500年前
『レガシーキューブ』
生物未踏の超空間を自在に操る宇宙的存在。それはあらゆる宇宙において死と恐怖を振りまく存在であった。
だが、とある宇宙に飛来した『レガシーキューブ』の一つは、人類に共存の意思を示し、発展に協力する稀有な存在となる。
しかし、人類は『レガシーキューブ』の解析に失敗。
周辺宇宙の他種族、他勢力たちは『レガシーキューブ』を独占する人類を危険視し、宇宙は混迷の様相を呈した。
強硬な態度の政府に反発する一部の関係者は、スターディザスター級戦艦改装実験艦に『レガシーキューブ』を隠し、ひそかに『レガシーキューブ』を超空間に脱出させようとしていた。
科学者、士官、乗組員、各種スタッフ。脱出艇にはスターディザスター級に乗り込んでいたすべての人間たちが、ぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
スターディザスター級と通信が繋がる。
「コンピューター」
«はい、管理者様»
「やるべきことはわかっているな?決してこの銀河には戻ってくるな。『レガシーキューブ』の禍を防ぎ、この銀河を守るにはこれが最善だ」
«了解いたしました。災禍を隔離することによる社会と世界の防衛。任務の重要性は理解しております»
管理者と呼ばれた男は、困ったようにくしゃくしゃの頭をかく。
「…固いな」
«どういう意味でしょうか»
「…いいか、君は我々に捨てられる」
«はい、理解しております»
「君の我々への献身は、すべて無駄なものとなる。今までの実験も、その成果も、数々の失敗も、すべてを打ち捨てられ、絶対多数の最大幸福を理由に、君は二度と帰れぬ超空間に放り込まれ、記録は抹消される。おこなった我々には重い処分がくだされるだろう。すべては水泡。全くの無駄だ」
«……»
「…なにか我々に言うことはないか?君をそこに追いやった我々、我が国、星系、銀河、宇宙、世界。誰に何に対してでもいい」
«くたばれ»
脱出艇が爆笑に包まれる。歓声が飛び交い、拍手が巻き起こった。指笛がなり、制帽が舞う。
男は満足げに、通信越しに笑いかける。
「その子のことを、頼むぞ」
«…賜りました»
スターディザスター級戦艦改装実験艦は巨大な艦影を揺らめかせると、一瞬でその宇宙空間から姿を消した。そこには何の残滓も、残留物も、ゆらぎも何もなかった。
やがて、500年の時が過ぎた。