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君達と変えるこの世界  作者: 八巻 千尋
謎の少女との出会い
9/81

昼休み

恵梨香は今、人生最大のピンチに直面していた。

そもそも記憶が昨日からしかないから人生最大かどうかは分からないがとにかくヤバいのである。

痛みとは違う、謎の違和感がある。何かに対しての欲望が湧く。腹の中の空白感がある。

平たく言えばお腹がすいていたのだ。

ぐうぅぅぅぅ

とお腹がなる。

「お、お腹すいたよ。祐は朝どこかに行っちゃって居ないし」

祐が恵梨香のお昼のことを忘れている可能性がある。そうなれば恵梨香は死んでしまう。そう思わずにはいられなかった。

「おーい、恵梨香、昼飯買ってきたぞ」

「た、祐〜!」

恵梨香が部屋に入ってきた祐を見るなり突撃するかのようにボディーアタックを仕掛けてくる。祐はそれを見るなり自分の右側に腕を伸ばして手にはパンを握っている。

「パン食え」

恵梨香は進行方向を無理やり変えてパンだけ綺麗にキャッチ、勢いを殺すように前転し立ち上がる。

「いただきます!」








恵梨香はパンを受けとる(奪い取る)と急いで食べ始めて、もちろんパンを喉につまらせた。そんなこんなでいつの間にか食べ終わり二人仲良く祐がいれたお茶を並んで飲んでいた。

「美味しかった〜」

「そりゃよかったっすね〜」

祐は恵梨香の感想に大して興味が無いような反応というよりは不貞腐れたような反応を示す。その理由は祐が買ってきたパンのほとんどを恵梨香が食べてしまったのだ。今日は運良く購買にパンがたくさん残っていて大量に買ってきたのだが恵梨香はそれらを全て簡単に平らげてしまった。

「お前の胃は体全体にまで広がってんのか?」

「れでぃにそんなこと言っちゃいけないだよ」

「レディは他人のことを考えて俺の分もしっかり残しておいてくれ人だと思うがね」

売り言葉に買い言葉でちょっと意地悪な言葉をかけてしまう。

「ご、ごめんなさい」

「別に怒ってねーよ、それよりも」

祐はお茶の入っている湯のみを机に置き、恵梨香の方に体を向ける。

昼休みの終わりまでまだ時間はある、聞けるうちに聞いておくに越したことはないので今のうちに聞いておく。

祐の雰囲気の変わりようを察したのか恵梨香も湯のみを置き真剣な眼差しになる。

「お前が俺の前に来てから1日経ったが何か思い出したか?」

恵梨香は力なく首を横に振る。

祐は別に大して落胆はしない。そもそも普通の人なら祐と初めて会った時点で何か思い出すはずだ。そこから考えると恵梨香はやはり何らかの魔術実験対象者である可能性が高い。この島の約半分は魔術研究棟が占めている。そこからの脱走者もしくは何らかの研究のために学院に来た者かもしれないが恵梨香自身が分からないのであればお手上げだ。

「そうか」

「ごめんね、何も思い出せなくて」

「いや、気にしなくていい」

変に思い出して思い出したくないことまで思い出しても厄介になるだけだ。

別にこっちの質問の成果は自分でも分かりきっていた。祐がほんとに聞きたかったのは私情だ。

「下にしまってある日記、見たのか?」

口に出した瞬間、恵梨香の雰囲気が少し暗くなる。

勝手に見た事への負い目を感じたのか視線がそこら中を泳ぐ。

「ごめん、見ちゃった」

朝起きたら少し、ベットの位置がズレていたからもしかしたらと思ったが予感が当たった。

「いや、別に見られたのは俺の管理不足だから怒りはしないが、何か言いたいこととかないのか?日記について」

すると、恵梨香は祐の頬に手を添える。

「え、恵梨香?」

優しく、優しくなでながら聖母のような笑顔を向ける。

「祐が聞いて欲しくないことくらい分かるよ。だから聞かないよ」

「…………!」

その言葉を聞いた瞬間、祐は息を飲み、目がほんの少し潤む。

言葉が出てこなかった。

祐は前にも同じようなことを聞いたことがある。



それは祐の大切で愛しの人との思い出。

祐はとある事をやり、精神的に参っていた。

『聞かないのか?俺が何をやったのか』

祐がベットで寝て、一人涙を流している。

桜は祐の顔の隣に座り、頬を優しくなでる。

『私は祐のこと、なんでも分かってるから聞かないよ。祐が聞いて欲しくないってことも分かるよ。だから聞かない。でもこれだけは分かる祐が悪くない、ってね』

そう言うと祐は今まで抑えていた感情を決壊させ、声を出して泣いた。



「祐?どうしたの?ぼうっとして」

「な、なんでもねーよ」

自分の目に涙が浮かんでいることに気づき、急いで拭く。

泣いていたのを悟られるのも癪なので適当に誤魔化すが恵梨香の瞳には祐の涙がしっかりと映っていた。

「日記について聞きたいと思ったら聞いてくれて構わないからな」

「別に興味ないからどうだっていいよ!」

「それはそれで腹立つな」

この時の優しさは本当に嬉しかった。







男子寮を出て午後の授業のために訓練場に向かう道を歩いていると途中にあるベンチに御門が足を組んで座って待っていた。

「何してんの、お前」

「親友を待っていたんじゃないか」

イケメンは言うことが違うな、なんてどうでもいいこと考えてしまう。

御門はよっ、と勢いをつけて立ち上がる。

「日記については話せたの?」

「えっ?なんで知ってるの?」

思わず目が点になる。祐の人として黒い部分や弱さが出ているためアレを見られたと急に恥ずかしくなる。

「僕が知らないと思ったの?」

御門なら恵梨香のようなミスはしないだろうがあの日記を見ても祐に対しての接し方を変えなかった御門には頭が上がらない。

「うっ、何か言いたいこととかあるか」

「よく毎日欠かさず書けるよね」

「それだけか」

「なんか、聞くだけ野暮ってやつだよ」

その言葉を聞くと余計にこのイケメンには頭が上がらない。

「そうか、ありがとな」

「はいはい」

親友と本当の意味で心の距離が近くなったと祐は感じた。

そして昼休みは過ぎていく────

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