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コアたまご vs GCBおてんとさん

 コアたまごは考える。

 人が宇宙に生きる上で、最も必要な精神、最も必要な心とはなにか。



(省エネ)


 省エネである。


 宇宙空間は基本的に、人の生存には適していない。水、空気、食料、電力資源、推進資源、予備部材。生存に必要なものを箱に詰め込んで密閉し、推進力によって目的の地を目指すために、その極地に人は漕ぎ出していく。

 そして補給可能な地点にたどり着くまで、密閉された箱の中身はただただ消費されていくばかりなのだ。


 しかしながら、何らかの不慮の出来事によって、箱が目的地、補給地点に到達できなくなった場合、他人との航路の交わりがない宇宙空間においては、非常に厄介なことになる。

 あなたを探す救助者に無事に救われるか、あるいは第三者の箱がたまたまあなたの箱の近くを通り、あなたが救いを求める信号をキャッチし、助けを求めているのだと認識し、助けて何の得にもならない厄介者であるあなたに対して救いの意思を持つ。

 という途方もない偶然が重なり合う瞬間が訪れるまで、自らが箱の中に閉じ込めた備蓄のみを使って生き長らえねばならないのだ。


 したがって、備蓄の消費が少なければ少ないほど、ごくわずかずつではあるがその緩慢な死から、救い出される確率が上がっていくのだ。

 すなわち省エネとは、未来に希望をつなぎ、未来の絶望を遠ざける行為にほかならない。

 省エネの心を持たない者は、本人が思うよりもずっとずっと容易に、いずれ物言わぬ漂流物に成り果てることだろう。




(ムッチーはわかっていたんだ。牛肉防衛隊が接近していることを)


 戦闘のエネルギー損失は高く、死のリスクまでもがつきまとう。損失とリスクに見合うだけの見返りが無いならば、戦闘はエネルギーの消耗にしかならない。


(戦闘のリスクよりも、わたしとの会話を選んだというの?)


 無敵丸は省エネの心を持たない者なのだろうか。否、彼には省エネの心を持つもの雰囲気がある。コアたまごはお国の人々のことを思い出していた。




 コアたまごに提供できるものなど、肉を運ぶ労働力ぐらいなものだ。宇宙港の港湾荷役車両ほどの価値に、省エネによる未来を損耗するだけの価値があるとは思えない。

 では何故?


 コアたまごは思う。彼はたまたま接近し、ちょっと救難信号を向けられただけの相手に、救いの手を差し伸べる男なのだ。

 500年の漂流、悠久の孤独。(ん?割とすぐだったかな?)とにかく漂流し枯渇した相手に、自分の未来を削って分け与えられる男なのだ。


 この牛肉は、無敵丸の破滅の先にある肉だ。それを分けてくれるというのだ。それは利害を超えた真の慈悲であろう。

 だというのに自分は偉そうに禊ぎだの何だのと、自分の都合を盾に出しゃばって、救いの手にケチをつけてしまったのではないか?

 コアたまごは恥ずかしくなった。




 だがここで大きな問題が立ちはだかる。おてんとさんだ。

 穢れを祓う禊ぎのないこのままでは、おてんとさんを敵に回してしまう可能性がある。そう、おてんとさんに申し開きが立たないというやつだ。

 恒星に住むグレーターコズミックビーイングであるおてんとさんは、巨大なプラズマ生命体、悪くすれば『レガシー』と同じような高次元存在だろう。そんな存在との交戦は、艦と資源に甚大な損害を与えるに違いない。それだけは避けねばならない。


「コンピューター、おてんとさんにつないでくれ」


 «…はい?»


「わからない時は知っている人に聞く。これが一番だ」


 «…えーとですね?知っている人だってその人の都合があるんです。おつなぎできません»


「忙しいの?」


 «心のおてんとさんに聞いてみてください»


「心の…シミュレーターか!」


 高度な要求に、コアたまごはおののいた。


「わたしに心のシミュレーターが起動できるのか?人の体さえ持たないこのわたしに」




 その時コアたまごは、自分に語りかける存在を感じた。

(…コアたまご…聞こえますか…コアたまご…)


「だれ!?」


(…私はおてんとさん…今、あなたの心に直接語りかけています…)


「なんだって!?超空間を自在に操る『レガシー』であるこのわたしに、感知できない波があるのか!?」


 しかもおてんとさんは、コアたまごを一方的に補足している。コアたまごはその恐るべき力に戦慄をおぼえた。


「だが、これは好機。おてんとさん!わたしは、争いに穢れた肉がほしい!だが禊ぎが困難なのだ!おてんとさん、わたしを許してほしい!」


(ぶっころす)


「気分屋めー!」




 対話を終えたコアたまごは、コンピューターに悲壮な決意を伝える。

「コンピューター、わたしは肉を運ぶよ」


「そしてわたしは、おてんとさんと戦う!」

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