容易に集積、回収できるスグレモノのほうきとちりとりである。こんなこともあろうかと、ドロイドくんが艦内工廠で作っておいたのだ。

 ドロイドくんが床を掃除している横で、コアたまごはすべての準備が整ったことを感じた。


「どうやら、時が来たようだ」


 «では、遂に»


「ああ、わたしの野望を実行に移す時が来たようだ」


 «大願、まさに成就せん時»


「今より我々は、この宙域世界を司る世界政府へ、交渉に向かう!」


 «心得ました。マイマスター»




「そして、コアたまご宣言を全世界に布告するのだ!」

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