朝の日常風景(?)
ここはクラレスト魔術学院、魔術を使える才能ある生徒達を育成する場だ。この学院は世界でも五指に入るほどの名門だ。広大な敷地の中には校舎、旧校舎、体育館、決闘場、訓練場、訓練森林、遊技場、図書館、寮など様々なものがある。
そして何よりすごいのは学院のある場所だ。東京から南東に約100キロの位置にある孤島、クラレスト島の中心に位置している。クラレスト島は東京都の半分ほどの大きさだ。この学院のためだけにこの島とこの島の設備があるといっても過言ではない。
学院の寮から校舎へと繋がる道を二人は歩いていた。
「今日の授業ってなんだっけ?」
「今日は魔術基礎理論だよ。てか、教科書を全部カバンに詰める癖直しなよ」
2人はいつも通り何気ない会話をしながら歩いていると後ろから男女の少し騒がしい声が聞こえてくる。
後ろを振り返ると生徒達によって人だかりが出来ていた。
「先輩!おはようございます!」
「お供致します!」
「先輩!素敵〜!」
生徒達の中心にいるのは金髪のイケメン。学院長の息子であり干支十二家に名を連ねる家出身の龍ケ崎誠だ。
この日本には干支十二家というものが存在する。これは日本の魔術文明に大きく貢献した家に干支の名前が与えられたものだ。それぞれの家には得意とする、干支能力というものがある。鼠(炎)、牛(水)、虎(雷)、兎(風)、龍(土)、蛇(毒)、馬(光)、羊(闇)、猿(身体能力強化)、鳥(歌)、犬(錬金術)、猪(回復術)どの干支能力も全五段階に分けられている魔術の四段階目に匹敵する力らしい。
その干支十二家の龍の家、それも主家筋の人間がいれば必然的に注目と尊敬を集めてしまうものである。
何気なくその集団を見ていると中心にいる誠は祐の姿を見るなり人だかりに道を切り開かせるようにして近づいてくる。
「おはよう、師子堂君に三千院君。今日もいい朝だね」
「……ん」
「おはよう、龍ケ崎君」
祐は素っ気ない返事を、御門は笑顔を返した。
御門には興味が無いのか祐の方を向き、声量を上げてわざと会話の内容を他の生徒達にも聞こえるように言う。
「そう言えば今日は戌井さんが亡くなってから1年が経つね。いやー、彼女は惜しい人だった。この私が認める数少なき人物だったのだから。とは言っても、学院の訓練程度で死んでしまうような実力だったのかもしれないがね。そしてそんな彼女の光に当てられないと何も出来ない、何も無い君、いい加減彼女のことは忘れるべきだよ」
そこらじゅうから押し殺したような笑い声が聞こえてくる。
ギリッ
音が聞こえるほどの歯ぎしり。今の祐は耐えるしかなかった。
自分が弱くて、今でも彼女を忘れられず心まで弱いのは事実だからだ。
そんな祐の反応が期待どうりだったのか誠は笑みを浮かべる。
「まあ、そろそろ区切りを入れるべきだと思うよ。では」
立ち去っていく誠と生徒達を見て祐は拳を握り耐えることしか出来なかった。
そんな祐を見て御門は
「あいつら消してきていい?よし殺そう、そうしよう」
「.......はぁ」
そんな御門にすっかり毒を抜かれてしまい苦笑してしまう。
「やめとけ、とりあえず黒い部分しまえ」
「多分祐の急成長が気に入らないんだろうね。祐が本気を出して学年一位になればこんなことは言われないのに」
「お前は俺を買いかぶりすぎだ。今だって死ぬほど努力して、全力で頑張ってなんとか学年3位になっただけだ」
そんな返しをしてくる祐に御門はなんとも言えない表情をする。
「はい、この話終わり。とっとと行こうぜ」