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君達と変えるこの世界  作者: 八巻 千尋
謎の少女との出会い
13/81

祐と誠2

「逃げてるだけじゃ、勝てないよ!」

ビルの上をつたって走っている祐に向かって龍の上に乗りビルを壊しながら誠が言う。

「うるせー!龍なんてまともに戦って勝てるかっての!」

祐は時折、急旋回し攻撃、弾かれる。を繰り返していた。

相手は神獣、こっちは人間、どう考えても勝ち目はない。神獣であるあの龍を倒すためには同格の神獣か神聖魔術が必要だ。

同格の神獣つまり、干支能力で召喚する神獣などここにいる訳もなく、また、魔刀術を主な攻撃手段としている祐は神聖魔術なんて高等魔術使えるわけがない。せめて神聖属性をやどした神聖武器でもあれば勝ち目があるが。

つまり、今の祐には攻撃手段自体がないのだ。

別に効率のいい攻撃方法が同格の神獣による攻撃か神聖魔術なだけであって、効率度外視で超強力な攻撃力を持って当たれば多少なりともダメージは入る。

今の祐はそれを狙うのもありではあるが、それよりも御門は頼った方がいい。

祐は今、御門が来てくれるのを祈るしかない。御門ならば神聖魔術が使える。御門が隼樹を倒して合流するまでひたすら逃げる、それしかできることはないのだ。

「知ってるよ、君は戌井さんを守れるようになるために強くなろうとしているんだろ。こんなんじゃまた、守られるどころか死なせてしまうよ!」

ものすごいスピードで龍が突進してくる。

祐は振り返り刀を盾がわりにして防御するが、そんな防御は紙同然。はるか後方に飛ばされる。いくつもの建物の壁を破壊して電柱にあったとこでようやく止る。

「グハッッ!」

祐ほど身体強化魔術を極めた者でなければ間違いなく死んでいる。かく言う祐自身も全身打撲、擦り傷、切り傷だらけ、アバラと脚の骨は折れている。

「どうしたんだい?もう終わりかな?」

「……チッ!」

舌打ちをすると全身に無理やり力を入れる。傷が開き骨が軋む音が聞こえてくる。

刀を杖がわりにして何とか立ち上がる。

いくら身体強化をしていても普通これだけの傷を負っていれば立ち上がるどころか、気絶してしまう。

全身が痛い、思考がまとまらない。だけど、意識だけは繋げると口の中の肉を噛み、口内を血だらけにしながらも耐える。

「《光よ集え・我に施すは・天使の慈悲》」

祐が呪文を唱えると開いた傷口が閉じる。骨の痛みがほんの少しだけ和らぐ。

「何とか、戦えるか」

自分の体の状態を確認したがこれ以上はさすがにまずい、このまま続ければ最悪死ぬかもしれない。がこいつと戦える機会はほとんどない。この機会を失えば次がいつになるか分からない。

桜を守れるように、こいつを倒す。

「俺の自己満にもうちょい付き合ってくれよ」

自分の体に言い聞かせるように言う。

その意思だけで祐を立たせていた。

「君と彼女、どちらも結局は道端のゴミ同然なんだよ!僕の前にはね!」

「…………」

プッ、と口の中に溜まった血を吐き出す。

「あんなゴミのような人間を守ろうとするんだか」

「あ?てめぇ、いい加減にしろよ」

ブヅン!

誠が発した言葉で何か祐の中のすごいものが切れた音が、いや、引きちぎれた音がした。

祐の中の何かが決定的に変わった。

怒りをコントロールし相手を確実に恐怖に陥れる。

一歩間違えれば悪魔と呼ばれるような人格が生まれそうな、そう、今の祐は怖かった。

「き、君のような人間にすごまれても、は、ははは、迫力がないよ」

「少し黙れ、久しぶりに本気でキレた」

祐は龍の上に乗っている誠に近づくために一歩一歩近づいていく。

だが、その一歩が重い。

あまりの重さに地面に足がめり込むような錯覚さえ覚える。



「祐?」

訓練場にはいない黒髪の少女もその音を聞いた。

「これは、マズイかも」

少女は一人つぶやくと立ち上がりクローゼットから服を適当に見繕い着替え始めた。



「さすがに我慢の限界が来ちまったわ」

祐の目が変わる。

黒い、闇のような黒だ。どんよりとしている。目のを見つめても何を考えているかわからない。だが、分かることがある。今の祐は本気で誠を殺しかねない。

誠は自分の失敗を呪った。何か呼び覚ましてはいけないものを目覚めさせてしまった。誠は彼の触れては行けない琴線に触れてしまった。

「あんま使いたくなかったんだけどな、しょーがないか後で学院長に頭下げよ」

すると、祐の魔力が膨れ上がった。祐の魔力は少ない。それは生まれつきそういうものでそのため祐は魔力術と身体能力強化を使っているのだ。だが、今の祐の魔力は平均と比べてどころか同年代ではトップクラスの誠とほとんど差がない。

「何だ、やれば出来るじゃないか」

誠は祐の変貌に恐怖と同時に微かな興奮が起こっていた。

誠は同年代内では強すぎた。それは当然だ、干支能力が使えると言うだけで圧倒的アドバンテージになり、同学年で唯一干支能力が使えた戌井桜はもういない。そんな誠と今、互角に戦えるであろう者が目の前に現れたのだ。恐怖と同時に興奮が起きてもおかしくは無い。

「後悔、すんなよ」

今、祐の魔力が形をもって顕現────しなかった。

「は?」

祐の魔力が足りなくで顕現できなかったわけではなく単に祐の集中力が大きく削がれるような自体が目の前で起きたからだ。

宇宙人が現れたわけでもなく、魔王が顕現した訳でもない。

目の前にブラックホールのようなものが現れたのだから。祐も誠もそして観客席にいる全員が目を疑った。

そこの空間だけが歪み、黒い穴が現れる。そして、その穴から人が出てくる。人が穴から出ると自然とブラックホールは霧散した。

そこから出てきた人を見て祐は目を疑った。この場に現れることはまず有り得ない。その人の名は────

「え、恵梨香?」

祐が理解できないとばかりに恵梨香に近づいて問い詰めようとするが、

「待っててね、すぐ、終わるから」

祐をそっと抱きしめる。抱きしめられた瞬間、全身の力が自然と抜け、アドレナリンが無くなり急に全身が痛くなる。痛みに耐えられず、思わず膝をついてしまう。

恵梨香は祐が膝を着いたのを確認すると誠の方を向き、憎悪に満ちた視線を向ける。

「お嬢さんここはクラレント魔術学院だよ。すぐに出ていきた────」

誠は本気の勝負の邪魔をされたのが気に食わないのか、鬱陶しげに恵梨香に注意を促す。

「うるさい」

すると恵梨香の背後に十個もの黒い球体が現れる。

あんな魔術は少なくとも祐は知らない。どう見ても炎でも水でも土でも雷でも風でも光、闇、どの属性でもない。闇の魔術は基本的に紫色をするものだ。あの魔術は一体なんなのかそんな疑問を遮るように球体は誠に向かって飛んでいく。

「フッ」

誠は龍を操り、防御する。

かろうじて防ぐことは出来たが龍はかなりの傷を負った。肉は溶けて垂れていて、血祭りと言ったように傷を負った場所から血が放水されている。神獣であるあの龍にこれだけのダメージを一瞬で与える。つまり、あれは神聖魔術の1つなのだろうか。

だけどなんだろう、胸の辺りが気持ち悪い。

自分でも分からず直感的に何かを感じているのだろうか。

祐の思考を横に恵梨香はこれ以上時間をかけまいと魔力を練り始める。

「これで終わり。《集え集え・漆黒の闇よ・それは全てを呑み込む・その先にあるのは永遠の闇━━━━━━」

流石の誠も自分の神獣をこれだけやられたから理解したのか恵梨香の詠唱を止めるべく妨害に出る。

「《穿て!》」

誠の一言で地面から槍が生えてくる。だが、恵梨香に当たる直前でなにかに阻まれ折れる。

「━━━━━死すらないその世界で一生を過ごせ・そして消えろ》」

先程の球体よりもさらに巨大な球体が一つ生まれた。

また、胸の辺りが気持ち悪い。

やはり、祐にはあの魔術がなんなのかは分からないがとてつもなくヤバいということだけは分かった。

誠は先程の攻撃のダメージが残っているのか動けない。

ゆっくりとその球体は誠に近づいていく。

先程の攻撃力から考えるにあのままでは間違いなく誠は死ぬだろう。

「自分がだし惜しむせいで誰かが死ぬなんて二度とゴメンなんだよ!」

地を蹴り誠と球体の間に割って入る。

刀を地面に刺す。そして、とある魔術を起動するために集中力を高める。

「逃げろ、巻き込まれるぞ!」

誠が後ろから言ってくるが反応している余裕が無い。

球体が祐に当たる直前になるまで魔術に集中していた恵梨香が叫ぶ。

「…………ッ!祐!逃げてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

誠の忠告も恵梨香の叫びも祐には聞こえない。

これを使うのは久しぶりだ、だけど覚えてる。体が、心が。

「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

祐の咆哮と球体がぶつかる。

その瞬間辺りが闇一色に染まる。

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