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ミドルフェイズ6&7-1


 ナツキは続けてUGNのデータベースから、FHエージェントの情報を調べることにした。各地で活動が確認されているFHエージェントについて、判明している情報が共有のためにデータベースにまとめられているのだ。

 病院を襲撃した“バンダースナッチ”というFHエージェントとは、おそらくこれからも戦うことになる。そこで、何か有益な情報はないかと。

 “バンダースナッチ”は危険だと有名なエージェントなだけあり、詳しい情報はすぐに見つかった。


 FHエージェント、“バンダースナッチ”。本名は千木良明仁。ブラム=ストーカーのオーヴァードで、血液を操って従者を作り上げ、その従者を操る集団戦を得意とするそうだ。

 彼は元々、UGNに所属していたエージェントだったが、なんとUGNを裏切ってFHに加わったらしい。命令違反を繰り返しUGN上層部から再三の警告を受けていたのだが、半年前にUGNの研究所を壊滅させて逃走。以後、FHエージェントとしての活動が確認されている。

 バンダースナッチが壊滅させたのは、永見親子がいた研究施設だ。

 そのことからおそらく、昴を殺した犯人もバンダースナッチだと思われる。すなわち彼はジバシが探す復讐の対象かもしれないのだ。


「なるほど……」


 そうしてナツキの調査も一段落ついたそのとき、ナツキの携帯が震えた。画面に表示される相手はジバシだ。

 ナツキが携帯を耳元にあてると、ジバシの焦った声がスピーカーを通して聞こえた。


「支部長、病院に襲撃が!」


 それはなんと、ジバシからの救援要請だった。昴も入院しているUGNの病院に、またしてもFHの襲撃がきたのだ。今度は多くのFH構成員もいて、病院に駐留するUGNエージェント総出で迎撃をしているが、厳しい状況だということが伝えられる。

 ナツキは冷静にジバシへと、自分たちが駆けつけるまで何とか応戦するよう指示を出した。そして自分もまた椅子から立ち上がり、すぐに準備を整えてUGNの支部を飛び出した。

 さらに、今は自宅で待機しているイリーガルの八部江にも連絡する。


「休暇は終わりだそうだ。八部江、来い!」

「分かりました、支部長!」


 ナツキから連絡を受け、八部江も家を飛び出した。




 道中で合流した八部江とナツキが病院に駆けつける頃には、既に激しい戦闘が展開されていた。今回の襲撃ではFHの戦闘員も大勢いるようでUGNのエージェントが必死に応戦している。

 また、その中にはFHと戦っているジバシの姿もあった。日本刀を振るい、FHの構成員を倒している。


「ジバシ、無事か!」

「支部長、助かります!」


 三人が無事に合流した。ナツキはUGNのエージェント達にすぐさま指示を飛ばし、また、八部江もFHとの戦いに加わる。

 するとFHの中に見覚えのある男の姿があった。FHエージェント、“バンダースナッチ”だ。彼は既に従者を連れており、他のUGNエージェントへと攻撃を仕掛けている。


「どうした、UGN? もっと抵抗してくれないと面白くないぜぇ?」


 嗜虐的な笑みを浮かべており、その凶相に一層の恐ろしさがあった。

 強力なFHエージェントである“バンダースナッチ”の相手を引き受けるため、ナツキたちはバンダースナッチの前に飛び出した。

 現れたジバシ達を見て、バンダースナッチは短く舌打ちをする。


「チッ、やっぱり来やがったか。まぁいい、少しは面白くなってきたぜ!」


 牙を剥くように口の端を吊り上げ、バンダースナッチは凶悪な笑みを深める。しかしその凄みに怯むことなく、ジバシはバンダースナッチを睨み返した。

 すると、バンダースナッチはフッと表情を崩し、むしろ小馬鹿にしたような嘲笑を浮かべる。


「しっかし、テメェらも物好きな奴だよな。何であんな奴を守ろうとするんだ? 所詮、死んだ人間に擬態したバケモノだっていうのによ」


 悪意を含んだその言葉に、ジバシは反射的に叫んだ。


「黙れ!」


 しかし、バンダースナッチは悪意をもって言葉を紡ぐ。



「お前が守ろうとしている、永見昴って女は半年前に死んだんだ。FHに入るための手土産として、あいつが居た研究所をぶっ潰したのは俺なんだからな。間違いねぇよ」



 その言葉に、ジバシは呆然とした。

 バンダースナッチの口から語られた真実は、ナツキが調べた情報と一致していた。

 UGNの研究所を襲った犯人は“バンダースナッチ”。すなわち昴を殺害した赤いバケモノとは、バンダースナッチの作り出した従者のことだったのだ。

 目の前の男が昴の仇だとこれではっきりした。

 ジバシの怒りに、復讐心に応えるように彼の中のレネゲイド反応が高まってゆく。ギリリと口を噛みしめ、血が滲むほど強く日本刀の柄を握りしめている。

 今にも斬りかかりそうな、そんなジバシの様子にもバンダースナッチは怯まない。それどころか黒い感情をあらわにするジバシを愉快そうに見つめ、よりいっそう彼の怒りに油を注ぐ。


「今のあいつは所詮、偽物だ。永見孝三が研究の中で偶然生み出したレネゲイドビーイングって奴だ。そいつが、永見孝三の記憶を頼りに擬態しているだけなのさ。あの女の記憶には、欠陥があるはずだ。……その原因は簡単だ。『永見昴』本人じゃなく、『永見昴』のことを知っている周りの人間の記憶を元に擬態しているから、不完全な記憶しかないのさ。それでもどうやら本人は、永見孝三の娘だって完璧に思い込んでいるみたいで、自分がレネゲイドビーイングだってことすら忘れているみたいだがな」


 心底愉快そうに、邪悪に満ちた笑い声をあげる。


「それに、永見孝三も大概な奴だったよ。あのバケモノを本物の娘扱いしていたな。笑えるだろ? 痛い目に遭わせてやったが、何も詳しいことは話さなかった。結局死んじまって、永遠に黙ることになっちまったがなぁ」

「……確かに昴とは違うかもしれない。けど……!」


 そのとき。ジバシの背後でガタリと物音が鳴った。その音にジバシを含めた三人が振り返る。



「そんな、あたしが、偽物……? 嘘……!」



 そこに居たのは、青ざめた表情で立ち尽くす永見昴だった。病院への襲撃を受け、おそらく病室から抜け出してしまったのだろう。

 尋常ではないその様子から今のバンダースナッチの言葉はしっかりと彼女にも聞かれてしまったのだと分かる。

 最悪の事態に、ジバシは咄嗟に頭が真っ白になった。

 昴は頭を抱え、苦しそうな呻き声を上げながらうずくまる。


「いいや、あんたは昴だ! あんたが昴なんだっ!」


 八部江がその昴に声をかけながら駆け寄ろうとした。だが、昴は頭を抱えたまま悲鳴を上げる。

 すぐに彼女の体に異変が起きた。

 悲鳴を上げる昴の体から、突如として血が流れ始めたのだ。何か攻撃でもされたのかと八部江やナツキが驚き、慌てて駆け寄ろうとしてその足が止まる。

 彼女の体から流れ出た血が勝手に動き始めたのだ。そして徐々に形取られてゆく。それは血液で作られた巨大な狼へと変化した。

 その様子をみていたバンダースナッチが大声で笑い始めた。


「ははっ! まさか、俺の能力を取り込んだのか!? 他人の記憶を頼りに擬態し、さらに能力まで取り込む、そんなことが本当に出来るなんてなぁ!」


 昴の生み出した赤いバケモノが高らかに吠える。それはバンダースナッチの生み出した従者と全く同じものだった。


「こいつは上手く弄ってやれば、全シンドロームを操れる最強のバケモノに出来るかもしれない! あぁ、たまらなく欲しいぜぇ!」


 バンダースナッチの瞳に狂気が宿る。

 昴は悲鳴を上げ、どこかへと逃げるように走り出してしまった。ナツキが追いかけようとするが、その行く手を阻むように昴が生み出した狼が立ちふさがる。

 バンダースナッチもまた、逃げ出した昴を追いかけようと動き出す。


「この距離、俺なら届く!」


 逃がすわけにはいかないと、ジバシがその神速を活かし僅か一瞬でバンダースナッチとの距離を詰め、背中を日本刀で切り裂いた。

 だが前回バンダースナッチが襲撃してきたときと同じく、これもまた偽物だったらしい。血液の塊へと戻り、ばしゃりと地面に赤い模様を作るだけとなった。

 偽物だったバンダースナッチを無視し、ジバシはすぐに昴を追いかけようとする。

 だがジバシの行く手をバンダースナッチが生み出した方の狼が阻む。その間に駆け出した昴の姿は見えなくなってしまった。

 ジバシは舌打ちをする。昴を追いかけるにしても、まずはこの邪魔な狼二匹をどうにかしなければならない。

 ジバシ、ナツキ、八部江の三人は互いに視線を交わすと、狼に向き直り構える。

 二匹の狼が威嚇するよう吠え、戦いが始まった。


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