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君達と変えるこの世界  作者: 八巻 千尋
謎の少女との出会い
16/81

祐の心

ジリリリリリリリリリリ

耳を突くような目覚まし時計の音が聞こえる。

少しずつ意識がはっきりしてくる。

視線横に向けると恵梨香が眠っていた。

「お前、あの後こっちに潜り込んできやがったのか」

昨日寝ようとした時は確かに恵梨香は別の布団で寝てたはずだ。

しっかり確認した。なのに、ここにいる。

「よし、反応するだけ無駄だな」

ベットから降り体を伸ばす。カーテンを開けて外を見ると朝特有の静けさがあり、霧が少しかかっている。

静けさのせいか恵梨香の寝息が大きく聞こえる。

寝息、寝顔、また恵梨香に別の人が重なってしまう。

頭を振り思考を切り替えて恵梨香の体を揺する。

「ほら、起きろ。職員室行くぞ」

10秒ほどすると恵梨香は目を開き祐を見てくる。

「まだ早いよぉ、だからもう一回寝る」

「寝るな」

二度寝しようとする恵梨香を無理矢理起こさせる。

ほっぺをつねり無理やり眠気を覚まさせる。

「顔洗ってこい、俺はコーヒー入れとくらから」

「うぅ〜、痛い」

祐はキッチンに恵梨香は頬をさすりながら洗面台に向かう。

コーヒーの準備が出来たあとは祐も洗面台に向かう。そこで立って寝ていた恵梨香をまた起こす。

「お前、よく寝れたか?」

「それはもうバッチリ!」

「それはよかった、これからしばらく寝れないかもしれないしな」

「え?なんで?」

「あのな、お前のこれからについて話したりするために今から行くのな。それによってお前がどうなるか決まるわけだ」

恵梨香の表情が曇はするが絶望、といった様子はない。

それまそうだろう、恵梨香の存在が何かしらの問題になるのだとしたら昨日のうちに向こうから話にきているはずだ。それがないということは今すぐに、ということは皆無だろう。

もちろん、可能性の話としてはあるのでそれだけは注意しておく。

「俺、外に出てるから着替え終わったら言えよ」

10分ほどすると恵梨香が部屋から出てくる。昨日買ってあげた花柄のワンピースを着て黒い指輪をしていた。それだけの光景がとても嬉しかった。








「失礼します。2年1組師子堂祐です。入ります」

職員室に入る時の決まり文句を言ってから扉を開けて職員室に入る。

ここは孤島であるため職員も寮住まいなのだ。その理由があってかこの学院に勤める講師や職員は基本的に通勤が遅い。皆ギリギリまで来ない。むしろ、講師が遅刻することすらある。

職員室には山田先生しかいなかったが今の時間が6時半ということを考えれば妥当だろう。

「待ってましたよ師子堂君、それと」

「恵梨香です」

「恵梨香さんですね。じゃあ、恵梨香さんについて分かることを話してくださいね」

祐は恵梨香について分かることを全て話した。とは言っても一昨日出会ったばかりなので話すことが多いわけではない。

「────と言った感じです」

20分ほどかけて事細かに全てを話した。

「だいたいわかりました。昨日あの後職員会議が開かれました。結論だけ言えば様子見になりました。恵梨香さんの力が規格外すぎるので迂闊に日本政府に報告が出来ないんです。学院長のツテを使って信頼できる人が恵梨香さんについて検査してくれます。それまで2週間ほどかかるのでそれまでは師子堂君の部屋で預かってください」

「…………はい」

「あと、まだ学生の身なので間違いが起きないようちしてくださいね」

「起きません!」

そこだけは全力で否定しておく。

話題を変えるべくわざとらしく咳払いをして話を切り出す。

「ゴ、ゴホン!恵梨香についてですけど、実は研究施設の人ってことはありませんか?じゃないと、こんな規格外の力に説明がつかなくて」

「一応この島は学院長の領土ですからこの島にある研究施設からは毎日問題ない程度ですが研究内容を知らされています。その中に恵梨香さんのことは無かったと言っていました」

「恵梨香は明らかに普通じゃないですよね」

「でも安心してください。学院長は、いえ学院は全力で恵梨香を守りますよ。それだけの権力が私にはある、って学院長は言ってました」

「あ、あはは」

学院長がそのセリフを言っているとこが容易に想像出来て笑ってしまう。

ともあれこれで恵梨香の身の安全はある程度保証された。少しだけ肩の荷がおりた。

「それで、あのあいつですけど」

「あ、龍ケ崎君は無事ですよ。師子堂君が守ってくれたおかげでほぼ無傷です。その少しの傷も治癒魔術なら今日中には治ると思いますよ」

「それで、俺への罰則はなんですか?」

「ありませんけど」

「へ?」

思わず声が裏返ってしまう。

「職員会議でも満場一致で決まりましたよ。師子堂君は何もしてませんからね。まぁ、あれだけの力がある恵梨香さんを刺激しても良くないので罰はありません。何より、師子堂君の日頃の行いの良さを教師は見てますからね」

「は、はぁ」

間抜けな声が出てしまう。長期間の謹慎は覚悟していたのにまさかの何もないというのだから仕方がないだろう。

「よかったね祐」

「あぁ、良かったよ」

恵梨香が笑顔を向けてくる。それに祐も笑顔を返す。

その笑顔のまま恵梨香の笑顔に容赦なくアイアンクローを決めた。アイアンクローと言うよりはこめかみに親指と小指を当て、的確にダメージを与える。

「痛い!痛いよ!祐!」

「そもそもこんなことになったのは誰のせいだ、だ!れ!の!」

「ごめんなさい、もうしません!」

手を離し恵梨香を自由にする。

「ふふっ」

このやり取りが面白かったのか山田先生が笑っている。

「あ、ごめんなさい。師子堂君が三千院君以外に本音を出しているのが珍しくて」

指摘されて気付かされた。祐は恵梨香に心を許していたのだろう。考えてみれば普段の祐なら恵梨香のわがままに付き合わないだろうし、親友である御門ですら手伝わせたくなかった桜の部屋の掃除も恵梨香にはやらせてしまったのだ。恵梨香は祐の渇いた心を潤していたのだろう。どこか桜に似ていたのが心を許した初めの理由だが、誰でもよかったのかもしれない。誰でもいいから近くにいて欲しかったのかもしれない。誰でもよかったのだが、祐は自分から心を開こうとしなかったがために、御門以外は誰も祐に近づかないようになってしまった。

「では!失礼します!」

恵梨香をひっぱり職員室から急いで出る。山田先生の指摘を頭で理解し始め恥ずかしからか顔が赤くなっていくのを自分でわかる。

「祐、耳まで真っ赤だよ?」

「うるせー」

「何、私に感謝して照れてるの?」

「うるせー」

「まぁ、可愛い反応しちゃって」

「調子に乗るなよ」

「ご、ごめんなさい」

祐が手をゴキゴキと鳴らすと恵梨香は先程の痛みを思い出して素直に謝る。

恵梨香のおかげでようやく視界が開けたように感じた。自分は桜に固執しすぎていたのだろう。

「私、眠いから部屋に帰るね」

「あぁ、気をつけろよ」

恵梨香の背中が遠くに見えてから

「ありがとな恵梨香」

小さな声でそう呟いた。

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