戦いの始まり
あの後祐が向かった先は図書館だ。ここにいつも恵梨香がいるのだ。
「いた!恵梨香!」
ほかの利用者の視線を気にせず大声で恵梨香の名を呼ぶ。
「ここでは静かにしてよ。祐が言ったことでしょ」
「お前に聞きたいことがある」
「何?」
「お前なら人の体の再生と人から人への記憶移行も出来るか?」
恵梨香は目を閉じてなにか考えるような仕草をする。
「多分、出来ると思う」
「よし、あとは体だけか。おそらく探せば1部くらいはあるだろう」
「ちょっと待って祐は何をする気?」
「桜を蘇られる手が見つかったんだよ」
すると、恵梨香は暗い表情になった。
「そう、なんだ」
「これでやっと、やっと」
浮かれている祐には恵梨香の表情は見えてなかった。
今は夜7時、外は暗くなり寒さを感じるほどになった。
祐は恵梨香が風呂に入るのを確認するとベットの位置をずらし仕掛け床を開く。そこにはノートと刀の他に様々な魔道具と1枚の紙があった。
紙を手に取る。
『祐へ
僕からはこれくらいしか手助けが出来ない、ごめん。もし良かったら使ってくれ 御門』
どうやらこの魔道具は全て御門の物らしい。
「御門、恩に着る」
マントを羽織り、銃を腰の部分に差し、魔晶石をポケットの中に入れる。魔紙を懐に入れ、指輪をはめてからグローブもはめる。最後に刀『三日月宗近 改』を差す。三日月宗近 改は国宝、三日月宗近を錬金術で擬似的に再現したものだ。これは桜に造ってもらったもだ。
準備は出来た、あとは訓練森林に向かうだけだ。
恵梨香に心の中で謝罪してから窓から外へ出る────が。なぜか部屋の中に立っていた。
「なっ、」
もう一度試すが同じ結果に終わる。
「何が起きてるんだ」
「やっぱり、準備しといてよかった」
風呂場の方をむくと買ってあげた花柄のワンピースを着た恵梨香がいた。
「恵梨香がこんなの仕掛けたのか!なんで!」
「多分、祐だけじゃ絶対に無理だと思う」
「無理でもなんでも────」
「だから、私が手伝う。無理に一人でやることにこだわらないで過程を追い求めすぎて結果を取り損ねたら元も子もないよ」
祐でも分かっていた。祐一人では無理だ、と。
「分かった、手伝ってくれ」
「うん!」
恵梨香は窓に起動している魔術を解術する。
そして2人にとっての長い長い夜が始まる。