訓練前
訓練場では様々な戦闘を経験できるように街中、山中、砂漠、様々な場所に訓練場が変わる魔術が施されている。
さらに外側には観戦席まで備えられていて観戦席には攻撃が効かないように防御魔術を何重にも付与してある。
「これは、凄い」
御門が漏らした言葉はここにいる全ての生徒達の考えていることを代弁したものだった。
訓練場が使えるのは高等部2年からという規則があるため今回初めて訓練場に足を踏み入れたのだ。
「はいはい、皆さんこっち向いてくださ〜い!」
山田先生が大きな声を出して生徒たちの意識を自分に向ける。
「今から対人戦闘訓練を始めます。ここは知っての通り様々な戦闘を経験できるようになってますが今回は街中で統一しますね。今回のルールは2人1組のチームで二人が降参表示をしたら勝ちです。戦闘の順番ですがトーナメント方式を使用します。優勝ペアには学院長から学食1ヶ月分をプレゼントしますよ。では、組み合わせを決めるのでペアを教えに来てください」
この学院では生徒たちの意欲をあげるべく様々な制度が導入されている。
今回のように授業での戦闘訓練で優秀な成績をおさめた者に特別な報酬を渡すなどしている。
話が終わるといっせいに既にペアを決めていた人達がぞろぞろと山田先生にペアの相手を伝えに行く。
「混んでるみたいだから僕一人で行ってくるよ、僕が行ってくるよ」
「おう」
人混みの中に消えていく御門を見送ったかと思うと後ろから誰かが話しかけてくる。
「師子堂君ではないか、三千院君は先生の元へ行っているのかな?」
声の発生源を見るとそこには龍ケ崎誠がいた。
「そうそう、私は彼と組むんだ」
誠の右に視線をやると1人の男子生徒がいた。
橋ヶ谷隼樹、学年順位は六位。祐にとっては誠の金魚のフンのような認識だ。
「そうか」
「君たちが僕の1番の障害になると思っているよ」
「あぁ、ありがとう」
「一応言っておくが手は抜かないでくれよ?」
「当たり前だろ、抜く理由がない」
「終わってから本気を出してないだの、言い訳をされても困るのでね」
誠のもの言いに少し腹が立つが今は抑える。
ぶつける時は戦う時、そう決めている。
「よろしく頼むよ」
誠が差し出してきた手を握る。
握りあった瞬間お互いに力強く、普通の人なら痛いと言って反射的に手を離すレベルで握り合う。
顔は笑っているがお互い目は笑っていない。
理由はわからないが誠は桜が亡くなってからというもの、祐の神経を逆撫でするような言動をしてくる。
このまま睨み合ってても何も始まらないので、先生の近くの生徒がまばらになってきたのを見て祐は助言をしてやる。
「登録、行かなくていいのか」
「あぁ、助言ありがとう。では、健闘を祈っているよ」
胸糞悪い気持ちで誠を見送った。