学院長と魔術について
「────諸君らには自分の信じた道を歩んで欲しいと言いたいわけで」
体育館のステージの上で話しているのはこの学院の学院長龍ケ崎千夏だ。彼女は龍ケ崎家の現当主で全日本魔術選手権で10連覇という偉業を成し遂げた。自他ともに認める「最強」で「最恐」の存在である。
彼女は生徒達の間では「鬼姫」と呼ばれている。
彼女は綺麗な長い黒髪に落ち着き払った雰囲気、目は人の感情を全て見透かしたような目をしている。
とても美しいが罰を与える時はとてつもなくやばいとかなんとか、そんなとこから彼女は「鬼姫」と呼ばれている。
これほどの人ができた人からどうやったら誠のような人を常に見下すような人間が生まれるのか解剖して見てみたい。
なんてことを考えているといつの間にか学院長の話は終わり生徒達は教室へ戻っていく。
祐はその流れに逆らわずゆっくりと教室へ戻った。
「では、授業を始めますね」
教卓に立っているのは2年1組担任山田曜先生だ。彼女は教師にしては珍しく生徒達に慕われている。あだ名は「曜ちゃん先生」だ。
「今日は軽めに1年生の基礎復習をしましょうか。」
黒板に文字を書きながら続ける。
「魔術というものはそもそも人の中にある魔力とイメージ力が形になったものです。魔術式や呪文は形にする効率を良くするためのものであって、必要不可欠という訳ではありません。熟練の魔術師ならば詠唱なしでも魔術を使える人はいますしね。また、イメージ力が強すぎて術者が気づかないうちに魔術が起動する、なんてこともあります」
するとバカな男子生徒は
「先生の全裸のイメージがあれば先生を作り出せるってことですか!?」
曜は頬を少し赤く染める。
「セクハラですよ!」
クラスに笑いが起きる。
「魔術はその能力、効果によって全五段階に分けられています。一、二段階が学生魔術。三、四段階が軍事魔術。五段階が儀式魔術となっています。段階が違くても同じ魔力量を使うこともあります。1人の術者が二つの術式を同時起動するためには両方に均等に魔力を注がなければいけません。これはとても高レベルの技です。失敗すると暴発する可能性があるので皆さんはやらないでくださいね。」
祐はそんな授業を右から左に聞き流していた。
「授業、聞かなくていいの?」
不意に後ろから声をかけられて大きな声を出してしまう。
「うわっ!」
クラス中から少し痛い視線が刺さる。
曜はそんな祐の様子に苦笑しながら教科書をめくる。
「では、ちょうどいいので師子堂君これを答えてください。魔術を起動するためには魔力を使います。魔術起動の際に使う魔力の中には決まった魔素に変換されています。炎の魔術を使うなら炎の魔素が。水の魔術を使うなら水の魔素と言った感じですね。では、どの属性にも当てはまらない無属性と言われる回復魔術や身体能力強化魔術を使うにはどのような魔素を使えば良いのでしょうか」
「全ての魔素を均等に魔力に含ませます。」
聞かれた瞬間に答えがわかったので即答する。
「はい、正解です。無属性の魔術を起動するには元素魔素と言われるものを再現しなくてはいけません。その元素魔素は全ての魔素を均等にすると再現できるのでしたよね。よく出来ました」
助かったとばかりに胸を撫で下ろす。
そんな祐のことを見て御門は笑いを堪えている。
「ごめん、悪かったね」
「だったら話しかけるなよ」
「だから、ごめんって」
ため息が自然と出てしまう。
「実は、明日ある対人戦闘訓練でペア組まない?」
「別にいいけど、なんで?」
「いや、朝龍ケ崎君にね一泡吹かせたいんだよ。僕一人じゃ無理だけど二人でなら行けると思ってね。おねがい」
御門の話はほとんど聞かず板書を写す祐。
「あぁ、いいよ」
と空返事をする。
「これで間違いなく一泡吹かせられ────」
「三千院君、ここ答えてください」
するとメガネの位置を直す。
「はい、ここは────」
(器用なやつめ)
と思った祐であった。
その後授業は滞りなく進み授業終了を報せる鐘がなる。
「では、今日はここまでですね。明日は対人戦闘訓練があるので体調を崩さないで下さいね」
クラスのそこら中から返事が返ってくる。
我先にと帰る生徒や午後の予定を話し合う生徒がいる中祐は、
「じゃあ、俺は桜の部屋の掃除するから」
「うん、頑張って」
少しだけ重い足取りで女子寮へ向かって行った。