第一編 第2話 急展開
その日は、朝から雨が降っていてジメジメとして気持ちの悪い朝であった。
妹大好きな良太は今日もいつも通りの日々を送る。
「おはよう、咲良。」
「気安く話しかけないでよ、気持ち悪い。」
「あはははは…」
これが毎日のやりとりである。
良太は過去に調子に乗って咲良に告白してからというもの、ずっとこの状態なのである。
「大体あんたみたいな人間がこの私の兄だなんて、、気持ち悪い。」
「あはははは…」
「笑ってばかりじゃなくて何か反論すればいいじゃない。反論すらできないだなんて、、気持ち悪い。」
咲良は中3で受験期に突入したこともあり、機嫌があまりよろしくないようである。
ただこの二人は、また地域では有名な完璧兄弟であった。良太は成績優秀、運動神経抜群であり、咲良は海外の高校から推薦が来ているほどであった。
彼らの性格を知らないものは皆が彼らを羨ましがるであろう。
そんなこんなで、良太の1日は今日も始まった。
「良太?どうしたの?浮かない顔してるけど」
こちらも美少女、幼なじみの夕美が話しかけてきた。
「すこし落ち込むことがあってな、お前には関係ないよ」
「そんなことない!良太は私の大切な幼なじみだよ!何かあったらなんでも相談してっていっつも言ってるじゃん!」
夕美は口を尖らせて怒る。
「わかったわかったって。」
このままだとめんどくさいことになりそうなので、とりあえず謝っておく良太。
「じゃあ相談して?ね?」
「いやでもなぁ…」
「相談してくれなきゃ泣いちゃうよ?
良太は女の子泣かしてもいいの?」
「分かった分かったからこんな大通りで泣くことだけはやめてくれ。」
「ふっふー。じゃあ私に相談しなさい?」
めんどくさい、そう良太は思った。
彼女、夕美は学校ではおとなしく美しいと評判なのだが、本当の中身はこれだ。
良太が妹を好きになった原因のすこしは
こいつの本当の性格を知ってしまったことにあるのでは、とも思った。
ともあれ、良太はなんとか学校までごまかしながらたどり着いた。
学校へ着くと、いつも通り佐倉誠が席についている。
彼女はいつも朝早くから学校に来て、何かを熱心に読み込んでいる。
良太はあの不思議なことを言われた日から、二ヶ月近く彼女と話していない。
厳密にいうと、ペアワークの時などは話しているが、私情で話しかけたりはしていない。
今日もまた何も話さないまま、朝礼が始まろうとしていたその時だった。
「あなた、電脳世界って信じる?」
不意に佐倉誠が話しかけて来た。
「なんだ急に。」
良太は驚きを隠せなかった。
彼女はいきなり説明を始めた。
「そもそも電脳とは中国語でコンピュータのことを指すの。多くの情報を処理し、ネットワークを通じて情報を公開する。オンラインゲームならあなたもしたことくらいならあるはずよ。あれもコンピュータを使いネットワークを通じて多くの人と繋がることができるわよね。」
いきなりすぎて良太はしばらく理解ができなかった。内容もそうだが、なぜ彼女がいきなりこんなことを話し出したのかも、わからなかった。
「私たちは電脳と人間の脳をリンク、つまりくっつけることに成功したの。それによって人間の処理力の多大なる増幅をしたり、日常ではあり得ない体験をしたり、さらには人間の脳をデータで管理することすらできるようになったのよ。」
彼女は冷静かつ淡々とその言葉を述べた。
良太はただそれを黙って聞いていた。
「いまは理解できなくてもいいわ。
そのうちきっと理解できる日が来るわ。」
彼女はそういうと、ぼそぼそと何かつぶやき、教室出て行った。
「お、おい!」
良太は慌ててそれを制止しようと廊下に出たが、
その時、
「おれは、何をしていたんだっけ。」
良太はその日も、1日をいつも通り過ごし、家に帰った。
二週間ほどだった日のことである。
その日も良太はいつも通りの1日を過ごし、家に帰った。そんな時に事件は起きた。
「咲良がいない??」
夜の10時を回っているのに、咲良がまだ家に帰って来ていないことを親から聞き、良太は取り乱した。これは一大事だと、家族総出で探したがどこにも見つからなかった。
警察にも届けたが、そうそう見つからず、ついに夜が明けた。良太は不眠不休で探した。
さすがに親からも止められ、一時は休んだ良太だったが、すぐにまた探し始めた。
ずっと咲良のことを考えていた。
彼は一度、幼なじみに連絡を取ろうとしたが、電話をかけようとした時に、彼女は存在が消滅したので、彼の記憶から消え、電話はされていない。
そこらじゅうを探し、ついに良太は咲良が廃屋の中でうずくまっているのを見つけた。
「どうしてこんなところにいるんだ。」
良太は尋ねた。
「あんたには関係ないでしょ。」
咲良は相変わらずの強気だが、その声は弱々しかった。
「どうしてだ」
「関係ないでしょ!」
「関係ある!おれはお前の兄で、お前のことが好きなんだ!それ以外の理由があるか!」
良太は怒鳴っていた。
咲良は今にも泣きそうな顔をしている。
「もう嫌なのよ。何もかもが。」
「何があったんだ。おれがなんでも解決してやる。」
良太は優しさのこもった声で言った。
咲良は消え入りそうな声で、ポツポツと話し始めた。
その内容は必要ないので載せないが、それで良太は納得をした。
「おれがお前を守ってやる。だから泣くな、咲良。」
「だから気持ち悪いんだってば、、、」
咲良は泣きながら良太の胸に飛び込んだ。
そして小さく呟いた。
「ありがとう、お兄ちゃん。大好き。」
その瞬間あたりが光に包まれけたたましいファンフーレとともに、この文字が浮かんでいた。
Game cleared!