ミドルフェイズ3
病院がFHエージェント”バンダースナッチ”からの襲撃を受けた後、ジバシ達三人は一度UGNのN市支部へと戻ってきていた。
FHからの襲撃を受けた今、すぐにでも対策と情報収集を行う必要がある。
「その、さっきの病室にいた女の子。師匠の娘さんなんですよね。俺、あの子のことを詳しく知らないんですけど」
八部江はおずおずと切り出した。彼は永見孝三とは面識があったが、その娘である昴とは関わりが無かったのだ。
「そうだな。きっとまたFHは彼女を狙って襲撃してくる。保護対象のことを詳しく知っておいた方が良いだろう。私も、彼女の人となりを詳しく知っているわけではないがね」
ナツキは八部江に昴のことを話す。
「永見孝三の娘であり、彼女自身もオーヴァードだった。シンドロームはブラックドッグとサラマンダーのクロスブリードであり、父親が働くUGNの研究所でレネゲイドコントロールの訓練を受けていた。しかし、八部江も知る研究所の襲撃事件の際、死亡しているはずだ」
「それは……」
そのことは八部江も知っていた。娘の死を悼む、師匠の後ろ姿が鮮明に思い出される。
「彼女がどのように蘇ったのかは分からない。ただ、彼女が“バンダースナッチ”から狙われていることは間違いないだろう。それから、父親である永見孝三氏のことも、少し聞いた話がある。先日死亡が確認された孝三氏だが、どうやら彼を殺害したのも“バンダースナッチ”のようだ。孝三氏の研究内容を渡すよう脅迫したが、それを拒否したために殺害されたのではないか、というのがUGN内部での見解でね。“バンダースナッチ”が今は昴さんを狙っていることから、もしかしたら孝三氏の研究が何か関わっているのかもしれない」
「孝三氏の研究か……。支部長、確かUGNのデータベースに主だった研究データがまとめてありますよね? 俺が孝三氏の研究データがないか、調べて見ます」
「ああ、頼むよジバシ。私も手伝う」
目的が決まり、二人は立ち上がった。
「俺に何か出来ることはありますか?」
八部江の申し出にナツキは少し逡巡し、
「そうだな……。今は家で体を休め、万全の状態にしていてほしい。有事の際は、君の力も頼りにさせてもらう」
「分かりました」
情報収集という面では一介の高校生である八部江はUGN所属の二人に比べて少し劣ってしまう。とはいえ、八部江自身も街中で何か怪しげな噂などがないか調べてみるつもりだった。
「八部江君、さようなら。また明日」
「さようなら」
八部江はナツキとジバシに頭を下げ、支部長室を後にした。
八部江を送り出したあと、ジバシとナツキの二人はUGNのデータベースを漁りはじめる。二人で協力してデータベースを調べていると、永見孝三の研究内容が出てきた。
「支部長、これじゃないですか?」
「ああ、これだな」
研究レポートのさわりだけを見ると、どうやら永見孝三は半年前の昴の死後、レネゲイドを利用した死者の復活についての研究をしていたようだった。
半年前に死んだはずの昴がこうして蘇っている以上、おそらくこの研究成果が実ったのだろう。
二人が研究レポートの詳細を確認しようとしたとき、ナツキのポケットが震えた。
携帯を取り出し届いたメールを確認する。
「……ジバシ。昴さんが目を覚ましたそうだよ」
襲撃のいざこざで再び眠っていた昴が意識を取り戻したとの報告だった。
ジバシの表情が変わる。ナツキはフッと表情を崩した。
「ジバシ。昴さんに会いに行ってくるといい」
「しかし……」
「どうせ、昴さんにも話を聞かないといけない。だったら彼女と親しかったお前が行くのがいいだろう。幸い、孝三氏の研究内容も見つかったんだ。こっちの調査は私に任せて、お前は昴さんから話を聞いてきてくれ」
ナツキは適当な理由をつけて、ジバシを送り出そうとする。
ジバシは平静を保とうと努めているが、昴と話したいことは沢山あるのだろう。特に昴が死んでしまってからのジバシの荒れた様子を知るナツキとしては、ジバシと昴を一緒に過ごさせることで、彼の中の何かが良い方向に変わるのではないかと期待していた。
ジバシもナツキの気遣いを感じ取り、黙って頭を下げて部屋を出て行く。
一人になったナツキは再び、PCの画面へと向き直った。
・オーヴァード
レネゲイドウイルスによって超能力に目覚めた人のこと。
・ブラックドッグ
電気を操るシンドローム。作者のお気に入りシンドローム。